第7話 ぼく、学ぶ。
寝て起きて魔法を使う練習、お腹が減ったら深呼吸、わんこともふもふお昼寝、起きたら魔法を練習、深呼吸しておねむ、の繰り返し。だいたい五ヶ月経つと寝返りも魔法なしでスムーズにできるようになった。魔法が使えるのは楽しいけれど筋力がつかないと困るので、魔法なしでも動けるように運動もやるのだ。赤ちゃんレベルの運動ですが。
「だー、あー、うー」
足をバタバタ手をぶんぶん振ってスムーズになった寝返りで床をごろんごろん。まだハイハイできないのが惜しいけれど今できる全力で運動するですよ。床がきれいなので安心して動けるのはありがたい。寝てる間に掃除されてるのかな。わんこには無理だから誰かやってくれてるんだよね多分。
と思ったらふんと鼻息が顔にかかる。
「えぅ?」
まさか?再び鼻息で答えられて目を見開く。どうやって掃除するのその、敏捷そうだけどもふもふの犬ボディで?目で問いかけるとわんこは細く遠吠えするように鳴いた。ふわふわした微かな光が部屋全体に広がり数秒でスッと消える。
「おおお」
感嘆の声をあげるとわんこは照れたのかそっぽを向いて後足で耳の後ろを掻く。試しに床を指で擦ればたった今水拭きで磨きあげたかのごとくきゅっきゅと音がする。きゅっきゅ、きゅっきゅと楽しくなって何度も擦りわんこを見上げた。わんこも魔法が使えるんだね!
きらきらの目で見つめられたわんこはちょっと戸惑って目を泳がせたあと胸をそらしてふんすと鼻息で答えた。かっこいいわんこ先輩!ぼくもお掃除魔法覚えたい!とじーっと見て小さな拳を作るとぶんぶん振って気合いを示す。はあっと器用にため息を吐いたわんこはぼくの隣に伏せて鼻先をぴと、とおでこにくっつける。
「う?ふぉー!?」
不思議な感覚だ。わんこがしゃべれない代わりなのかくっついた鼻先からおでこを通して自分の中にない原理の基礎が頭に入ってくる。痛くはないけどちょっとくすぐったいかな。お掃除魔法の必要な要素は…水と空気と光。後は操作することだ。それは練習あるのみ、らしい。風と水はもう使えるからよし。ぼくはこの時から光の練習を始めた。
まずは小さな灯りから。マッチ大から徐々に大きくしていきついには部屋全体を覆い尽くすほど広げられるまでになった。次に無口だけど面倒見がいいわんこはぼくに付き合って何度もお掃除魔法を使って見せてくれた。今まではやっぱり見てない内に掃除してくれてたんだろう。汚れ自体見たことがなかったけどその後はぼくが起きてるときに少し溜まった埃やぼくのよだれで汚れた部分をお掃除魔法できれいにするのを見せてくれた。
繰り返し見て繰り返し一緒にやってみた結果。
「だぅ、あー!」
「………」
上手にお掃除魔法使えるようになりました。ついでに体にもかけることで水魔法オンリーよりスッキリさっぱり。お風呂の心地よさはやっぱりないからいつか普通に入浴したいけどね!うん、大きくなったらお風呂と食事、これは譲れないね。達成感に満足したぼくは美味しい空気で食事を済ませ素敵なもふもふのわんこベッドで眠りについた。もふもふのお友だちももっと増やしたいけど今はわんこがいるからいいのだ。
「あふー…」
欠伸をしてもふもふの毛皮に頬を擦り付けた。あー、極楽じゃあ。おやすみなさい。
「ぐるぅ」
わんここと黒の魔獣はほうと息を吐く。数百年ぶりに生まれた男ニンフュは人間の赤子のように無力である。その為同時期生まれた妖精たちの中から黒の魔獣が子守りと護衛をかねて共に過ごすことになった。子育て小屋は簡易結界の機能を持つのでほとんどただの子守りと化しているが。ぷにぷにした頬や見えずとも気配に気付くと微笑む、小さな存在は思いの外愛らしく共に生まれたことを喜んだ。衛生面など気を配りしょっちゅう赤子を見つめて過ごしていたがしっかりとものが見えるようになると大変だった。いきなり落下するわ風を無意識に操るわ水を操ったと思ったら加減ができず水浸しにするわ自意識が芽生えるとすぐに浄化を覚えるわ。一時も目を離せない。好奇心が強いのか危なっかしくてならないが、失敗を反省して謝ることができるしすぐ直す努力を始められる素直な性情は好ましい。それに何より黒の魔獣を見るきらきらした瞳は同じ青みがかった黒目なのだ。我が子を見守るような気持ちがすでにわんこには芽生えていた。
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