第四話
「嫌であるううう吾輩は大人しくお祭りを楽しむのであるううう!」
「ええい、やかましい! 町長どもに見つかってしまうではないか」
「山登りなどしたくないのであるううう!」
本日は全国に名高い桐生八木節祭りの日であった。桐生市民は揃いの支度で八木節音頭、それぞれ一家ごとに代々踊り子や楽器奏者などの役割が与えられており、必然、参加は半強制のものであった。
そしてその夜、私は踊り本番のさなか、卑しくも抜け出そうとしていたのである。
「聞くところによると、吾妻の山から望む桐生の街はまさしく絶景! 蝋や焚き木の燃ゆる炎、その一つ一つが宝石のように煌めくさまを森林女史は見たくないと言うか!」
吾妻山とは、桐生市の北に位置する標高五〇〇米足らずの小さな山である。比較的容易に登ることができ、山頂やトンビ岩なる名所からは桐生市街を一望できるのだ。
つまりは関東平野の終端、足尾山地の始まりである。
「それは確かに見たいが、踊り子として普通にお祭りを楽しむという選択肢もあろう!」
幼少の頃より共に踊り子の役を負ってきた森林限界はどうやら乗り気ではないようで、衣装を引っ張ろうとも梃のように動かぬ。元来気の弱い性格ではあったが、中々どうして意地のある面も見せる女史であった。
「そもそも何故吾輩を誘う! 一人で行けば良かろう!」
「だって一人は寂しいではないか!」
「乙女か!」
「私はれっきとした乙女である!」
「『それと一人では夜の山が怖いから』とはよもや続けないであろうな!」
「……」
「乙女か!」
「乙女で何が悪い!」
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