二十踏 極刑
タイヤー達は疲れ果てて、置きっぱなしだったテントに戻ると死んだように眠りにつく。
狭いテントの中、四人は身を寄せ合うように。
結局、次に目を覚ました時には翌朝になっていた。
黙々とテントを片付けると、タイヤー達は帰宅の途につく。首都レバティンに到着するまでの道のり、必要なこと以外は誰も言葉を発しなかった。
レバティンに到着したタイヤー達は、そのまま学園に戻る。
力無く肩を落としたタイヤー達を見た他の生徒は、何か遭ったのかと察して、ざわざわと騒ぎ出す。
卒業試験の結果を、タイヤー達は卒業試験担当の先生に報告をする。
現れたダンジョンのこと、ミストドラゴンのこと、自分達以外全滅したことを。
「そ、それで、ミストドラゴンはどうなったのだ!?」
「それは……」
タイヤーは言いにくそうに口ごもる。
先生としては、すぐに国に報告をしなくてはならない事案で焦り、急かせる。
「ミストドラゴンは、死にました。やったのは……魔人族です」
ミストドラゴンの遺体は、そのままだ。死んだことは、現場に向かえばわかること、自分達が倒したと嘘を付いても相手がミストドラゴンである以上、すぐに嘘だとバレる。
何よりタイヤーの頭の中には、ビラド達先輩方を一日でも早く埋葬してやりたい。たとえ遺体が残っていなくても。
「ま、魔人族? わ、わかった。今日は寮でゆっくり休みなさい」
タイヤー達が職員室から出て行くと、先生達は血相を変えて慌て出す。
そして、その報告は、すぐに国に届けられることに。
王様は勿論のこと、ガーランド伯爵の耳にも。
翌日、タイヤーとリックは何かをするわけでもなく、ベッドの上でただ天井を眺めていた。
外が何か騒がしいなとは思っていてが、まさか自分達が原因であるとは思ってもいない。
扉が壊す勢いで開かれると、多くの兵士が部屋に押し寄せる。そして何も言わせないまま、あっという間にタイヤーは捕縛されて連行されてしまった。
一人部屋に残ったリックは、急ぎ女子寮に向かうとエルとフローラを呼び出して事情を説明する。驚きを隠せないエルとフローラは、リックと共にウッド先生の元へ。
「先生、どういうことですか!? どうして、タイヤーだけが!」
エルの剣幕は凄くウッド先生の胸ぐらを掴みかかるほど。職員室は騒然となるが、フローラも怒りを露にしてリックと共に誰も近づけさせない雰囲気に、他の先生達はたじろぐ。
「ちょ、ちょっと待て。何の話だ」
エルはタイヤーが兵士に連れていかれた事を話すと、先生一同は驚く。どうやら学園側に何の説明もなく、タイヤーを連れて行ったとのことだった。
「くそっ! どうして、タイヤーだけなんだ!!」
リックも側に居ながら急なことに何も出来なかった自分に腹を立てる。
先生達は、どういうことか調べるからと、ひとまずエル達を宥め透かした。
「タイヤーくんは、わたし達を助けてくれたのに……」
フローラはボロボロと大粒の涙をこぼす。
タイヤーがいち早く行き止まりの異変に気づいて動き出さなければ、フローラ達も全滅していた。
タイヤーが、リックが、ゼピュロス相手に堂々と命の取引を持ちかけなければ、ゼピュロスが退くことはなかっただろう。
タイヤーはその身を犠牲にしようとしてまで、フローラやエルを助けようとしてくれたのだ。
しかし、学園側が動いて手に入れた情報は、リック達を愕然とさせるものであった。
──タイヤー・フマレを極刑にする、と。
◇◇◇
リック達は一度は寮に戻ったものの、今度は先生達に呼ばれ職員室に集められタイヤーの極刑が決まったとの報告に、エルやフローラは泣き崩れリックは壁にヒビを入れるほど、強く拳を叩きつける。
「なんで! なんで、タイヤーだけなんだ!」
「どうやらタイヤーが魔人族との関係性を認めたらしい」
「なっ!? そんなことを言ったら俺達だって! いや、そもそもなんだよ、関係性って?」
ウッド先生は、それ以上タイヤーの極刑理由にはわからなかったと、自分達の力の無さを詫びる。
「それともう一つ。今回の決定には、その……ガーランド伯爵が関係しているみたいだ」
「お、お父様が……」
「そもそも、卒業試験にお前達を参加させる様に言ってきたのもガーランド伯爵なんだ。ただ勘違いして欲しくないのは、決定したのは俺達学園側だ。お前達なら、そう思ってな。しかし、まさかこんな事になるとは……済まない」
ウッド先生が頭を下げると、他の先生達も追随して謝罪をする。
「エルちゃん、何とかならないの……?」
「あの父には、もう何も期待しないわ。タイヤーは、私が助ける!!」
奮起したエルは立ち上がり堂々と宣言すると、続いてフローラもエルの手を握ることで同意を示した。
「よし。それならば我々学園も協力しよう。大事な生徒の危機だ。皆さんもお願いします」
ウッド先生だけでなく、教職員一同と老齢の学園長も賛同するのであった。
ただ一人、リックだけは何も言わない事に興奮覚めやらぬ誰もが気づいていなかった。
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