難局




 昭和19年11月


 大日本帝国軍は無条件降伏を受け入れ、第二次世界大戦のアジア太平洋に於ける戦いは連合国の勝利で終わりを告げた。そして、前年に無条件降伏したイタリアと同様に、新政権の日本では対独戦、中でも海軍による米英仏への後方支援のための準備が進められていたのだが・・・・・・



 昭和19年12月



 敗戦間もなく、主に食糧等の配給制も続く中、未だ多くの一般市民は戦争前の生活に戻る事は出来ずにいたが、それでもこれからの未来に希望を抱き歩み始めていた。

 しかし不幸は突如としてやってくるもの・・・・・・それは12月7日、開戦記念日の前日だった。

 三重県熊野灘沖を震源とする巨大地震が発生。地震と津波により、東海地方以西の地域や名古屋周辺の工業地帯は壊滅的な打撃を受け、新政府は発足間もなくして難局にぶち当たった。



 地震発生から数日後 東京


「総理、このままではとても対独戦等・・・・・・」


「まあ、そうだな・・・元々、かなり無理はあったんだ。幸い、英国も国内の復興を優先して欲しいと言ってきておるし、米や豪は公式に支援を表明してくれた」


「ルーズベルトは確か超がつくほどの反日家だったようですが、最近おかしいですね」


「まあ、支那での問題も片付いたし、何よりルーズベルトが本当に我々を潰したかったとしても、アメリカ国民へのアピールとしてかつての敵日本を助ける。プロパガンダとしてはいいもんだ」


「米国は新型爆弾を開発中で、日本に落とすつもりだったとの話もあるようですが・・・・・・」


「それは事実だろう。それに我々日本の技術ではそんなものは簡単に作れない。作ったとしても使えるかはまた別だ。そもそもそんな大量破壊兵器など、お上は絶対に反対なされるからな。でもアメリカは作れる、使える。だからこそ、それの完成前に我々は決起したんだ。それはあくまで日本の為だ。敗戦という形にはなったが、日本の国や日本人自体がこの地球上から消えた訳では無いからな。と、話がそれたが、現状では本格的な対独参戦、軍隊派遣は取り止め。ひとまず災害からの復興に全力を挙げる」


「そうですね・・・しかし、未だドイツベルリンに残したままの我々の大使や武官はどうなるんです?今やヒトラーは我々を敵と認識しております」


「それはこちらもだろう。まあ、米英に宣戦した時はちゃんと交換できたが、今の独国相手だと分からんからな・・・・・・米英には頑張って貰わんと」


「ヒトラーは交換に応じないのですか?」


「かつてのヒトラーなら可能性はあっただろうが、ドイツの敗色濃くなった今、あの男は少しおかしくなってるようだ」


「確かに、ここのとこ大衆の前に姿は現しませんがそんな・・・・・・」


「ユダヤ人等への迫害も最近酷くなったと聞く・・・もしかしたら、今や日本人も捕らえられているかもしれん・・・・・・しかし、ヒトラーはそこまでは考えていなかったとも・・・・・・」


「・・・・・・党内にヒトラー総統以上の差別主義者がいるという事ですか?」


「まあ、ヒトラーだけであの体制を作ったわけではないからな。ことユダヤ人差別等に関しては米英仏でも兼ねてよりあった事だ」


「確かに我が国でも大正の震災後にデマによる朝鮮人への誹謗が問題になりましたし、どこの国にもあるものなのですな」


「まあ、人類皆同じ肌色や同じ宗教信仰ではない限り、それは一朝一夕にどうにかなるものでもない。とにかく今我々は、被災地の復旧復興だけを考えるしかない」


「はい。既に地元の消防や警察、陸軍の方は救援に動いておるようです」


「そうか、さすが早いな。海軍の方は?」


「海軍も被災地に近い所にいた艦は津波が落ち着いたのを確認して、救助活動の為に急行しておるようです」


「そういえば南方からの引き揚げ船の中にも被災地出身の者がおるだろうが、このまま帰せるか、帰していいものか・・・・・・」


「確かにショックはあるでしょうが、我々政治もそんな万能ではありませんから、今は民間の方にもなんとか頑張ってもらわねばなりません」


「難しいな・・・・・・」


「数日すれば米豪両国からの支援物資が届きますので、それまで現地の人達には何とか、軍の炊き出し等で耐えて貰うしかないです」


「うむ」



 数日後、米豪からの支援物資が到着して、被災地の復興は加速していく事となる。

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