第13話 ぼく、ご近所デビューする。

まあそんなこんなありまして、部屋と部屋の周り泉のそばまではてちてち歩けるようになり。いよいよ他のニンフュにも挨拶をしようということになったのですが。

「うー…」しゃららん

「迷子になったらぁ、困るでしょう~?これなら探すときみんな顔を知らなくても目印になると思ってぇ」

「がふっ」

あの鈴蘭みたいな花をまじで猫鈴みたいに首にくるっとつけられております。そこ、わんこ笑ったな!?

「ううぅ」

只でさえ初めて会う人たちに緊張してるのに~迷子札なんてカッコ悪いの嫌なんだけどぉ、とライラママの口調を真似て言いたい。だけど今のぼくはまだ小さくて、ニンフュの暮らすここがどのくらいの規模の場所かも知らないから。ぐぐっと我慢するぼくって心は大人だと思うの!

ふぬっと息をついて俯き丸まっていた背を伸ばす。いつものワンピースみたいな貫頭衣もぴっと伸ばすように撫で、胸を張るようにすっくと立つ。いざ、ご近所デビュー!なのだ!


ライラママと手を繋いで行こうとしたら身長差がありすぎて辛いので、だっこされそうになりいやいやする。

「うぁ~あーだー」

「あらあらあらぁ、あんよがいいの~?」

「あーぅっ」

体を揺すり手を離すぼくに困ったように頬に手を当てるライラママ。

「まあ~。でも手を繋ぐか抱っこでないとぉ、はぐれちゃうんじゃないかしらぁ~」

「う~う~やっ」

困らせたい訳じゃないけど通らない主張に涙腺が緩み始める。いよいよ困ったライラママはわんこと目を見合わせて首をかしげた。

「や、なのぉ?どぉしましょ~」

「…がぅ」

ため息をつきながらうなずいて見せたわんこにライラママはにっこりする。

「あら、そうね~じゃあぼく~この子と絶対離れないのよぉ?」

「あ~い!」

というわけで現在わんこに乗って移動しております。いやあ良い眺めだ!あれ、あんよ…?まいっか、もふもふだし~♪



部屋を出て泉の方へ行くものと思っていたらぐるっと回って反対の方へ。実はうち、集落の端の方だった。中心になる辺りまでもふもふを堪能しながら来たんだけど…。ニンフュって浄化得意らしくてお風呂要らないし食事は空気だから寝場所だけあれば良いわけで、他のニンフュの家(?)もワンルームな間取りっていうか壁があればまだ良い方で、もう木陰に何か敷いて寝るとか木の上や平たい石の上で寝る、なんて強者もいるんだって。つまり点々と簡素な建物…ぼくんちみたいな小屋とか四阿あずまやがあるだけであとは自然のままってわけ。ぼくんちの辺りは森が見えたけどここは林の中ってかんじ。少ーしだけ間引いて広くなったところにニンフュが住んでいるらしい。


中でもひらけて丈の短い草花の生い茂った絨毯の広がる中に人が集まっている。見たところ小さな子供はおらずみんな成人しているようだ。この世界の成人年齢はまだ知らないんだけど、少なくとも17、18以上に見えた。そして耳が薄い水色に透けたヒレのような水かきのような形状だ。…そういえば五体満足と思ったあと自分の姿って見てない?ライラママは髪が長くて耳隠れていたし。鏡って部屋になかったし。そーっと手を耳のある位置に持っていくとみんなと同じ薄いヒレ耳だった。手触りはすべすべしてる。鱗の感触に近いかな。でも固い訳じゃなくて人間の耳みたいに折り曲げて「餃子~」もできる。見た目餃子にはなんないけどなっ。他に見た目が変わってるところはないみたいだ。髪の色は薄い水色や緑色が多いような気がする。あとは…みんな女性に見えます。


男がいない。


ど、どうしよう。前世で読んだ本のハーピーあるいはハルピュイアみたいな人間の男を引きずり込んで生殖する生態だったら…。そういうのがダメだからつるぺたなこの体になってラッキーだと思ったのに…うう。っていうかこの中でぼく一人男ってことは逆に搾り取られ…?もうぐるぐる再びで目眩するし怖くて震えるね。

「がぅ?ぐるるぅ」

密着した状態なのでわんこにすぐ震えが伝わって心配させてしまうのが申し訳ない。だがこのバイブ、正解を知るまで止まらないかも。

「あうぅ…」

「が…がふ、がうっ」

なのでこんな子供が生殖事情を聞くのはアレだけど聞かなきゃわかんないんだから仕方ない。腹をくくって聞いたところ世界から生まれるんだからそんなわけ無いだろ、と。そ、そういえばそう聞いてましたね。さーせんっ。

でもぼくだけ違うの、なんでかなぁ…。震えは止まったけど、受け入れてもらえるかちょっと不安だ…。

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