太平洋、停戦
陸海合同の決起から3日、あの決起の翌日には、事前に録音されたとある音源がラジオ放送され、国民世論も報道各社も決起部隊、新政府樹立に賛同し始めた。
旧軍国主義的(と看做された者も含め)指導者、軍人は続々逮捕され、新国家建設に向け邁進していた。
また、連合国側も極秘に接触を図ってきており、中立国を介し停戦に向けての交渉が進められている。
特に欧州戦線を優先させたい英国にとっては、アジア太平洋の戦線が無くなるのは喜ばしい事で、米国ルーズベルトも追随した。
日本がナチス・ドイツと手を切り、ソビエトロシアとしては東側の脅威が無くなるとこの動きを歓迎。実はドイツ降伏後に対日宣戦する計画があったようだが、和平交渉でその辺はどうにかなるだろうと楽観視していた。
斯くして昭和19年11月。米国、英国、自由フランス等の連合国政府は、日本の無条件降伏を受諾。
既に日本での政変後は各戦場指揮官らの交渉などでほぼ休戦状態にあったが、アジア太平洋における日本と連合国の戦いが正式に終わりを迎えたのである。
欧州戦線が継続中という事もあり、降伏の調印は簡素に行われ、講和についてはドイツ降伏後、改めて行われる事とした。
東京 宮城(皇居)
「全て計画通りです」
一連の決起における表の指導者が目の前に居る人物に深々とこうべを垂れる。
そう、今回の決起の首謀者とはこの国の頂に立つその人であった。
そして、こうべを垂れる彼は一体誰なのかと言うと・・・・・・
「よくやった、山本元帥」
「はっ・・・・・・あの時、お話を聞いた時は吃驚しましたが、おかげで色々とやりやすい面もありました」
「まさか軍神が蘇るとは思うまいからな。しかし貴官の死んだフリは見事だった」
「光栄であります」
元帥山本五十六大将。昭和18年4月、ブーゲンビル島上空で戦死した筈の男は、生きていた。
敵の襲撃から、からくも生還。内地で極秘に治療を受けた後、天皇直々の密命で終戦に向けての工作を行っていた。
だが表立っての活動は危険が伴う為、偽名を使い海軍の書類を細工して別人になりすました。
あの襲撃により顔に重傷を負った事もあり、味方も敵も山本長官だと気付くものはいなかったのが幸いしたのだ。
「米英は何か言ってきたか?」
「はっ、今のところ大和も長門も残っておりますゆえ、大西洋に回せないかとの話がありましたが、これは陛下に申し立てぬ事にはと、参内致しました」
「そうか・・・」
「米国はやはりリメンバーなんとかというあれがありますし、我が国の対独参戦には慎重なようですが、英国からの要請で・・・・・・」
「英国が?」
「はい、かの国もかつては世界を制した大帝国ですが、今は経済や軍事面でアメリカに頼っているところがあります。ですのでそちらの意向も重要なのですが、イギリスは開戦ギリギリまで我々となんとか交渉しようとしていた。それは我が国の海軍力を恐れたからとも言われます。その、我が国の強い海軍が大西洋に来ればとチャーチルは思っておるのかもしれません」
「なるほど・・・かつては同盟関係にあった国だからな・・・・・・しかし、我が国の現状では新たな戦などとても・・・・・・だが戦争が長引けばイギリス国民、ドイツ国民問わず危険に晒される」
「フランス国民や他のドイツ占領地の民もですな」
「まあ、いいだろう。朕は独国に対し戦を宣する。在独日本大使館に急ぎ打電だ」
「はっ!」
斯くして、対米英停戦から間もなく、大日本帝国はナチス・ドイツに対し宣戦を布告。
イタリア同様連合国の共同参戦国として少し前までの敵は味方になった。
支那では譲歩に譲歩を重ね、蒋介石政府と和解を果たし、日本陸軍は事変前の線まで撤退。満州については日中で続けて協議する事とした。
南京の汪兆銘政権は見捨てられる形となってしまったが、密かに八路軍と接触を図っているという。
日本軍が開戦後に占領した各島嶼についても米英蘭豪へ返還。
日本の正式な委任統治領であり米国占領中のマリアナやパラオの島々についてはその統治権を米国に引き継がれた。
日本軍撤退後、英国や蘭国は植民地の独立気運の高まりに悩まされることとなるが、この時点では未だ火種は小さきものであった。
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