第八話
「おはようである、桐生嬢。ほれ、昨夜に頂いたハンカチーフを返却するのである」
「おはようございます。それは差し上げますわ、友好の印とでもお考え下さい」
「その様な訳には行かぬ。私は桐生嬢のおこぼれを頂戴するために友人になったわけではないのであるぞ」
「私がティッシュ紙を浪費する姿を見て声をかけてきたのはどこの誰でございましたっけ?」
「さて、何のことだか存じ上げないのである」
「ほーら百円札でございますよー」
「わーい……は、しまった!」
八木節祭りを終え、私たちは学問の日常へと帰ってきたのである。
前の座席にいる桐生嬢へ挨拶を済ませ、自分の席に着くと、驚愕に目を見開いた最長不倒と目が合った。
「どうしたのである最長女史。まるで群馬が日本を征服したみたいな表情であるぞ」
「いや、これは群馬が栃木に征服されたみたいな表情である」
「一大事ではないか!」
私は最長不倒に桐生八木節祭りの夜に起きた出来事の詳細を説明したのである。踊り子の使命を放棄し、森林限界を残して吾妻山を登ったこと。そして吾妻山の中腹にあるトンビ岩にて、独りトランペットを吹く桐生嬢に出逢ったこと。そして――
「――そんなこんなで、我らは友人と相成ったのである」
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