JAPの為に



 昭和二十六年十月




 六月に始まったソビエト連邦と東亜連合軍の戦争は、東亜連合軍がなんとか粘りを見せていたものの、その膨大な国土と人員、物量に勝るソビエト赤軍優勢で推移しつつあり、米国からの義勇軍の到着が今か今かと待たれていた。



 同時期


 満州国黒竜江省のとある空軍基地に、国籍識別の星のマークを付けたジェット機レシプロ機混合の戦闘機、爆撃機が集結していた。

 米国は直接対ソ宣戦布告はしなかったものの、日韓満中連合軍へのあらゆる支援を約束し、米軍機が戦場に現れる事になったのである。


「壮観だな・・・」



 満州国、韓国、中華民国空軍との連合軍で共同作戦に当たる日本空軍の参謀が、集結したアメリカの飛行機達を見て呟く。

 P51やF86戦闘機、B29やB47爆撃機等数多くの機体はここに着任後は国籍マークを塗り替えて、これらに乗る義勇軍パイロット達は、日韓満中連合空軍の麾下に入るものの、ある程度の独立性を約束されていた。

 と、その米国からの派遣パイロットの一人がヅカヅカと歩いてきて、先の参謀の元前に立つ。



「おい、その軍服と腕のミートボール、JAPか?」



「そうだが。私はこれから君達の上官に当たる、言葉を慎め」



「英語はできるんだな。ふん!JAPに敬意を表するなんて御免だ。なんで俺らがお前らの為に戦わにゃならん」



「何故そんなに我々日本人を憎む?」



「俺の兄貴はお前らに殺されたんだ。兄貴はヨークタウンの雷撃隊だった・・・・・・あの日、ミッドウェーで戦死したと聞いて俺はお前ら日本軍を、日本人を心底恨んだ」



「しかし、戦争になれば誰かは死ぬ。君の兄上は軍人だったのだろう?しかも雷撃隊のパイロットは戦場で生き残る可能性は限りなく低いものだ」



「ああ、確かにそうだな。これは戦争なんだ。仕方ない。そう思うしかなかった。だが、その戦争を起こしたのはどいつだ?!日本陸軍のマレー奇襲上陸!日本海軍の真珠湾攻撃!あの日!あの日曜日から合衆国の戦争は始まったんだ!宣戦布告文書が合衆国に通達される前にお前らは、卑怯な手で!・・・・・・」



 そう言って泣きだし、胸ぐらを掴んで来るパイロットに、参謀はただそっと、そのパイロットの目を見つめる。



「なあ、そんなに辛いならなぜ君はこの戦場に来たんだ?君の大嫌いなJAPの戦争になぜ味方として来てくれた?」



「・・・一発、お前らをぶん殴りたかった。でも、そんな事しても兄貴は帰ってこない・・・あの太平洋に眠る他の連中も・・・・・・」



「それで、君はどうするんだ?我々JAPの為に戦うか?」



「いや、お前らの為じゃない。俺はただ日本人よりアカが嫌いなんだ」



「そうか」



「・・・一緒にアカどもを倒すまでは味方でいてやる。だが、この戦争が終わったら、アドミラルヤマモトの墓をぶん殴りに日本に行くからな!」



「ああ、待ってるよ」



 愛機に向かうパイロットの背中を見て、微笑を浮かべる参謀であった。





















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