十踏 スキル

「タイヤーくん、ごめんなさい……」


 フローラは、先生に呼び出され説教された後のタイヤーに頭を下げた。

チームのリーダーとして注意されただけだと、タイヤーはあっけらかんと笑う。


「フローラ。これ以上はタイヤーを困らせるだけよ。その辺にしておきなさい」

「うん……」


 深く反省して落ち込むフローラをタイヤー達は慰め終えた後、解散となった。

寮へ戻ってきたタイヤーとリックは、さっき絡んできた上級生を見つけたが、タイヤー達の姿を見ると、睨みながらも逃げていく。


 寮で一悶着あるかなと思っていたタイヤーであったが、拍子抜けであった。



◇◇◇



 翌日、リックと共にタイヤーが登校すると、既に来ていたクラスメイト達は何処か浮き足だっていた。


「おはよう、フローラ、エル」


 既に来ていたフローラとエルに挨拶を交わすと、早速何事かと事情を尋ねる。


「闘技場が直ったそうよ。今日から使えるって」

「ふーん、それでか」


 今となってはタイヤーには少し興味が失せていた。フィーチャースキルが《麦》だと判明してから一晩が経ち、よくよく冷静になって考えるとタイヤーには、踏んでくれる相手がいないのだ。


 リックは男性だから当然論外。エルも踏みたがらないだろう。

唯一の希望であったフローラだが、昨日の一件もあり自分に対して負い目を抱いている今、お願いしたら断りはしないだろうが、何か無理矢理脅しているようで気まずくなってしまう。

『絶対、親父のようになるものか!(三十七回目)』と、母親を泣かした父親と違い自分は女性を泣かせたりはしないのだと。


「それじゃ、授業後、闘技場に私達も行きましょう。タイヤー、許可申請宜しくね」

「ああ、わかった」


 とはいえ、自分の事よりもエル達のフィーチャースキルがどんなものか気になるタイヤーは、一限目が終わると早速ウッド先生のもとへ。

許可はすんなりと取れ、放課後タイヤー達は揃って闘技場へと向かった。


 入った闘技場には、十メートル四方の四角い舞台がズラリと並び、舞台の隅には四本の柱が立っていた。

管理している先生に早速説明を受ける。


「あの四隅にある柱は、他の舞台に攻撃が飛ばないように結界を張るものなのよ。だから、壊さないでね」


 タイヤー達四人が一つの舞台に上がると、管理の先生が結界を起動させる。

目には見えないが、確かに壁のようなものが出来ていた。


「それじゃ、早速エルからいってみよう。エルのフィーチャースキルは《破壊剣神》だったな」

「ええ。それじゃいくわね。《破壊剣神》起動!!」


 手のひらに刻まれた赤い六芒星を上に向けると、エルの手のひらから光を纏い一振りの大剣が現れる。

熱を帯びたような赤茶色な剣身は、エルの背丈を越える長さと、厚みは無いがエルの体を隠せるくらいに幅広さを持っていて、斬るというより叩き潰すか叩き斬る方が有用な形状をしていた。


「重くないのか、それ」


 タイヤーの質問にエルは首を横に振る。片手で柄を掴み持ち上げたエルは、確かめるように二度、三度振り抜く。


「思っていたより軽いわ」


 エルが持ってみなさいとタイヤーへ手渡すが、タイヤーが持った途端に闘技場の床に剣先が落ちた。


「おおおおお、重い、重いって、エル! 助けて!!」


 タイヤーから再びエルへと渡されると、軽々と持ち上げるエルの姿にフローラとリックはタイヤーが大袈裟に言ったのだと思っていた。


 自分が持って確かめるまでは……。


「くそぅ、凄そうな剣だな。ええい、次だ、次。次、リック行ってみよう!」


 悔しそうなタイヤーは、リックへ話題を移す。


 リックのフィーチャースキルは《絶対領域射撃》。

名前から遠距離であることは読み取れたが、《一定距離で必中》という説明はよく分からなかった。


「《絶対領域射撃》!」


 リックも赤い六芒星を上に向けると、二種類の武器が顕現する。

一つは弓。もう一つは、リックの腕より長いライフル銃。

ただし、弓には矢が無く、銃にも弾がない。


「矢も弾も無いんじゃ、意味がないじゃない」


 リックも予想外で弓をアチコチ触って確かめると、弦を引っ張った途端に光輝く矢が現れた。


「おお。遠距離で一番手痛い弾切れが無いのか!」


 エルはまずは試してみればと、自分の大剣を舞台の端に突き立てて的にする。

リックは五メートル辺りから狙いをつけて射つと、狙ったところへ。

次にわざと大きく外して狙うと、軌道を曲げて狙った場所へ。

皆が感心していると、リックは調子に乗って的との距離を開いていく。

ところが五メートルより外になると途端に外れ始める。


「あ、あれ?」と、最初の場所へ移動すると再び軌道を変えて命中する。


 次は銃だと、上に構えたまま、うっかり引き金を引くと真上に光の弾が飛んでいってしまう。

突然のことにタイヤーは、思わず尻餅をついてしまっていた。

気付けば、他の生徒達もいつの間にかタイヤー達を、流石に直接的ではないが、横目で注視していた。


「危ないだろ! リック!!」


 弾は結界を突き破り、天井すら貫いていた。その威力は大したものであったが、銃は狙いをつけても全く当たらない。

明後日の方角に光の弾は飛んでしまう。


「多分、闘技場が狭いんじゃないか? もっと距離を取らないといけないのでは?」とタイヤーの推測が結論となった。


「それじゃ、フローラいってみよう」


 フローラのフィーチャースキルは《空前絶後》。《十分間無呼吸で動ける》というもの。

フローラには、予測が出来たのだろうエル達と同じように起動すると、その場でパンチや蹴りを繰り出す。それは十分間途切れることは無かった。


「わたしにピッタリなスキル。良かった……」


 安堵するフローラを他所にタイヤーはずっとフローラを見ていた。

フローラの動きは鋭く素早い。避けれる人などそうそう居ない。

ただ、タイヤーは昔から鍛えた動体視力で気づいたのだ。


 動く度に大きく弾む二つの山、ヒラヒラと膝上までのスカートが蹴り上げる度に舞い踊るのを。

気づいたのはタイヤーのみ。他の生徒も見てはいたものの、フローラの体捌きと次々繰り出される動きに見惚れたこともあり、目で追うことすら出来ていなかったのだ。


 一方タイヤーは、一秒たりとも見逃さないように瞬きすらせずに見ていて目が乾燥していた。そして、フローラに気を取られタイヤーは、自分に迫る白魚のような二本の指の接近に気づいていなかった。

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