十二踏 実地訓練

 タイヤー達は、自分達の能力を確認し終えたが、タイヤーのフィーチャースキル『麦』に関しては、今一つ納得していなかった。

スキルの説明では『踏まれる程に強くなる』とある。

確かに動体視力という部分においては強化された。

しかし『踏まれる程』とある以上、何度か続けて踏んでみたにも関わらず、強化にも見た目にも変化は無かったのだ。


「動体視力だけ強化されてもなぁ」


 タイヤーの言う事は最もであった。見えても体がついて来ないのであれば、意味がない。

タイヤー達は揃ってウッド先生に聞いてみようと、職員室へと向かった。


「さぁ、わからんな」


 なんとも頼りにならない先生である。


「お前らも知っていると思うが、この学園の卒業者の中にはフィーチャースキルを悪用し始めた者も出てきている。フィーチャースキル自体は昔からあったが、それはごく一部の人間だけ。

それに他国のフィーチャースキルはレバティン王国で把握していないものも多数ある。

能力に関しては秘密主義が多いのも要因だ。用途や使用方法がわからないフィーチャースキルは結構あるんだよ」


 言い訳のようにも聞こえたタイヤー達だが、ひとまず納得して職員室から出ていく。


「結局、わからなかったね。同じスキルを持った人に聞くしか──あっ、ご免なさい、タイヤーくん……」

「いいよ、フローラ。そ、それよりもさ……こ、今後も踏んでくれるかな」

「え!? あ、うん。勿論チームだもん」


 タイヤーは、少しはにかみながらフローラにお願いすると、フローラもちょっと恥ずかしい質問に照れながら答えた。

エルとリックを放って置いて、二人だけの空間が出来上がる。が、その空間はアッサリ崩壊する。


「私も勿論、遠慮無しに踏んであげるわよ、タイヤー?」


 いつの間にかタイヤーの背後に回っていたエルは、後ろからタイヤーの首根っこを掴むと、締め付けながら片手で持ち上げる。


「はは。コイツらと一緒だと退屈しねぇわ」とリックは、笑い出す。


 もがき苦しむタイヤーを余所に、リックは職員室の前だと邪魔になるからとエルとフローラの背中を押して移動する。


 もちろん、タイヤーは吊るされたまま……。



◇◇◇



「実地訓練?」


 入学から早くも二ヶ月が過ぎようとしていた、ある日。ウッド先生か始業前に教壇の前にチームリーダーが集めると、来月から首都近辺での実地訓練をすると言い出す。


 この二ヶ月は、フィーチャースキルを使った訓練と、遠征などの野外活動の知識などを学ぶのに明け暮れていた。

実地訓練の期間は一週間。

首都近辺の為に、他の街や村には寄らない為、野宿は決定的であった。


 タイヤー達は実戦形式の訓練では無敗を誇っていた。


 タイヤーのフィーチャースキルは相変わらずであったが、エル、フローラ、リックのAランク以上の力は、驚異的であった。

闘技場という狭い空間での四対四。

本来なら入り乱れての戦闘になりがちだが、タイヤー達のチームは隊列をしっかり組んで臨んでいた。


 先頭のフローラはハッシュ流武道拳気という独自の拳技を使い、フィーチャースキル《空前絶後》で、絶え間なく攻撃の手を休めない。


 その後ろにはエルが控える。

《破壊剣神》による大剣を扱い、近中距離を担うのだが、長いリーチと通常の武器より丈夫なはずのフィーチャースキルによって出した相手の武器すら破壊する威力に、相手はエルより後ろに踏み込めない。


 エルの後ろにはタイヤーが控える。

開始前に踏まれておき、強化された動体視力で常に相手と味方の動きを捉え続けて指示を出す。

相手はエルがいる以上、近距離でタイヤーに接近できない為に遠距離で攻撃するのだが、そこそこ距離があればタイヤーの身体能力でも、避けることは難しくない。


 そして最後方にリック。

闘技場の狭さでは銃は扱えず、もっぱら弓になるのだが、当たるのは五メートルという範囲内。

その為、タイヤーの真後ろに常におり、タイヤーの指示でタイヤーとその居場所を入れ替えて矢を放つという戦法であった。


 実戦は問題ないタイヤー達であったが、問題は野外活動の方にあった。

特に料理。タイヤーは、入学前から遠出をしていたのでそこそこ出来るし、リックは王族ではあるものの元は貧しい暮らしをしていた為に野草など詳しく、比較的味に五月蝿いわけではない。


 フローラの料理は、一言で言えば「物足りない」に尽きた。

塩味が足りない、味付けが薄い、甘味が足りない、火の通りが甘い等々、何かが足りない料理をする。

それでも、食べれなくはないため、まだマシである。


 最大の問題はエルの料理。

 見た目がまず問題で、どんな料理も焼き物やサラダすらも何故か鍋にカラフルな色合いになってしまうのだ。赤、青、黄、黒、紫、緑と多種多様。

そして、肝心の味は、一言で言えば「二者択一」。

見た目に反して絶品か見た目通り。

50%の当たりクジ。

Go to heaven or hell。


 気付けばエルの料理の前で「当たりでありますように」と天へ祈ることが、エルを除く三人の恒例行事となっていた。

ちなみにエルは、どんな料理も美味しそうに食べるため、タイヤー達は一時自分達の舌がおかしいのではと疑ったほどである。


 細かな事は、当日に教えると言われてタイヤーは、エル達に伝えに席に戻ると、早速実地訓練の事を説明した。


「実地訓練か。じゃあ料理担当はタイヤーでいいな?」


 リックが先手を打つ。本来なら担当など決めずに各々が持ち回りで担当するのが理想とされていた。担当を決めれば、その者が深手を負ったりしたら非常に不味い。タイヤーが深手を負ってしまえばエルの料理がトドメに成りかねない。

だが、それよりもリックは普段の料理の安全性を図ったのだ。


「わかった、引き受ける。その分、他の事は任せた」


 リックとフローラは力強く頷くが、エルはどこか納得いかない顔をしていた。

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