スタート赤ちゃんライフ

第3話 うまれました。

異世界に自分が転生するならば。考えたことはあるけどしょっちゅうじっくりリアルに考えてた訳ではない。妄想、空想の域を出て改めて言われると何であろうか…望み?とりあえず大事なのは動物にふれあえること、仲良く出来ることである。アレルギー無しの健康体、丈夫であれば尚良し。ほどほどの人間関係、一人で生きていけるとは思ってない。後は身の安全と暮らし易さ…不動産物件選びみたいになってきた。ああ、仕事もしたいな。何にもしないで生きられるというのは魅力的かもしれないが目的意識無く生きるというのは苦痛になりうる。ただただ無為に生きる、なんていうのは仙人みたいな超越した精神構造ならいいかもしれないが自分は単なる動物好きののいたって凡庸な人間である。無理に決まってるって。


というわけで動物に対する親和性をMAXに、身の周りの安全とあんまりブラックだったり違法じゃなければ何でもいいから仕事が欲しいです。と念じながら水底に沈む感覚を味わっていた。

どんどん、どんどん沈んでもうそろそろ一番底まで着くんじゃないかなと思った。ところでふと思い付いた。そうだ、モンスターテイマーになろう!と。そして憧れのファンタジー生物ドラゴンに乗って世界をめぐる旅がしてみたい。それで冒険者とやらにでもなれれば何とか…ならないかな?なら動物の飼育員とか…?今度は潔癖じゃなくどんどん動物に触れたい。きれいに洗ってブラッシングしたり餌やりやトイレ掃除…でも、短期バイトしかしたことない自分は社会人として働いたことがない学生のまま一度目の生を終えた身だ、それ以上具体的には業務内容なんて思い付かなかった。

就職活動なるものだって未体験である。ちょっと不安になってきた。見知らぬ場所でたった一人で始まるのだ。新しいものに対する期待はあるけれど、何もかも新しく自分で始めなければならないのだ。前世のベルトコンベアのごとき不自由でもぬるま湯のように楽チンなものではない。すべて自分で決めて責任を持ち自分から動かなくては。


追い詰められたような気分でそう思ったときふわりと優しく柔らかなそよ風に包まれる。何も見えないのに感じる。それは自分を励ますようにさやさやと頬を撫でていく。はっきりと言葉でわかることはないけどなんとなく大丈夫って言ってくれているような気がした。大丈夫、そばにいる、一緒に頑張ろう、って。急がなくても良い、ゆっくりでも良い、一緒に成長するから、そう励まされた。緊張で固くなっていた体から余分な力が抜ける。するとそよ風は自分の中にすうっと溶け込んで、ゆるりとほどけて馴染んでいた。何だかわからないけどそよ風はもう一人の自分のようだ。お腹がほっこりする存在感にほっとすると意識はさらに溶けて…。





あたたかい。日溜まりのような縁側で居眠りしたときみたいな心地よさ。さやさやと木の揺れる音。優しく頬を撫でる、濡れた…舌?

「…?」

動揺しながら目をばちっと開けたつもりだがなんかぼやけてよく見えぬ。

「あらあら、気に入ったのかしらぁ~」

ふわふわした優しげな声がしてそちらを見ようとするが、体が思うように動かせずにモゾモゾと身動きする。芋虫にでもなったかと思う。うごうごと手足を動かすとふわふわの毛玉に当たった。もふもふもふもふ。よくわからんけど良い手触りですありがとうございます。

すり寄って暖かいもふもふに安心したらまたまぶたが落ちてくる。状況もわからぬまま二度寝に入っていた。


「何百年ぶりかしらぁ~赤ちゃんだなんて~。この子はどんなに育つかしらね~………?あらあら、この子じゃなぁい!何万年ぶりかしらぁ~今年はきっと豊作ねぇ~!」


なんて言ってるのを知らぬままに。

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