正月早々
昭和二十九年 正月
ソ連との戦争によって被害を受けた各都市も復旧復興を図る中、時の総理大臣吉田茂は公邸にある人物を招き入れた。
「総理、あけましておめでとうございます。ソ連との戦争も落ち着いて、また正月早々に呼びつけるとは一体何の御用で?」
「おめでとう。まあまあ佐武君、そう怒るな」
吉田が公邸に招いたのは、前総理高野の秘書として側近中の側近、右腕だった佐武護。現在は議員となり吉田茂総裁率いる自由党の若手のホープである。彼は正月の家族団欒に興じていたところを吉田に呼び出され、出かける際に妻にチクリと言われたのもあって、少しぶつくさとつっかかる。
「ただでさえ去年は外務省、国防省、大蔵省。更に韓国満州中国政府にソビエト側とも話し合い話し合いで休む暇なくて、妻もカンカンだったんですから」
「それは悪かった・・・・・・それでな、君は山・・・高野前総理の所在は分かるか?」
「今のあの人の事なら、いくら私にも分かりかねます。とにかく、じっとしているのは嫌いな人ですから」
「あぁ、それはよく知っておる。電話線も要らずに携帯できる電話でもあればなあ」
「そんな空想の話をしても仕方ありませんよ。それで、何故五十さんが出てくるんですか?」
「うーん。まあ、高野さんが政界に戻る気がないのは充分分かったが、日米開戦前の近衛総理への提言、あのクーデター計画等の慧眼は私にはないものでね。今後の政策遂行に当たって意見をと思ったんだがな。そう甘くなかったな」
「私も何も聞いておりませんよ。故郷の長岡にも帰られていないようですし、米英独仏伊のメディアからも、各地の軍の間諜や武官からも、内務省からもなんら漏れてきませんから、この広い地球であの人を探すのは至難の業です」
「そうか・・・まあ、そのうちひょいと東京にも顔を出しそうだな」
「ええ」
「して、佐武君。貴君は高野さんの戦後日本建設構想についてはどこまで把握しておるんだ?」
高野はクーデター計画に際し、その決起のみならず、その後の新日本建設構想を有志と共に入念に話し合っていた。
それは現在の吉田政権にも受け継がれており、それをもとに、数々の政策を実行してきたのである。
「それは間違いなく吉田総裁以上には」
「そうか!」
「まずはあのクーデター。そして、敗戦による民主革命。その後の経済、軍事、行政改革・・・この前やった産業分散化も元は高野さんの案だな?」
「ええ。あの人はずっと日本の防空の不備を指摘し、工場を分散させて空襲による経済被害を抑えるべきだと」
「それで我が国はまたここまで復活できた。それに利益を独占していた大手財閥の解体、中小零細企業への支援体制の確立・・・この前の戦争ではこれが功を奏して空襲被害は甚大とはならず済んだ」
「ええ。それに米軍もよく協力してくれました」
「それで、戦争も一旦休戦ではあるが落ち着き、我が日本はいよいよその新日本建設計画の第二段にかからねばならん」
「第二段・・・列島再編計画のことですか?」
「そうだ。第一段は高野政権であらかた完成し、私はなぞるだけだったが、これからはそうもいかん」
「はい。それで、私は何を・・・」
「佐武護君。君を内閣特命の列島再編計画担当大臣に任命する」
「・・・はっ」
これから暫くして内閣改造が発表され、佐武は内閣特命列島再編計画担当大臣として、異例の若さで初入閣する事となった。
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