第6話
昨年はかき氷の食べ過ぎで棄権を余儀なくされたデカデカリボンちゃんは、今年は今年で水分補給を躊躇してあわや脱水症状かというひと悶着を生み出したそうですが、それでも、彼女のダンスはそれはもう見事なものでした。ため息が漏れると言いますか、思わず息を忘れてしまうほどの熱狂をリボンちゃんは私たちに授けてくれたのです。
「う、うう……えぐぅ」
「泣かないでくださいリボンちゃん」
本町通りから少し西に離れた新川公園。そこの広場に設けられた特設ステージこそが、ダンスフェスティバルの会場でありました。
毎度おなじみ同窓会長は、代表挨拶でまたもわが校の自由を象徴する校訓の、その由来について話されております。何でもそれは一生徒が考案したものであるとかないとか。
そのような話を右耳から左耳へ素通りさせながら、私はリボンちゃんの背をゆっくりと撫でているところでした。大粒の熱き涙と汗をその身に受けながら、私はリボンちゃんに抱きつかれていたのです。髪留めスターが恨めしそうにこちらを見ていて少々居心地が悪いですが、致し方ありません。
「とても素晴らしいダンスであったのです。今でもドキドキが止まらないのであります」
トランペットならばまだしも、ダンスの良し悪しについての審美眼など私は持ち合わせておりませんでしたが、しかし、これは私の心からの言葉でございました。本心です。
「ですから……たとえ結果が銀賞であろうとも、何ら恥じることはないのです」
私を抱きしめる腕により一層力が込められ、リボンちゃんの嗚咽がひときわ大きなものとなりました。
そう、リボンちゃんは、昨年からの目標をついに達成できなかったのです。最も光り輝く賞は桐生高校ダンス部ではなく、桐生市外の私立高校の手に渡りました。
「吾輩は悔しいのである……悔しくて悔しくて仕方がないのである!」
「リボンちゃん……」
映えある金賞の栄誉を獲得した私立高校は、いわゆるマンモス校でありました。その潤沢なる資金力でもって内外から有力な生徒を集め、毎年のように文武の両方において華々しい活躍を遂げている有名校です。噂によると、彼らのチームには既にプロとして活躍するダンサーや、果ては専属の振付師まで所属しているとか。
「相手がどうであったかなど関係ないのである……吾輩は、最後にみんなと最高の踊りをして、最高の結果で、受験を迎えたかったのである」
「……」
リボンちゃんの言葉に、私は何も返すことが出来ませんでした。胸がキュウと締め付けられ、目頭が熱くなって視界が滲み出したのです。
「悔しくて、死にそうである……!」
くずおれるような形で、リボンちゃんは新川公園の芝生の上にうずくまったのです。
彼女の嗚咽は、金賞に輝いたマンモス校のアンコールダンスによって、かき消されました。
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