第11話 ぼく、お散歩する。
ライラママとわんこ監督に見守られながらあんよと魔力量を鍛え、自覚を持ち部屋んぽ+外二歩を繰り返し今日からは本格的におんもへ出ます!
「うー、ぅああああ」
今、偉大な三歩目を…あっ。
「だ…っぅ」転けた。
なにも凹凸のない平坦な床と違って土のでこぼこした草花たちが自由に生えたおんもは難易度が段違いだった。一歩や二歩じゃあわかんなかったね。思いっきり上げた(つもりの)足をつんのめらせて顔面から豪快に倒れ込み、大地へ初キッスを捧げたぼくです。
鼻のてっぺんが擦りむけただけで良かったと思う。思うんだけど、痛みへの耐性は年相応で痛いのか熱いのかって感じでぼろぼろ涙が出てくる。
「うぇ、ひ…っ、びやああああああああん」
「あらあら、痛かったわね~よしよし、大丈夫よぅ。ほ~ら」
ライラママがしゃがんで正面からぼくの鼻にふっと息を吹きかける。ちょっと染みる感覚にまたびゃっとなって思わず鼻を押さえたけど、そこにはもう傷はなかった。擦りむけてひりひりする皮膚もかさぶたもない。さわり心地のよいつるんともちもちの赤ちゃん肌である。解せぬ。
自分のちっさい鼻を撫でたり摘まんだりして首を捻っているとライラママが軽やかな笑い声を立てる。
「うふふ~私の得意魔法なのよ~」
「ぅ、まほっ」
まさか、治癒魔法が!?
「そうよぅ、まずは洗って浄化ね~」
あの染みたの水の洗浄か。
「それから光と風でこうして…こうよぅ!」
えっとつまり、異物…ごみをとっぱらって細胞を活性化して自己治癒力を高めた、って感じ?ライラママは感性のヒトなんだな。あはは。
できればぼくも覚えたいなあ。完全治癒するいわゆる魔法でぱぱって治すのとは違うっぽいけど。
「あー、あぅま」
「ぼくもしたいのぅ?そうねぇ~」
「がぅ」
そばで黙って見ていたわんこが近くにあった白い花を鼻先でつつく。
「あらそうねぇこのお花がちょっと傷ついているからぁこのこを治してみる~?」
「だうっ」
提案に飛び付いて元気良く手を上げて返事をすると、今度は転けないようにそうっと歩くようにしてその花に近づく。まあほんの一歩くらいですけどね。
その白い花は茎の部分が少し削れたような傷ができてふちが茶色くなっている。
「うにゅ」
これは自己治癒力でなんとかなる、のかな?とにかくまずはお水~。からの浄化~、で。うん?
「ちょ、待って~」
「がぅ…」
一人と一匹に止められて花をまじまじ見ると、生き生きして風に揺れる白い花がそこにあった。あるぇ?まだ活性化はしてないよ?
「う?」
「植物だものぅ考えてみれば当然だわねぇ~」
「あぅ…」
「水と光、しかも魔力で栄養たっぷりぃ」
「がぅ」
さもあろうとうなずくライラママとわんこにぼくは口を尖らせた。練習になんないじゃん!
「あらあら、ごめんなさいね~。でも、植物じゃなくっていうとぉちょっとねぇ~」
確かに、治癒といえば怪我だけどわざと傷つけるとか絶対駄目だと思う。
「がぁう、ぐるる」
「まあ、そうねぇ。今はお外の歩く練習ね~」
「うぅ、あい…あんよ」
仕方ない。今はおんもであんよに集中である。
よちよちてちてち歩く練習をしながら転けたら治癒の練習をすることにした。
転けて泣き転けて泣きしながら歩くようになって、たっちもあんよも上手になったと思うの。掴まり立ちは卒業したし擦りむいたくらいで泣いたりしなく(涙目は泣くって言わないもん)なった。傷ができたら見よう見まねで治癒って言うか細胞活性の魔法を使ってみる。傷口を洗って浄化して異物取り除いて、細胞に働きかけて自己治癒を加速。これって何となくだけど普通の人間にはあんまり使えないよね。細胞の活動限界を越えたら細胞自体が死滅すると思う。そしたら多分、治癒どころか老化が進んで死んじゃうんじゃないかな。あんまり多用しちゃいけない気がします。
「がぅ?」
「だぶ~、あぅ、あうぁ…」
考え込んで涙目(泣いてないもん)になったぼくを心配してふんふん鼻を寄せるわんこに、治癒()魔法についての考察を身ぶり手振り語るとわんこにベロンとなめられる。
「ぷぁっ!?」
「ぐるぅ」
わんこによるとぼくたちニンフュは長命らしくちょっと治癒活性したところでさほど影響はないと言う。わんこたちニンフュの相棒になるものたちも特殊なため影響はないとか。すんごいほっとしたよ~。まあただの人間なら考えた通りらしいのでちょっとやそっとじゃ使わない方がいいようだ。うん、いつか広い世界で人間に会うようになったら気を付けないとだね。
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