第20話 ぼく、キャンプする。

ポシェットから取り出したテントは一人から二人くらいで使う大きさだった。地面に敷く厚みのある布を広げてその上に骨格になる支柱を立て屋根になる布をかけて芯紐をピンと引いて地面に杭で打ち込む。さらにその上に防水加工した布をかけて………っていうの見たことある。見たことあるよ。でもね、ぼく赤ちゃん。生後だいたい半年くらい。いくらニンフュだし前世の記憶があると言っても、体はまだせいぜい保育園児程度なのよ。


うんうん唸ってたら光の玉が布をちょっと持ち上げてみせた。あ、物理的接触ができるんだね。重いのや大きいのは無理?ふむふむ。じゃあえっと支えだけやってもらって頑張ろうか。あ、風魔法を応用すればいけるかも。空気を循環するように動かせればバルーンみたいに中からふわっと…!うん、これで重さは軽減できる!光の玉、もう玉ちゃんて呼ぼう。玉ちゃんにてっぺんで持ってもらって四隅の杭打ちをする。芯ひもをピンと張るのはわんこにも手伝ってもらって。木槌でトンカン。


そんなこんなでどうにかこうにかテント設置できました!

「ふぇえ、できちゃ…」

流石に疲れ切って眠いよー。でももうちょっと。いつもよりゆっくり深呼吸、すぅーーーーーはぁーーーーーー。うむ、お腹いっぱい。これであとはゆっ、く、り………。ぐぅ。

「がふ」





子供が寝てしまったのでわんこはため息をつきつつ服の端を咥えてテント中央に運び、自分の体で包むように丸まった。気温はそこまで低くないが森の夜は少し肌寒い。出入り口と窓らしき開口部のあるテントである。案の定子供はわんこの温もりに頬を緩めている。光の玉は子供が起きないように少し光を弱めてテントの入口近くで様子を見ているようだ。心配せずとも寝入ってしまえば少しの明かり程度では起きない子だ。鼻息だけで呼べば恐る恐る近づいて子供の寝顔をのぞきこみ、安心したように子の肩あたりに寄り添って落ち着く。


このおつかい自体一つの記念行事のようなものでことの成否は問題ではなかったのだが、ソレにしても今回のコレは例外だらけであった。まず、出発前に無限収納ポシェット。次に光魔法の実体化。更に世界樹との交流。通常の行事であれば暗闇に怯えて足が止まる逃げ帰るあるいは浅い部分で枝の一本も持って帰れば上々といったところ。兎にも角にも無事集落へ帰れれば半人前とはいえニンフュの仲間入りとして祝宴になる。時間はいくらかかっても問題ないのだ。それどころか暗闇を光魔法で解決し森の中央まで進み世界樹に触れ交流ししっかり薪を拾いと大成功にもほどがある。無限収納ポシェットは大人のやらかしだが、まあ今役立っているし。悪いことなど無いのだ。一つも。ただただ規格外、というだけで。


「がふ…」

頼もしい反面先行きに不安も感じてしまうのだ。まだ生まれて半年ほどという幼子が優秀なのは良いことだと思うのだが…。まあ何も起こる前から気を揉んでいても仕方ない。それに、われは相棒なり。一生ついていくと、決めているのだ。いつでも傍にあって共に乗り越えていければ良い。

気づかれないよう小さくふっと笑みをこぼしわんこも目を閉じる。万一のために一部は警戒する意識を残しつつ大事な子を包みゆっくりと眠りにつくのだった。






世界樹の森は安らかな闇に包まれ静かだ。ニンフュの子と幻獣の他には何もいない。光魔法から生まれた光の玉も今は動かずに子の肩に留まるだけ。テントのそばに立つ二本木はそっと枝を揺らし父なる世界樹に語りかける。さわさわ、さわさわ。軽い葉擦れの優しいこと。テントの窓から覗くニンフュの子の愛らしい寝顔を世界樹に伝える軽やかな音に遠くからざわり、返事が帰ってくる。わしも見たかった…!と語ったかどうか。眠る子にはわかるまいがぴくりと動いた獣の耳にくすぐったそうに身をよじって深い夢にまどろむさまを、森は微笑ましく見守っていた。

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