第21話 ぼく、帰還する。

翌朝、かすかに鳥の声を聞きながら目を覚ます。生き物の気配がなかった森に高く澄んだ鳥の声が遠く響く。まだ眠気が残るまぶたをこすりながら上体を起こす。

「ん~~」

「がう」

わんこはすっかり目が覚めていたようでぐずるぼくの顔をぺろりとなめて起床を促している。寝ぼけながら水の玉を作って顔を突っ込み洗顔を済ませると、残った水気を猫ポシェットから出した布でさっと拭う。ハイハイでテントから出て座ったまま深呼吸する。空気が美味しい(朝ご飯!)ん~森林浴気持ちいい!


テントのあたりは密に生えた木の陰に遮られてるけどこの先は隙間多くなって陽が差し込みやすく明るくなっているから、光の玉ちゃんにはお帰りいただくかな?ちらっと振り向くとまだふよふよテントの中に浮かんでいた玉ちゃんはちかっと点滅して、置いてあったポシェットに吸い込まれて消えた。

「えぇっ!?玉ちゃ!」

慌てて高速ハイハイで戻ってポシェットをぶんぶん振ってみるが出てこない。

「ふぇ…玉ちゃ…」

「ぐる、がう」

「ヘ」

「がう。がぅ」

えーっとわんこが言うには光の玉ちゃんはポシェットに宿っているから必要なときには呼べば出てくると。半信半疑で玉ちゃんと呼びかけたらポシェットのにゃんこの瞳がキラッと光り、玉ちゃんが現れた。

「おー、玉ちゃん!」

ちょんと指で触れれば喜ぶように震える。そっか、にゃんこの瞳になってたんだ。

「あいがとね。また、よろしくね!」

答えるようにちかっとまたたき玉ちゃんはまたポシェットに消えた。


よし、ここからはまたわんこと二人だ。ええとテントは畳んで収納しないと。と杭を抜こうと手をかけたところにわんこの濡れた鼻が押し付けられる。

「なぁに?」

「ぐるがうがぅぅ」

「お、おおぅ」

このまま収納出来るはずだと…!

戸惑い期待に震えながらそっとテントに触れポシェットに入れるように念じる。と、よくわかんないけどぬるん、って感じではいりました。

「ぶちゅり無視か…」

物理とか質量法則とか、うん、今更だよね!


さて、テントしまったー、ポシェット持ったー、玉ちゃんよーし、わんこよーし。うん、オールオッケー。指差し確認したら西の森出口までしゅっぱーつ!

よく寝て朝ご飯(空気)もちゃんと頂いたので元気に森の浅い部分を東に向かって歩く。木々の切れ目から光が入り見通しも良いので歩きやすい。はずなんだけどまだ根っこに躓く…っていうか乗り上げる感じ。幼児ボディだかんねっ。ぼくのぷにぷにの腕に力こぶ(小)作りながらハイハイで登り、わんこのマズルにお尻を押されてなんとか乗り越えたよ!

ちょっと転けて鼻に土くっつけたりしつつ、森から帰還です!

「出口ら~!」

後は皆の居るニンフュの集落に帰るだけ。


「ふふふんふふ、べべ〜」

はじつかの曲を鼻歌しながらわんこと歩いてたら、なんでかな?なんだか涙腺が緩んできた。

「が、がぅ?」

「うぅ、ぐす」

一粒二粒ころころと涙が溢れ落ち、やがて滝になる。

「うぐ、ふぇ…」

それでもなんとか口はむぐぐと閉じてへの字になって集落の端っこまで来たら少し先に待ってる皆の姿が見える。わんこはおろおろしながら見守るようにぴすぴす鼻を鳴らしてついてきてたけど、それを振り切る勢い(気持ち)で走り出した。

「ひぐ…っ、びえええええん!たらいま〜!!」

「がぅがっ」

「あらあら、おかえりなさ~い」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔でライラママに抱きつく。笑顔で受け止めてくれるライラママに安心してますます涙が出てくる。

「よく頑張ったやん」

「えらかったねぇ」

「良かった良かった」

「これで立派にこの集落の一員だよ」

初めてのお使いはやっぱりイベントだったようだ。ホッとしたら瞼が仲良しになってきたよ…。

ちゃんと帰ってこれた。皆の一員になれた。ぼくの中で不安で怖かったこと。多分帰属意識って言うのかな、そういうのがあるべきところに落ち着いたからか。すこーんと眠りに落ちたぼくを皆が温かい笑いで包んでいる。わんこも涙の理由も解決してわふっと言ってて。うん。


ぼく、ただいま帰還しました!

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