第18話 ぼく、in西の森。

「ふふーんふ、ふふふふーん」

勇気の出そうな曲を鼻歌で奏でながらわんこの尻尾を握った手をふりふり歩く。曲に合わせて光もちっかちか。うん、冒険っぽい!再び元気よく歩き出す。


ざわざわと風に揺れる木々の中を歩き続けること体感で5分?10分?光の玉だけの灯りで時間経過はよくわからない。とにかく幼児いや赤ちゃん体感ですこーし経った頃、でっかい大木に行き当たった。

「ふおぉぉお…!」

自分が蟻ん子になったように感じる。赤ちゃんサイズなので手を伸ばしたら何人で囲めるくらいとか考えられないほどでっかいのだ。暗い森の中に佇む大木はただただ静かにそこに在るだけなのだが存在感が強い。灯りがあって初めて気づくくらい自然に森の中に溶け込んでいるのに、見つけてしまえば圧倒される存在感。

「しゅごい…」


頼りがいのあるガッシリとした太い幹にそっと手をつくと不思議と温かみがある。わんこと光があるとはいえ心細い道行きに温もりが染みる。思わずぺたりと幹に張り付いて全身で大木にひっつく。

「ぬくい…」

上を見上げると張り出した枝葉の豊かなこと。光の玉が幹の周りをくるくるとまわりながら登ってゆくのを眺める。明るく照らし出される木肌の質感はごつごつしてなくて表面はつるりとしていた。大きくて古い木だと思うのに表皮の剥がれもない。よく茂った葉の色だって青々としている。…青い。緑じゃなかった。

「オゥ…」

思わずアメリカンなうめき声が漏れた。ブルーツリーベリーワーンダフルネー!


幹の色は周りに生えてる木と大差ないから思いもしなかった。木肌は質感つるつるだけど色はちょっと濃い茶色でそんな違和感ないんだよ!なのに見上げたら青!光の玉なかったら分からんかったぜ!一体全体どうしてこんな木が、ってそっか異世界だったわここ。考えても仕方無し。そういうものということだ。うむ。というか、こんな不思議な木、ファンタジーで出てくるならきっと。

世界樹しぇかいじゅ、だったりして」

呟いてみたらざわり、と大きく木が揺れた。

「うお!?」

ビクッとして離れて見上げるとなんか葉っぱがおおきくなってきt、あーっ近づいてる!近づいてる!は!?葉!!

「ちょ!わ?」

わさっと茂った青い葉がぼくの頭、っていうか顔全部をもしゃもしゃする。く、くすぐったい!

「っきゃー!?あは、はははっ」

しばらくもしゃもしゃされて笑い疲れた頃、葉がちょっと離れる。深呼吸して落ち着いてよく見れば世界樹?は幹を曲げてぼくの近くまで葉を下ろしていたらしい。柔軟ですね?


わさわさ、わさわさと葉を揺らして世界樹が枝を振ってる。ん?あ、もしかしたら挨拶かな。

「こんにちぁー、えっと、ぼくは、ニンフュです!世界樹さん?よろしくでっしゅ」

わさわさ。

優しい葉擦れの音が微笑って歓迎してくれたみたいに聞こえてぼくも笑みを浮かべる。えへ。

「今日は薪拾いのおちゅかいでしゅ」

聞かれてもいないのにおしゃべりしたくなる。初めての頼まれごとでなんとなく自慢したい気分?すると世界樹さんまたぼくの頭をわさわさ葉でくすぐる、いや撫でてくれてるのか。褒められたみたいで嬉しい。えへ。

「なのでちょっとえっと足元お邪魔しましゅ」

わさわさ、と枝を振って世界樹さん幹をひねる。斜め後ろを向いて、正面がどこかわよくわからないけどぼくから見て右斜め前?をごそごそと探るようにして。ややあって真っ直ぐになったと思ったらふわっと何かが落ちてきた。


なんだろうと思いつつ拾い上げてみると子供が持って振り回すのにちょうど良さそうな程よい長さ太さのよくしなる枝が一本。あの、傘を持つとぐるぐるしたくなる懐かしいような感覚を思い出す。ぼくはにぱっと笑顔になる。

「あいがちょー!」

思わず言葉がカミカミになるほど高揚しました。枝をブンブンたのしーい♪

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