巡る季節

第22話 ぼく、お守りと成長と。

はじつか…初めて西の森の奥に行って、ぼくもニンフュの集落の一員として正式に数に入るようになった。というのは一応世界樹にも認められたからだね。

森にも入れるようになったおかげで行動範囲が広がったよ。まあわんこがいなきゃ幼児の足で行ける場所なんてそんなにないんだけども。

「ふんふんふーん、ふんふふんふふーん、ふふっ」

そこら辺にあった雪柳みたいな草を振り回して集落を歩く。なんと、一人でもお家の庭だけじゃなく集落の広場も自由に歩けるようになったのだ!誰とも手を繋がず転ばずに!転ばずに一人で、ですよ奥さん!ついには端から端まで走れるように…はまだなってない。残念ながらいざ走ろうとするととたんに右の足が左の足に絡んできて、つまり転ぶのです。目下体力の増強を目標に毎日集落を端まで走って(周りから見るとてちてち歩いて)いるところ。


ところでこのニンフュの集落はほとんど常春と言っていいくらいに気候が穏やかなんだけど、季節がないわけでもないらしい。らしいっていうのはまあぼくが生まれて一年と半くらいしか経ってないからですね。赤ちゃんですから。最初はお家の中だけで過ごしてたし。でも相棒たるわんこがいて少し大きくなったので、外に出て周りのニンフュの話を聞いたりしてやっとわかってきた。

ちゃんと四季があるんだって。日本みたいに細かく行事があるってわけじゃないけど、この時期ならではの収穫っぽいことなどが僅かにあるようで。

その年に生まれたニンフュは冬前に世界樹に会いに行くっていうのもその一つだったみたい。



で、今日は。

「ばあば、おうちのくちゃとるの?」

「そうさね、お前さんもよく育ったからそろそろお守り蔦を外そうってね」

「お守り…」

シンプルな小屋ながら外側には蔦が這っていてイギリスの田舎っぽい雰囲気がいいな、と思っていた。その蔦がお守りとは知らなんだ。

世界がニンフュを産むのはだいたい春に決まってるらしくぼくも春の終わり頃に生まれたんだけどそのときに一緒に生えて伸び始めるのがこのお守り蔦なんだとか。生まれると同時に祝福と守護として赤ちゃんの家に這わせるのが習わしなんだそうな。一年通して緑の葉っぱで小さな白い実は鳥たちの好物で色んな鳥さんがやってきては啄んでいた。だけどぼくが育って世界樹にも認められたから堅牢な守護は必要ないので、お役御免というわけだ。

「んー。ちゅたしゃ、あいがちょね!」

しっかり守ってもらってよく寝て育ったのでお礼をと、くるりんとターンを決めて頭を下げてみた。ニンフュらしく華麗に優雅に。(何故かこういうときは転ばない。ニンフュ七不思議かも)

ゆっくり姿勢を戻したら蔦がざわりと動いてお家の壁から剥がれて僕の前でウィードみたいな塊になった。きょえ?って変な声が出ちゃった。

「ふふふ。びっくりしてお目々がまんまるね~」

「ま、まんまー?」

ちょっとは喋れるようになってきたのに驚きで幼児語に戻ってしまったではないですか。

「ぼくがちゃ~んとお礼を言えたから蔦も応えてくれたのよ〜」

「そうだよ。こうやってまとまってくれたから次の行程が省けたね。さ、そうしたら今度はこれをこうやって」


ばあばとライラママが教えてくれるにはお家からはさよならだけどいざというとき一度だけ助けてくれるアイテムを作るんだって。まず柔らかくて丈夫な蔦をたくさんある中から選び取って、しごいてまっすぐに伸ばす。枝とかでごりごりと伸ばしましたよ。それから使わない部分は燃やして灰を別のなにかに使うために壺に入れて保管。まっすぐに扱いやすくした蔦を編んでブレスレットやアンクレットにするんだって。模様を作ったりアクセントに花や飾りをつけるのもいいらしい。危機を救ったら千切れて土に還るって、ミサンガみたいだなあ。ミサンガは願い事するやつだったと思うけど。

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