第9話 ぼく、把握する。
お姉さんのお胸で安らかな眠りを享受したぼくは翌日にすっきりと目覚めた。実に爽やかな朝である。足元にきっちりお座りして未だお姉さんの腕のなかにいるぼくを見る一部わんこの冷たい視線になんて気付いてないのである。ないったらないのである。
「…がう」
「あうあぅやー」すいませんっしたー。
「うふふふふ、仲良しなのねぇ~」
「あうー」
起きた場所は変わらないいつもの部屋だけどキャスティングが変わっとったんや。あのお姉さんが起き抜けのぼくとわんこの掛け合い漫才を観賞なさっている。
「改めてこんにちはぁ、ぼく~」
「だ、あぅあー」
「あなたと同じニンフュのライラよ~」
「…だぅ」
ニンフュって何だろうと内心首を傾げつつ自己紹介されたからぼくも自己紹介しようと思ってはたと止まる。ぼく、名前がない、よね?前世の名前は女性名になるし、今世は今世の名を名乗るべきだろう。なので頷くだけになった。ちょっと悲しい。
「あらぁ、眉さげちゃって…いいのよぅ。私たちニンフュはもっと大きくなったら自分で決めるのが習わしだから~」
「ふぇ?」
「そうねぇ、
ニンフュとは種族のことかな?ぼくはニンフュに生まれ変わったらしい。そして前世のことを知られている?なんでだ?そんな魔法でもあるのか?心を読めるの?まさか操るとかもできたり?ぼくは今世魔法を使えるようになったけれど現在はか弱い赤子だ。この世界の生き物全てが魔法を使えるとするならば、相手は軒並みぼくより大人、その分経験も習熟も上になる。敵う筈もなかろう。もし悪人にでも捕まったなら。悪事に荷担させられるかもしれない。オワタ。ぼくは…ぼくは…第二の人生で初めて対人の恐怖を味わった。結果。
「あ、あう、あぅ…びええええ」
「あら、あらあらまあまあまあ」
「がうっ!?」
生まれて初めておもらしをしてしまいました。排泄ナッシングの世界じゃなかったん?恐怖による生理現象はありだったのか。
「あうだー」ごめんなさいでした。
「あらあらいいのよぅまだ赤ちゃんなんだもの~」
大号泣したぼくの下半身を魔法で洗浄してくれたお姉さんに頭を下げると笑って許してくれたよ女神か。ついでに言うと足元でぼくの…をかぶってしまったわんこも綺麗にしてくれた。何て言うか、ほんとすまんかった。
ぼくは初めてぼくより強いかもしれないニンフュ(?)に出会い、恐慌に陥ってしまったようだ。だいたい考えすぎたし赤ちゃんが抵抗できないのも普通のことだろう。魔法がいくらか使えたとしても、だ。あと、この人が悪いことをするとは思えない、というか、この人が悪人だったら最初からただ放置なんてしないでしょ。そして今さらながら、赤ちゃんなのだ。開き直って頼ることも必要だと学んだ。
「んーそうねぇぼくはそれでいいわよぅ。私は今日あなたのお母さん役に決まったの~」
「えぅ」
「ニンフュはねぇ、この世界の風や水から産まれるのよぅ。だからみんな大人の誰かがお母さん役をするの~」
なるほど。産みの親はいないって言うか世界そのものになるのか。それで育てて世話をするのが周りの大人なんだ。ぼくのお母さん役はこのライラさんと…、わんこはなんだろ。
「お、おあ、ん゛~まんま!」
お母さんと呼ぶにはまだ成長が足りないのでちょっと恥ずかしいがママと呼ぶことに。
「あらぁ、嬉しいわ~そうよぅママよぅ~。うふふふ」
「あぅ、まんま、わんわ~?」
「あ~そうそう、この子はあなたの相棒になる子ねぇ。あなたと同じ頃に生まれたのよぅ?相性も良さそうだし大きくなったらこの子の名前も考えてあげてねぇ」
「お~…あい~!!」
「がう」
思わずきゃっきゃとはしゃぐぼくに目を細めるわんことライラママさん。わんこはもふもふだしママは優しそうな人だしまだ他の人に会ってないけど、ぼくはここに生まれて良かったなと思った。
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