佐渡島沖上空戦



 昭和二十五年 五月



 日本海側新潟県沖のEEZ付近に国籍不明機数機接近の報があり、日本空軍はすぐさま佐渡に配備されたばかりのジェットゼロをスクランブル発進させた。




 日本海経済水域上空



「国籍不明機、貴隊電探探知距離まで接近。各自、警戒行動を取れ」



 佐渡基地の管制塔からジェットゼロ編隊に無線が入ると、各機が電探を確認。国籍不明機に視認距離まで接近を図る。



「各自警戒を厳にせよ。下命あるまで火器の使用は禁ず」



 隊長機が命令を飛ばす。

 そして、ジェットゼロ隊は国籍不明機を視認。識別票からソ連空軍ミグ戦闘機と判明。手順通りに英語で警告を行う。



「こちら日本空軍、こちら日本空軍。ソビエト空軍機に告ぐ。貴機の進路はこのままだと日本国の領空を侵犯する可能性がある、直ちに進路を変更せよ。繰り返す。貴機の進路は日本の領空を侵犯する可能性がある、直ちに進路を変更せよ」



 しかし、ミグ戦闘機達は進路を変えず真っ直ぐ日本本土領空へ向かうルートを飛行し続ける。



「隊長、奴ら引きませんぜ」



 ジェットゼロパイロットの一人がミグ戦闘機を追尾しながら無線を飛ばす。



「警告を続けろ。英語、ロシア語、ドイツ語、出来るものはウクライナ語やとにかくあらゆる言葉でだ」



「了解」



 数ヶ国語で警告を続けるジェットゼロ隊。しかし、ミグ戦闘機から返事はなく、旋回する素振りもない。



「隊長、もうすぐ領空です。警告射撃の許可を願います」



「うむ・・・仕方がない。警告射撃を許可する」



「はっ」



 引き返さないミグ戦闘機達に対して、ジェットゼロ隊は警告の機銃を放つ。



「ソビエト空軍機に告ぐ。これは警告である。繰り返す。これは警告である。直ちに進路を変更せよ。さもなくば撃墜する。繰り返す・・・」



 英語、ロシア語、ウクライナ語・・・あらゆる言語で交信を行うが、ミグ戦闘機からの返答はない。

 それどころか・・・



「隊長!奴ら、奴ら・・・撃ってきました!警告射撃の射角ではありません!」



「こちらもだ!幸いロケット弾じゃなくて助かったが・・・管制!こちら佐渡ジェットゼロ隊!ソビエト空軍戦闘機と交戦中!」



 この無線で地上の基地管制塔は大騒ぎとなった。



「警告射撃されても引き返さず撃って来たとは・・・」



「司令、撃墜許可を出しましょう。こうなったら警告は無意味です!」



「・・・・・・分かった。責任は私がとる」




 佐渡島基地司令の護田空軍少将は、すぐさまジェットゼロ隊にソビエト空軍機の撃墜命令を出す。




 佐渡島沖上空で撃墜命令を受け取ったジェットゼロ隊は、すぐさま戦闘隊形に入る。



「二機編隊ずつ散開!照準を定め、確実に仕留めろ!」



「はっ!」



 大陸に近い佐渡島基地のジェットゼロ隊には、歴戦の熟練パイロット達ばかりであり、この日は初のジェットゼロの実戦であったが、見事ミグ戦闘機全機撃墜、味方損害0という先代の零戦の初陣よろしくの戦果を挙げたのである。

 因みに辛くも脱出に成功したミグ戦闘機のパイロット達は、日本海軍の警備艇に救助され、身柄を預かることとなった。


 そして、この日の領空侵犯に関して、日本政府はソビエト政府に対して抗議。

 英米等西側諸国も、撃墜は当然の自衛行動と日本軍の行動を称賛した。

 ソビエト政府は日本政府の抗議に反論するでもなく何らの対応を示さず、日本軍は韓国軍と協力し、北海道から対馬にかけての日本海側の防衛監視体制強化を決定。

 それに呼応するかのようにソビエト側も対岸の沿海州に飛行場を増設。

 日ソは互いにその領土を攻撃可能範囲とし、全面戦争とは行かずに済んだものの、緊張状態が作られた。
















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