列島再編
昭和二十九年 夏
列島再編計画は、高野政権からの戦後日本改革の集大成とも言える政策である。
そして、現総理大臣吉田茂はその計画の完遂を自党の新進気鋭の若手議員、佐武護に任せたのであった。
「にしても、難しい仕事だな」
汽車の車窓から景色を見ながら、佐武は呟く。
列島再編とは言っても、この国は狭いようで広い。千島、北海道、本州、四国、九州、沖縄、更に伊豆、小笠原諸島やその他小さな島々まで全てを網羅するというのは難しいのだ。
そこで高野前総理は東西南北を無理矢理統一するのではなく、米国のような地方自治制度を考えた。
高野の案では、現行の1都1庁2府43県を再編し、千島道、北海道、東北道、北陸道、北関東州、関東州、東海道、阪神州、中国道、九州、琉球道、小笠原州の7道5州に再編、整理するとされていた。
が・・・・・・
(吉田総理は高野総理の案を今一度見直すべきだと仰られた。都庁府県の再編、道州制移行という根本は二人とも意見は一致しているが、吉田総理の案では高野案のそれより細かに分かれる・・・・・・どちらにせよ、明治以来のこの国の形を大きく変える事に間違いはない)
実際、この道州制導入案については国民世論も賛否両様で、とりわけ60代以上の高齢者に至っては、保守的な人々が多く、批判的な意見が多かった。
(しかし、国民が今日のように議論を交わし合うのは良い事だ。高野さんの撒いた種が生きてきたという事か・・・・・・)
どこにいるやも知れぬ、博打好きの老齢ながら恰幅の良い男の顔を思い起こし、佐武は汽車を降りる。
彼が降り立ったのは東京駅。列島再編計画に伴う地方視察より戻ってきたのであった。
それから数時間後・・・
東京 佐武護大臣私邸
佐武は内務省、国防省の官僚を集め、視察結果の報告と列島再編案の調整を行っていた。
「国力の強化を考えるならば、やはりこの道州制は何としてもやらねばなりません」
各道州で切磋琢磨し、競争させる事で日本という国全体の国力が向上していくと信ずる佐武と官僚達。
この日の議論もまた白熱し、次の会議でも・・・そして、議論に議論を重ね、最終調整をして法案が国会に提出されたのはこの日より2年近くが過ぎた昭和三十一年の初夏の事であった。
昭和三十一年 初夏
「道州制法案。賛成多数により、可決致します」
議会で道州制導入法案が正式に認可。佐武もホッと胸を撫で下ろす。
最終的な内容は各都庁府県を北海道、東北道(青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島北部)、北関州(福島南部、茨城、栃木、群馬)、関東州(埼玉、東京、神奈川、千葉、静岡東部)、北陸道(新潟、富山、石川、福井、長野北部、岐阜北部)、甲信州(山梨、長野南部、岐阜南部)、東海州(静岡西部、愛知、三重、和歌山)、京阪州(京都、滋賀、大阪、奈良、兵庫東南部)、中国道(兵庫北西部、島根、岡山、鳥取、広島、山口)、四国州(徳島、香川、愛媛、高知)、九州(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島)、西海道(奄美、沖縄)に再編。日本式では各道州に米連邦のように州政府が置かれるわけではないが、独立性のある議会が開かれ、また国軍と別に道州軍が置かれて、有事の際には国軍の指揮下に入る事が決定された。
そして、この法案が施行されたのに伴い、吉田は総理総裁の座を降り、中央政府の後継者選びが始まったが・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます