第16話 ぼく、きらぷる踊る。

「お、おおぅ」

「お?気づいたんか」

「あぅ、みじゅ、うごきゅの」

「ぼくのこと気に入ったみたいやなぁ」

「おー」

ケーリィとシェリーは知ってたんだね。微笑ましそうに見られると照れくさいけど、見守られてる感じは安心する。


二人からまた水面に視線を移すと細波どころか丸い水滴の粒になって浮いてたよ。なんだろ遊んでくれるのかな?指でちょんと触れるとぷるるんとゼリーのような感触。思い切って掴もうとすると指がすり抜けて水の中に入ってしまう。もう一度指でつつくとやっぱりハリがあるつるぷるの感触だ。無理に掴もうとするとだめなのか。そっと手の平を差し出すと水玉はぼくの手の上でぽよぽよと跳ねて弾けて見せる。

「うやっ!?」

壊れて消えちゃうのかと慌てたら細かい粒はまた集まって元の大きさで空を漂っている。面白〜。


「きゃはっ、みじゅおもちろーい」

「キュンキュン」

「キューン」

狐狸も尻尾で弾いたり鼻先でレシーブして見せたのでますます楽しくなり、ぼくは浮き立つ気分のままに踊りだす。

「きゃっきゃっ」

ふわふわ漂ったかと思えば弾けて細かくなり光を反射してきらきらきれいだ。軽くジャンプしてぼくが跳ねると水もぼくの手や頭や足に当たって、跳ねたり弾けたりする。乱舞する光の中で跳ねたり揺れたり。


この時は意識してなかったけど、表面張力みたいにぷるんとゼリーっぽくなった水面の上でぼくは踊ってた。足をたたんと鳴らせば水がぱしゅぱしゃんと答えてくれるから今度はタップみたいにステップ踏み鳴らして歌う。ケーリィとシェリーは手を叩いて合わせてくれて、ぼくはそのリズムでくるくる踊って笑顔も水も光も弾けて相棒たちもポンポン跳ねてすっごく可愛くて楽しくて。もう最高!


水玉ともふもふたちときゃらきゃら笑いながら足や水音を鳴らしてその音楽に乗って歌い踊る。湖は広場より広いけど見回せば岸が見える範囲で深さはあまりない。子供のぼくが胸まで浸かるかなって感じ。今は風と水の力で水の表面に立ってる。下を見れば澄んだ水を透過して水草が揺れて一緒に踊ってるみたい。わんこは水面から少し下へ前足をおろし深さ半分くらいの位置を優雅に泳いでる。戯れに背に足をつけるとそのまま泳ぐのでふらついた僕はわんこの毛皮にしがみついた。

「うきゃー!」

「がう、うぉふっ」

風に呼びかけるように歌うとわんこごと浮き上がり毛並みにまとった水滴もきらきらと流れていく。


で、ひとしきり歌って踊って楽しく遊んだわけですが…結局落ちはしなかったものの。

「にゅれた…」

自分で入ったんだからしゃあない。服の裾を小さい両手で持ってぎゅっと…滴るものがなくならないのはあれですよ、あのー…幼児の雑巾絞りとか無茶だよね?若干諦めつつぎゅっと(いや端から見たらつむ、くらいでもぼくの主観では全力なんで)ぎゅぎゅっ!と絞り続ける。

「おーおー、全部びしょ濡れじゃん」

「あう」

はすっぱな口調の大柄な彼女は雑な手付きでぼくの頭をかきまわすみたいに撫でる。髪も濡れてるけど全然気にしてないみたい。


「アリアも来たんー?」

「おー楽しそうだったしな。いい踊りだったぜちび」

ぼくをちびと呼ぶ(何度言っても止めてくれないので諦めたよ)アリアは肩に相棒の鳥を乗せている。ふわふわの羽でふっくらした鳥は尾長鶏みたいな長い尾羽根がとてもきれいなオレンジ色をしている。

「ん、ありがちょ」

「けどま、風邪でもひいちゃあまずいだろ?ほら」

アリアがくるくるとタクトをふるように指を回すと彼女の相棒の鳥の尾羽根から火の粉が僕の周囲に纏わるように舞って温かくなる。

「ほわぁ、あっちゃか」

「ンーよし、乾いたな」

本来ニンフュは火の魔法と相性が良くないんだけど、彼女は火の属性を持つ幻獣が相棒だから少しなら扱えるんだって。


ぽふっと髪を撫でて満足そうに笑うアリアにわんこが尻尾を振っている。保護者としてお世話になったお礼を伝えたいようだ。

「うぉう、うぉ」

「ああ。ってお前も全身濡れてんじゃねえの、ほら」

鷹揚に頷きながらわんこも乾かしてくれる。気前がいいというか気風がいい男前というか…姐さんと呼びたくなるな。ぼく、男だけどアリア姐さんみたいな人を目指そうかな?

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