第5話
そして迎えましたるは桐生八木節祭り。当日でございます。桐生市に住む者が一堂に会する様は必見、あまりにも参加者が多いため臨時列車が運行し、なんと驚くべきことに、車掌が車内を廻って乗客一人ひとりから運賃を受け取るのです! え、群馬県にはICカードも普及していないのかって? ……そもそも群馬には切符売り場すらないのですよ?
「お待たせである」
「おや、髪留めスター。遅いのです」
「すまぬのだ。準備に手間取ってしまったのである」
「浴衣なぞ着るからです」
カラコロと可愛らしい足音を響かせて登場した辺りから嫌な予感はしておりましたが、我が友人の髪留めスターは、そのすらりとした長身に何とも和風な服をまとわせていたのでございます。代々我が家では洋服で桐生祭りを迎えるため、浴衣に深い造詣などございませんが、まあ、青っぽく涼しげな色の浴衣を彼女は用意していたのです。
「ど、どうであろうか、果たしてリボンちゃんは吾輩にときめいてくれるであろうか」
「それは神とリボンちゃんのみぞ知るところです」
吹奏楽のパレードを終え、私はデカデカリボンちゃんの出場するダンスフェスティバルまでを髪留めスターと共に過ごすことにしたのです。髪留めスターは本日も星を模した髪留めをつけておりました。しかも彼女は長身ですので、いざはぐれようと人込みから彼女を見つけ出すのは容易いというものです。
延べ三キロメートルにもなろう出店街道を我々は往きます。そしてその先々で私たちは新旧の知り合いを発見するのです。桐生祭りの醍醐味はむしろここにあると言えるやもしれません。小学校時代の友人、中学校時代の友人、教師、吹奏楽が縁で知り合った方々など、その遭遇確立の高さに私たちは息つく暇もありません。
「おや、あれはスカート折り子ではござらぬか?」
十メートルほど離れた所にスカート折り子さんの姿を私たちは認めました。折り子さんもまた浴衣をまとっております。んがしかし、
「なんと破廉恥な!」
今日の折り子さんは平生とは違いました。普段は風に遊ばせておくだけの黒髪を結い上げ、うなじから鎖骨にかけての色と形とを扇情し、異様に短い裾からは膝小僧を覗かせておるのです! 果実のようなその体からは若さがジュワリと滲み出ておりました。
「眩しいのであります! あれが年頃の乙女というものでございますか」
私は両目を手で塞ぎながら感嘆します。
「あやつは今年も男漁りに励むというのか……」
「人生を楽しんでおられるようで何よりです」
こうして、楽しいばかりのお祭りの時間は過ぎてゆきました。振り返ってみれば、私がまさか数時間後に泣き崩れる運命にあるだなんて、この時の私は想像だにしていなかったのです。
そしてフェスティバル。
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