第2話 転生

学校を出て今日もまっすぐ家へ帰る道。幼馴染みは部活にバイトに日々忙しく過ごしているが、自分はまっすぐゲームまっしぐらだ。昨日はミーコとだったから今日はタロと…ケルベロスと遊ぼう。想像してニヤつきながら歩いていた。それで足元がおろそかだったのは認める。だけどねえ?


「工事の三角コーンに蹴躓いて曲がり角のコンクリに頭をぶつけそうになって手を突いたらマンホールに落ちそうになってジャンプして避けたらトラックに轢かれそうになって転がって避けたら自転車で轢かれ頭打つって、いくら私がどんくさくてもおかしいでしょ!偶然とかじゃなく完全に殺しにかかってんじゃん!」

「イヤ本当すみません」

「しかも、予定外?寿命より早い死?冗談じゃない!責任とってよ…!」

「ハイすみません」

ふんと鼻息荒く腕を組み、神と名乗った人物を見下ろした。神様は平身低頭。


享年十七才。あり得ない事故で自分、死にました。かんっぜんなミスで。ムーカーツーク!一応事故補償で転生できるとは聞いた。でも家族にも幼馴染みにもいとこにももう会えない。ミーコにもドラミーにもタロにも、会えない。二度と会えないんだ。ボッチが平気だからって好きでボッチやってる訳じゃないんだ。大切な家族はちゃんといたのに。どうにもできない気持ちが溢れて頭が沸騰してる。悔しい。泣きたい。イヤ泣く。もう泣いてしまえ。


「う、う、…うわあああああん!」


這いつくばって頭下げてる神様に対する怒りよりみんなに会えない悲しみが勝つ。いつかはどうにか折り合いつけるだろうけど、あの子達に満足にお別れもできず。これから転生したとして。もふもふすべすべふわふわに会えたとしてもあの子達じゃないんだよ?どうにもできないのわかってても感情は、抑えられなかった。発散しないとおかしくなりそうで思い切り子供みたいに泣いた。

「神様のバカ!アホ!神様のくせに神様業ミスってんじゃねーよおおおお!神様なんか、神様なんか、でべそおおおおお!」

ネットやラノベで読んだ異世界転生は交渉して力を手に入れるとかあったけど、たいして特別な知識も自信も余裕もない自分にはなんにもできず。切り替えるには時間がかかった。

「何故わしがでべそだと!「お黙んなさい」ぐべ!」

「…落ち着きました?」

「………、………………なんとか」

「ごめんあそばせうちのバカ上司がバカやらかしまして」


ようよう泣き止んだ自分に差し出されたタオルが濡らしてあり腫れたまぶたに優しい、その女子力におののきつつタオルを受け取り答えると目の前に眩しさで目が潰れそうな麗しい美女がいらっしゃった。美女に踏まれて強制土下座☆中のやらかし神様は白髪白髭の仙人みたいなじーさまである。美女神様はつやつやの金髪碧眼でボンキュッボンのダイナマイトバディーさんだ。どうやらやらかし神様の部下?であるらしい。


「本当に申し訳ないけれど元の世界の同じ時間軸に戻してあげることはできませんの。新たな命として同じ世界で別のご家庭にか別の世界に生まれ直すか…このまま消えるかしかないのですわ」

実質転生するか消えるかの二択みたいなもんね。憤りは無くならないけど逆に突き抜けた感もあって、神様に反抗する気力はもうない…けどこのまま消えるなんて悔しすぎる。やっぱり、転生か。そして元の世界に行くか異世界か、か。元の世界に生まれたらいずれ家族にも会える可能性がある。でもおそらく、と女神様の目を見ると頷く。

「酷かもしれないけど名乗り出ることはできません」

やはり…名乗ろうとすればシステムに障害を起こすバグとして消される。そういうことだろう。混乱させるだろうし、魂は同じでも身体は元のものじゃないんだ。それに新しい家族もいるんだ。会えても名乗れず知らぬふりで過ごすのは、辛い。自分にはきっと耐えられないと思う。会えないのも辛いけど会えても名乗れないと言うなら、選択肢はひとつだ。故郷は遠くにありて想うもの、と言うじゃないか。


「異世界転生、でお願いします」

「わかりました。お詫びとして少し能力の底上げをしておきましょう。今から術式を展開する間、よくお考えなさい。あなたが望むように補正されますから」

「………はい」

「では、良き転生を」


女神様の声に自然と目を閉じる。まぶたの裏に強い光を感じると浮遊感と共にゆっくり体が沈むような感覚がしたが、全身がおもだるくて目を開けようとは思わなかった。

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