二十六踏 ニーナ・パッカード

 ようやくエルとニーナは泣き止み、応接間へ通されたタイヤー達。ずっと側でニーナの小さな手に、エルは自分の手を重ねていた。


「それでは、今は貴女がこの村の代表なの?」

「はい、ニーナはこの半年間、パッカード家当主として頑張って来ました。お父様の名を汚さぬように。エルお姉様、ニーナを褒めてくれませんか?」


 ニーナは、まだ幼い。ミユウよりも年下なのは明らかである。それでも懸命に頑張ってきたニーナをエルが褒めないはずはなかった。


「あ、忘れていたわ。みんなを紹介するわね。右からリック、ミユウ、フローラ、それとタイヤーよ」

「まぁ! 貴方がタイヤー様なのですね!? エルお姉様の想──むぐっ!」


 前のめりになり瞳を輝かせたニーナは、突然口をエルに塞がれて部屋の外へと連れていかれる。

しばらくして戻ってきたニーナが、一言「失礼しましたわ。貴方が腐れ女好き変態野郎のタイヤー様なのですね」と。


「おい、エル!」

「ち、違うわよ。私は女好きで変態野郎としか……」

「三分の二は、言ってんじゃねぇか!」


 プッと笑いを溢すニーナとリック達。

エルとタイヤーは、二人揃って「何がおかしい!」と声を大にするのであった。



◇◇◇



 タイヤー達は、ニーナに自分達の立場を正直に話す。幼いとはいえ、しっかり者のニーナは、村の代表として喜んで好きなだけ滞在して欲しいと言ってくれた。


 スエードに入れば、レバティン王国も簡単に手出しは出来ない。

この東スエードは、エルとニーナの関係のように、まだレバティン王国と交流が多いし商人達もやって来たりもする。

それでも例え、ここにいる事を知られたとしても、軍が介入してくることはないから安心して欲しいとニーナは話した。


「あの……お茶どうぞ」


 いつの間にか近くにいた先ほどの少年にタイヤーは驚く。全く気配を感じなかった。

少年はトレーの上に乗せてきたカップにお茶を注いでいき、タイヤーの前に差し出した。


「あ、ありがとう」と、礼を言った後、お茶に口をつけるが淹れたばかりにも関わらず、少しぬるく感じる。

ガチャンと食器の音がすると、ニーナが立ち上がり少年を叱責し始めた。


「カルト、遅いわよ! お茶が冷めているじゃない」

「す、すいません……お嬢様」

「もう、今はお嬢様じゃないわよ!」


 さっきまで温和な性格だったニーナは、気弱そうな少年に対して少し厳しいようにタイヤー達は感じた。

エルもニーナを宥め透かし、注意する。


「ごめんなさい、お姉様」

「昔、こんな子居なかったわよね? 新しく雇ったの?」

「はい……その、見ての通り父が亡くなってからは、この屋敷に出入りする者も少なくなり、仕方なく」


 確かにこの屋敷には、他に人の気配は無い。カルトとニーナの二人きり。

にもかかわらず、掃除は行き届いている所を見るとカルトが全く無能ではないなと、タイヤーは感心していた。


「そう……でも私たちがいる間は、私たちも手伝うわ。だから、カルトくんにもう少し優しくしてあげなさい。タイヤー、いいわよね?」

「はい。お姉様がそう言うなら」


 新しくお茶を変えてくると言い、ニーナはカルトを連れて部屋を出る。

扉がパタンと音を立てて閉まると同時に、ニーナがした舌打ちの音は掻き消されタイヤー達は気づかずにいた。



◇◇◇



 タイヤー達に好きに使って欲しいと部屋が与えられた。

タイヤーとリック、フローラとミユウ、エルはニーナの部屋で各々世話になることに。

その夜、料理をもてなしたいがカルトもニーナもろくに料理が出来ないということだったので、この村にあるただ一軒の食事も出来る宿で食事を済ませた。

もちろんニーナも同席するのだが、カルトに声をかけないニーナに代わりタイヤーが「君もおいで」と誘う。


「タイヤー様、カルトは……」

「料理苦手なんだろ? しばらく厄介になるんだから、カルトも一緒で構わないだろ」


 かなり痩せているカルトが、頭を下げて礼を言った時、その黒髪からひょっこりと二本の角が根元から折れた跡が見えた。


 ニーナとカルトも同席して食事を終えたあと、タイヤーとリックの部屋にエル達も集まる。

今後どうしていくかの相談であった。


「何か商売でもする?」とエルが切り出すも「商売舐めんな! 俺は八百屋の息子だぞ。商売の大変さはずっと近くで見てきた」とタイヤーは、反対する。


「でもよぉ、折角俺っち達はチームなんだし、チームとして何かやりたいよなぁ」

「さんせー」

「アチキ、巻き込まれただけよ」


 リックの意見にフローラは賛同するも、ミユウからしたらいつの間にか仲間に入れられていたおり、それが不満のようで口を尖らせる。


 ああでもない、こうでもないと意見が飛び交うも、どれも悪くは無いのだが誰かが役に立てそうにない部分が出てくる。


 例えば魔物退治。

戦力として、並の魔物相手ではリーダーであり司令塔の役目を担うタイヤーは必要ない。


 そこで出たのが「何でも屋」だ。文字通り何でもやる。魔物退治はもちろんのこと、料理洗濯ゴミ拾いまで。

多岐にわたることで、適材適所で人を派遣するというものだ。

これなら、他が魔物退治をしている間、非戦闘タイプのタイヤーなどは別の仕事を引き受ければいい、と。


 皆が提案に同意すると、一緒に部屋を出ようとするエルをタイヤーは引き止めた。

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