十八踏 ダンジョン攻略

 テントなどは置いていき、各自準備を整える。


「エル。悪いけど踏んでくれ」

「え、こ、ここで!?」


 タイヤーは地面へ大の字になり仰向けで寝転ぶ。

タイヤー達にとってはいつもの事だが、他の生徒は違う。

特に男子生徒は、準備そっちのけで、わらわらと集まりだす。


「それじゃ、踏むわよ」


 エルはタイヤーの顔の近くへと移動する。男子生徒は、生唾を飲み込む。

その目には、タイヤーへの羨望の眼差しもチラホラと。


「今日は白とは珍しいな、エル」

「死ねや!」


 殺気を感じてエルの会心の踏みつけを咄嗟に体を捻って避けるタイヤー。

更に追い討ちをかけるエルにタイヤーは、地面を必死に転がっていく。


「おーい。お前ら何処行くつもりだよー」


 気付けば二人は、リック達から随分と離れた場所に移動していた。

幸いというべきか、集まっていた見物人からもだいぶ離れ、深い霧も相まって誰にも見られずにエルはタイヤーを踏む。

焚き火からも離れてしまい、タイヤーからもエルの姿は見えにくい。

エルの靴裏が眼前に来るまでその姿は見えずに、ただただ何度も踏まれるのであった。


 二人が再び皆の前に現れた時は、タイヤーの髪と瞳の色が青色へと変化しており、湿った地面のせいで靴跡がくっきりと顔に付いていた。


「それが、君のフィーチャースキルかい?」

「はい。といっても動体視力が強化されるだけですが」


 滅多に他人にはフィーチャースキルの能力は教えないのが恒例となっているが、今ビラド達は同じチーム。タイヤーも隠そうとは一切しなかった。


 エルやリックもフィーチャースキルで大剣と弓を取り出すと、タイヤーの指示でエルを先頭に据えた。


「どうして、私が?」

「エルなら何かあっても、その大剣で防げるし、フローラは素手だからな。素手である分、両手が自由になるしエルに何かあれば対処出来るから」

「そういうことね。わかったわ」


 ビラドを先頭に一団はダンジョン内へと入っていく。一寸先も闇。一チーム一個のランプの明かりが頼り。

しかも、何故かダンジョン内にも霧が立ち込めており、視界は最悪。

慎重に慎重に地下へと降りていく。

ダンジョン内は、ひんやりとした空気と天井から滴る水滴の音が不気味さを演出する。


「俺、先頭にって言ったよな? エル」

「し、し、仕方ないじゃない。別にいいでしょ!」

「そ、そ、そそうですよ。タイヤーくん」


 初めこそ前にいたエルとフローラだが、今はタイヤーの両脇を固める形でくっついていた。

左を見ればエルの綺麗な顔がすぐ側にあり、赤い髪からふわりと心地よい匂いが鼻腔をくすぐる。

右を見れば、フローラのつむじが見えるがとても柔らかな感触が右腕を挟むように包んでいた。


 そんな三人を見てリックは声を出して笑う。ダンジョンの不気味さを吹き飛ばすかのような笑い声に、緊張しっぱなしの他のチームの肩の力が抜けていく。


「笑うなら、どっちか頼むよリック。歩き辛い」

「嫌だね。俺っちはまだ死にたくねぇし、諦めな」


 リックは呑気に弓すら構えず、後ろから付いてくるだけであった。



◇◇◇



 ダンジョン内部は広かった。階段を降りたあとは、チーム二十名全員が横並びしても余るほど幅広く、天井も三階建てくらいの高さ。

ただ、道は一本道で迷うことは無さそうであった。


 ダンジョン内を四つの光点が奥へ奥へと進んでいく。ここまで罠らしきものも無く、魔物の気配もない。

皆は少し気が緩み始めていた。


 広大な一本道を進んでいくと、タイヤー達は足を止めた。二、三メートル先に巨大な空間が現れたのだ。

ビラドのチームとタイヤー達は、警戒して武器を構えるが残りのチームは、気の緩みからか構えずに、ビラドの後をついていく。


 タイヤー達の目の前に現れた空間には、巨大な地底湖があり行き止まりであった。

タイヤーは「逃げろ!」と急に叫びエルとフローラの腕を引き、リックには目で合図を送る。

他のチームは、ぽかんとしていたがビラドも事の重大さに気付き逃げろと叫んだ。


 そう。一本道の後の行き止まり。行き止まりが壁なら隠し部屋を疑うが、巨大な地底湖。つまり、先に向かったチームは果たして何処に行ったのだと、タイヤーがいち早く気づいたのだった。


 地響きと共に天井から落ちてきたものを見て、逃げ遅れたチームは足がすくみ動けなくなってしまった。


 太い脚が四本地面に降り立つ。

亀のようなフォルムだが、全身は硬い鱗に覆われ、二本の長い首には涎をダラダラと流す鰐のような口を持った生き物。


「ミストドラゴンだ! 急げ、逃げろ!!」と、誰かが叫んだ。

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