七踏 チーム
「よし、これで全員言ったな。それじゃ各自席を移動してチーム四人一組で席替えしてくれ」
先生の合図で皆が一斉に立ち上がり移動を始める。最前の席にいたフローラとリックが手招きしていた。
窓際の席とその隣の席で固まるみたいで、タイヤーは荷物を手に取り窓際の席であるフローラの後ろに移動する。
すると着席するや否やお尻に衝撃が走り、恐る恐る振り返ってみると、何故かエルが後ろの席に座っていた。
フローラ、タイヤー、エルの順に席が並ぶ。エルの隣では、他のチームの女子生徒が困った顔をして、オロオロしながらエルの横で突っ立っていた。
「いや、何で俺の後ろに座るんだよ。ほら見ろよ、他のクラスメイトが困っているだろ」
「前に詰めなさい」
タイヤーとエルとでは言語が違うのか、所詮は庶民とお貴族様、会話が通じない。
「いや、だから前にはフローラが……」
「詰めなさい」
睨み付けられ、迫力に負けたタイヤーは大きな溜め息を一つ吐くと、リックの後ろの席へと移動する。
これでいいだろうと呆れながら自分がさっきまで座っていた席を見るが、そこにエルの姿はない。その代わりにタイヤーのお尻に再び衝撃が走る。
「……なんでだよ」
「詰、め、な、さ、い!」
エルは更に一字一句わかるように、ゆっくりとだが言葉の端々に殺気に近いものを込めてくる。
とうとう根負けしたタイヤーは、リックと視線を合わせると再び大きなため息を。
「ええぇぇ……。わかったよ。リック悪いけど」
頭を下げてお願いされたリックは、一言「大変だな」と快く席を譲り、自分はフローラの後ろの席へと移った。
「何故そこまで俺の後ろに──まさか、エルはあの伝説の暗殺者!?」
タイヤーは、子供の頃読んだことのある『オレの背後に立つな』という名台詞を残した暗殺者を思い出す。
しかし、エルには「は? 何言ってるのよ」と一蹴されてしまう。
所詮は物語の中の話、そんな訳がなかった。
フローラとリックの二人は、そんなタイヤーとエルのやり取りを見て笑みが漏れる。タイヤー本人は気づいていなかったが、先程までの死にそうな表情から一変して元気を取り戻していたのだった。
「それじゃ、このチームのリーダーを決めましょう。卒業生には、卒業してもチームそのままで、魔神復活阻止に各地に派遣されている先輩方もいるそうよ」
「エルしかないだろ」と俺の言葉を皮切りに「エルだな」とリックも同意し、フローラも「エルちゃんね」と付け加えた。
満場一致、そう思われたがエル自身は「私はタイヤーを推すわ」と意外な提案をしてくる。
「いや、三対一でエルだろ。そもそも、なんで俺なんだ?」
不満とかいうわけではないと、一応付け加える。それでもタイヤーにはエルが適任だとばかり思っていた。
「私とフローラは近接前衛のタイプのスキルよ。そうでしょ、フローラ?」
「うん、エルちゃんの言う通りだよ」
「リックは遠距離、違う?」
「合ってるな」
「だったら、タイヤー。あなたはどの位置にいることが一番良いかしら?」
流石にタイヤーでも判ること。バランスで言えば中間地点。しかし、その位置はチーム全体を見透し、全体をフォローする人が担うのが定石。
タイヤーのスキルが明確になっていない以上、適任かどうかは判らなかった。
「戦闘中ってことだろ? だったら中間になるか──あ、そういうことか」
消去法。リーダーとなればチーム全体の指示を出す必要があるから後方も確認しなければならず、前衛タイプのエルにとっては負担が大きい。
だとすれば、中間の位置には残ったタイヤーを据えるのが妥当なのだろうと。
一応、理屈はわかったタイヤーであったが、自信はなかった。
だが、このままだと只の足手まといになってしまう。自分に出来ることをやろうと決断した。
「まだ、俺は自分のスキルがどういうものか分からないから、ひとまず仮でいいなら、やってみるよ。少しは役に立ちたいからな」
「それもそうね。それじゃ、放課後タイヤーのスキルを試してみましょうか?」
全員が賛成する中、一番教壇に近い位置ということもあり、先生は突然話に割り込んでくる。
「あー、言い忘れていたが闘技場は、今壊れていて使えんからな」
えーっ、とクラスメイト全員が一斉に叫びガックリと肩を落としてしまった。
タイヤー自身もスキルが『麦』とわかるまでは、どんなフィーチャースキルなのか楽しみにしていたこともあり、お預けされた気持ちになる。
先生の元に向かったタイヤーは、教壇に置かれた紙にリーダーである自分のサインを書くと、一瞬先生は顔を見てニヤリと笑い、ハンコを突く。
それはまるで、狙い通りだと言わんばかりに。
押されたハンコには、“ウッド・ベーカー”と先生の名前が彫られていた。
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