第十話

 また、桐生嬢は大変なおマセさんであった。私も以前は自身を中々に博識な人物であると認識しておったが、桐生嬢によって、私はただの純情可憐な田舎娘に過ぎなかったと認識を改めさせられたのである。

 よく厳格であると噂される桐生家の現当主が留守である隙をついて、私は度々桐生嬢の部屋へお邪魔していたが、彼女の部屋はそれはもう数え切れぬほどの雑誌に彩られていた。

「こ、これが『雑誌』というものであるか!」

「執事に購入させているの」

 当時、雑誌などというものは低俗で下劣、不埒で破廉恥、はしたなきものの筆頭であった。女学生が閲覧、ましてや購読しようなどと世間様に知られたら――想像するだけで怖気が走るのである。

「おお……ああ……いやぁ」

「もっとすごい雑誌もありますよ」

「っ、これより、すごい……だと」

「ご覧になりますか?」

「え、ああ……それは……是非もなし」

「変態」

「桐生嬢にだけは言われたくないのである!」

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