第25話 ぼく、花畑に参上。
蜘蛛の巣みたいなもわん、という違和感をくぐればすぐに外の空間に出る。ほんとに一瞬だった。甘いにおいが風に乗って届く。目を開ければ一面の花畑だ。丸い花が風に揺れて踊る。シロツメクサのような形で色は白、薄いピンクから紫までのグラデーションだ。風にそよぐと甘い香りがまたただよう。なんか美味しそう。そういえば前世では幼馴染みと学校帰りに蜜を吸ったっけ。
「蜜詰め草よ~。赤いのが一番蜜が多いのよぅ」
花の蜜は空気だけで食べ物に用がないニンフュのおやつなんだって。ライラママに教わってグラデーションの中から赤い蜜詰め草を探してみる。
「こえ、赤いの」
「そうねぇ、いい感じに赤いわね~。で、ここの辺りを切るとぉ」
茎の真ん中辺をぽっきり折るとたらーっと溢れるそれをライラママはちゅーっと吸って微笑む。花びらを吸うのかと思ってたら違った。ぼくも見よう見まねで折ってみるが吸い付く前にかなりこぼしてしまう。薄甘い感じで前世のお菓子などに比べれば物足りないくらいだが、空気以外で口にする甘味にぼくは夢中になった。
数本とって蜜を吸ってみたがすでに右手も左手もべったべたである。解せぬ。さらにお口まわりももちろんべちょべちょなのだ。
「がう、ぐるぅ」
「わんむ、むふぅ」
わんこに口を舐めまわされました。お世話の一貫だろうけど何かを失った気がする。主にファーストキッス的なやつを。そして甘味フィーバーが過ぎぺろぺろタイムを経て、今気づく。お掃除魔法使えば良かった、と。光と水と風の魔法で手を洗いましたよ。慌ててる時って肝心なこと忘れがち。冷静って大切だよね。
ライラママは汚さずきれいに蜜を吸ってて、ケーシィとシェリーは相棒のもちふわーずが魔法でフォローしてた。垂れそうな蜜を風で防いだりくっついたとこを水で洗ったり。ぼくよりは上手に食べてたみたいですが。
おやつのあとは散歩の続きですよ!
ここは世界各地にあるニンフュのお出かけスポットで安全確保の結界がばっちりらしいので、ぼくはライラママの手を離して走り出す。ウン?歩きの速度と変わらないって?走ってんだよ!よしんば転がってるように見えるとしても走ってるの!気持ちは。
わさわさ生えてる蜜詰草の間を掻き分けるように走ると甘い香りがまとわりつく。自分がお菓子のデコレーションされてるみたい。
「甘い甘い、あんまーいみちゅ♪」
美味しい歌を歌いながら円を描いて走って跳ねて。風が煽るように吹くのに飛ばされてわんこに掴まって。そのまま跳び跳ねるのに他の相棒たちも加わってもふもふの円舞になる。花畑を縦横無尽に、うっすら汗ばむくらいまで踊ったら、太陽が中天にきていた。太陽と言っても本当に前世と同じ惑星とは限らないけれども。昼に明るく輝くあたたかい星ということは同じだ。
今度は蜜がこぼれない白の花と紫の花で冠を作ってみる。前世では幼馴染みと作ったそれを今世ではニンフュみんなに教えながら編んだ。
「あらまぁこんな可愛いものが出来るのねぇ~」
「うち、こんなん初めてやわぁ」
「ええな、これ」
ニンフュはそこにあるものをあるがままに受け入れて楽しむ
みんなで深呼吸して小休憩をとった後で夕焼けのオレンジ色の中、手を繋いで連なって転移門を潜った。
転生ニンフュ(♂?)は飼育員になりたい。 翔馬 @nyumnyum
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生ニンフュ(♂?)は飼育員になりたい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます