十七踏 卒業試験

「やぁ、君たちがタイヤーくんだね。オレはビラド。今回の試験のリーダーでもある。宜しくな」


 タイヤー達に異例な話が舞い込む。それは今年度の卒業試験に参加せよというものであった。見事、試験を突破すればタイヤー達は、同年代よりいち早く卒業というご褒美が付いてくる。


 タイヤー達は知らないが、これは伯爵が裏から手を回した事が要因となっていた。表向きはタイヤー達を認めたように見えるが、伯爵の思惑は、卒業すればエルが家に戻ってくるか、チームが解散するだろうとの目論見である。


 そして現在、タイヤー達は諸先輩方と同席という形で、あのコバー平原に訪れていた。


 ビラドという最上級生は、フィーチャースキルにより、既に真っ白な鎧に身を包んでおり、爽やかな笑顔を見せる好青年であった。

卒業試験としての課題は、コバー平原の捜索。

捜索といっても、何かを探す訳ではなく、主に調査がメインだ。

雑草一本生えないこの土地を、王国がこのまま放置するわけにもいかない。


「おい、タイヤー。あいつら……」

「ああ、ずっと睨んできていたから、気づいている。あの時の上級生だ」


 全部で十組四十人の大所帯。この中においてタイヤー達を睨み付けるチームが。それは食堂でエルやフローラに絡んできたチンピラ連中。

何事もなければ……そう思って調査を進めること、三日目。


「ビラド。なにこれ? こんなの報告にないのだけど」


 見つけたのは巨大に土が盛り上がりぽっかりと開く洞穴。

入り口から覗くと、地下へと果てしなく階段状の岩場が続く。


「まさか、ダンジョンか!」

「先輩どうしますか?」


 この三日間で優れたリーダーシップを発揮するビラドが頼りになる先輩だと、タイヤー達は信頼していた。


 それもその筈でビラドのチームは同年代の中でも群を抜いて優秀な成績を修めており、この卒業試験を無事終えれば首席で卒業を迎える予定になっている。


「ダンジョン内も捜索しよう。ただし、万全を期す為に、ここで一泊して体を休めてからだ」


 ビラドの指示にタイヤー達も野宿の準備を始める。明日の早朝から十組の内半分がダンジョンへと突入し、残りは待機して万一に備えると慎重に慎重を重ねたビラドの指示を集めた各チームのリーダーに、伝えた。


「タイヤー、どうだった?」


 話し合いを終えたタイヤーがチームのキャンプに戻ると、予想通りと言わんばかりの顔をしていた。


「俺達は、居残り組だよ。先輩がまだ一年目の俺達が無理をする必要はないって」

「詭弁ってやつか?」


 リックは、ビラドが手柄を一人占めするとは思っていないものの、他の上級生に気を遣ったのではないかと考えており“詭弁”だという言葉を使ったのだが、タイヤーはそれを否定する。


「いや、逆だろうね。むしろ俺達に楽に試験をクリアさせたいって顔をしてた」

「そうかぁ。わたし達、戦闘経験ってほぼ無いから、経験積みたかったなぁ」

「だよな、フローラ」


 それでもこのグループ全体のリーダーであるビラドの指示に従わなくてはと、タイヤー達は、一人ずつ見張りを立てて早々に眠りにつく。


 タイヤーが見張りをしていた時であった。夜明け前、辺りには一面深い霧が立ち込めて隣でキャンプしているグループの焚き火が分かる程度の視界しかない。

よくよく目を凝らすタイヤーは、奇妙な事に気づく。


「隣の見張りが居ない?」


 タイヤーは松明代わりに焚き火を拾うと、隣のキャンプを覗く。消えそうな焚き火があるだけで、人はそこに居なかった。


「エル、フローラ、リック起きろ!」


 タイヤーは、起こした三人を連れてビラドのもとへ。

ピラドは全員を集めるように指示すると、集まったのは五組二十名のみ。

半分のチームが姿を消していた。


「襲われたのか……」


 一人の言葉を切っ掛けに緊張感が走る。


「多分違いますよ」


 そう言い放ったタイヤーに全員の視線が集まると、タイヤーは自分の見解を述べ始めた。


「テントなど片付けられたのが三組あります。つまり、それはそれだけ時間に余裕があったと言うことです。襲われたなら悲鳴が聞こえそうですし。となると考えられるのは逃げたか……」


 タイヤーは、目の前にある、どデカイ洞穴を覗かせるダンジョンに視線を移した。


「功を焦ったのか!?」


 ビラドも、ようやく気付き悔しそうに地面に拳を叩きつける。


「タイヤーくん、あの人達も居ない」


 フローラは小声で耳打ちする。食堂でフローラとエルに絡んだチンピラみたいな上級生の姿は、この場になかった。


 ビラドは決断を迫られる。無事ならいいが、このダンジョンは、今まで報告されておらず、最近出来たものと思われた。

何があるかわからない。

見捨てたと自分が罵られてもビラド本人は構わない。しかし、チームの仲間、そしてタイヤー達にも汚名を被せることにならないか。

複雑な思いでビラドはダンジョンの入り口を見つめていた。


「エル。寒くないか?」

「何言ってるのよ、タイヤー。夜も全然寒くなかったじゃ──あっ!!」


 タイヤーは、困った表情のままエルに笑いかける。


「ビラド先輩、ちょっといいですか?」

「えっと、君はタイヤーくんところの……」

「エルです。ビラド先輩、この霧、おかしくないですか? 全く寒くないのに、これだけ深い霧って」


 エルの言葉にビラドは顔を青ざめる。側に来なければ互いの顔が見れないほど深い霧。集まってから、そこそこ時間は経ったが晴れる気配がない。


「ま、魔物の仕業……か!」

「恐らくですけど。もし、居るとしたら」


 ダンジョン内部。そこまで言わないでもビラドには理解できた。

そして決断する。

万一に備えて逃げ出せるように、なるべく軽装でダンジョンに潜ると。

勿論、タイヤー達もそれに志願するのであった。

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