第12話

 季節は巡り、冬。いよいよ受験シーズンの到来で、最近は自由登校のためにクラスメートとも中々顔を合わせられません。

「ん、何だ、吾輩と一緒では不満であるか?」

「もう、からかわないでください。そんなことは言っておりませんでしょう、折り子さん」

「汝こそからかうでない。この冬の季節、もはや吾輩はスカートなど折ってはおらぬ」

「ほう、感心であります。では何とお呼びしましょう」

「今の吾輩は夏服スカートちゃんである」

「聞くからに寒いのであります! 夏服でも冬服でもスカート丈は変わらないでしょう!?」

「いやいや、夏服スカートはこうして太陽の光に透かすと脚の形がうっすらと……」

「そんなことのためだけに夏服スカートちゃんは寒さを我慢するというのですか!」

「いや、吾輩は推薦なのでな、やはり校則は破りがたいのである……」

「ああ、それで校則を破らないギリギリの攻め方として、夏服スカートを引っ張り出してきたというわけでありますか……悲しき抵抗です」

「何だとお!」

 折り……夏服スカートちゃんは、早々に推薦で東京の大学へ進学することを決めてしまったのです。ですので推薦の取り消しを防ぐために、あまり模範的でない行動を取ることが出来ないのです。そしてまた彼女は受験勉強をする必要もなく、暇なのか最近はよく私と行動を共にしているのでした。

「汝だって受験勉強はしていないであろう。最近はトランペットを吹いてばかりではないか」

 夏服スカートちゃんはふて腐れた表情で抗議します。確かにここは音楽室で、私の手にはトランペットがありました。私はついさっきまでトランペットの練習を重ねていたのです。

「いいのです、これが私の受験勉強なのですから」

「現実逃避はいけないのであるぞ?」

「そうではなくて! ……私は音大へ進学するのです」

「うん? トランペットは趣味で吹ければ良いのではなかったか? 音大へ行ってどうするというのであるか?」

「それは決まっています。私は――」

 あの祭りの夜以来、私には様々な目標や夢が出来上がりました。リボンちゃんのように何か一つの物事に真剣に取り組める人になりたいし、桐生嬢さんのように感動的なトランペットを演奏したくなったのです。

 それ以来、私は桐生嬢さんのCDを常に傍に置いて、ずっとトランペットを吹き続けてきました。そこに「未来が分からなあああい」と急に叫びだしていた頃の私はもういなかったのです。ありがたくも、周囲の吹奏楽関係者の皆さんは私の演奏を次第に褒めてくれるようになりました。

 だから私は、親や学校の意向ではなく、あの祭りの夜の出来事や祖母と桐生嬢さんとの話を通じて、私自身がきちんと自分の意思でこうありたいと願い、そして抱いた夢を、自慢げに宣言したのです。

「私は、トランペット奏者になりたいのです!」

 ですからこれは、私が夢を抱くまでの、物語。

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鳴り響けトランペット 桜人 @sakurairakusa

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