新型戦闘機




 昭和二十四年 夏



 兼ねてより独立協議が進められていた朝鮮半島は大韓共和国として独立。

 日本、満州国、中華民国、ソビエト連邦、米国、英国等は即座に独立した韓国と国交を樹立。

 国際連合にも加盟し、国際社会にまた一つ、新たな国が加わった。



 そして、この頃。日本国内では次世代型戦闘機と、それを載せる空母の開発が完成しようとしていた。

 因みにこの戦闘機は陸海空三軍共同で運用される予定であり、開発には支那事変から大東亜戦争を戦い抜いた陸海軍歴戦のパイロットや整備兵達も関わる事となった。

 この日、無事試験を終え、採用されたその新型戦闘機の名は二四式噴式戦闘機 。愛称はジェットゼロ。

 命名要件も改められ、元号で制式名が付けられた日本初の量産型ジェット戦闘機である。

 その愛称からも分かる通り、海軍の零式戦によく似たスマートなフォルムで陸軍出身のパイロット達からは噴式隼、ハヤブサジェットなどと呼ばれ、熟練搭乗員達にも好評で迎え入れられた。

 そして、そんな新型機に誰よりも魅せられたのは・・・




「総理、ジェット戦闘機の発進はヘルメットも耐火服もなしにそんな間近で見たら危ないですよ」



「いやはや、佐武くん。これがあの戦争にあればなあ」



「あったって、空母に積めなかったでしょう。大鳳や信濃でもあくまでレシプロしか想定してなかったですし」



「はは、そうだな」



 高野総理は新型戦闘機の初飛行をわくわくして待ち構えていた。

 因みにテストパイロットは高野もよく知る男である。



「源田のやろう、新型機のテストを是非やらせろと国防省に押し掛けたそうだな」



「はい。流石に源田さんクラスの軍人にもしもの事があったらと断ったそうですが、"俺の腕でもしもの事なんてあるか!そしたら、空の上で腹を切ってやる!"って啖呵を切ったそうです」



「ははは、彼もやはり戦闘機乗りだからな、源田サーカスはジェット戦闘機でも出来るのかな・・・見てみようじゃないか」



「はい。まあ、一先ずテントに行きましょうよ」



「間近で見たかったがしょうがねえか・・・」




 子供のように拗ねたような態度を見せる高野に、佐武が苦笑する。



「長官!じゃなくて、総理!今日は御出席の予定はないはずでしたが・・・」



「大西。お前、俺がこんなイベントほっとくと思うか?」



「あー、そうですな」



「ていうかお前聞いたぞ、あの戦争が続いてフィリピンまで米軍が来たら航空隊の体当たり攻撃を考えてたそうだな」



「あっ・・・しかし、あの状況でしたし私のみならずそれこそ源田や他の航空系参謀達も・・・」



「そんな事はいい。ハワイやオーストラリアで甲標的の作戦が上手く行かなかった時、俺がなんて言ったか覚えてるか?」



「はい・・・」



「十死零生の作戦は作戦とは呼ばん。そんな作戦しか取れんのはもはや軍隊ではない。しかし、今こうしてお前が空軍最高司令官となったとはなあ」



「はっ。私も海軍時代を反省し、戦闘機開発に於いては先ず搭乗員の命を何よりも優先するようメーカーに嘆願致しました」



「そうだな、何よりも大切な事だ。どこの国でも、どんな新兵器があっても、それを扱う人がいなきゃ戦えんし、守れん。その点、あの頃の海軍は兵士を駒としてしか考えず、多くの貴重な搭乗員達が空に海に散ってしまった・・・」



「陸軍は隼に当初から防弾板を装備していましたな・・・」



「まあ、今更後悔しても遅いな・・・」



「そういえば、海軍は新型機用の空母を建造中と聞きましたが、進捗は?」



「まあ、日本海軍は元々外洋艦隊ではないし、出番があるかは分からんがいざと言う時困るんでなあ・・・米英からの技術支援もあって、あらかた完成してはいるが、発着艦の訓練は難しそうだな」



「レシプロの零戦などとは速度が段違いですからな・・・」



「各空母搭乗員から希望者を募ってはいるが、皆怖がっておるようだ。雷撃隊の連中は流石にビビらなかったがな」



「これからの戦争は雷撃隊を敵前に突入させ危険な目に遭わせる必要もなくなるんでしょうなあ」



「そうだな。お、源田が飛ぶぞ」



「総理。耳栓をしといてくださいね」



「あぁ」



 新型機のエンジンが点火し、凄まじい轟音と共に無事、離陸していった。



「ちゃんと飛んだな」



「テストはここからです」



 そう言うと、検査官が源田に高度を上げろ、旋回しろと矢継ぎ早に指示を出し、源田もそれに答えひょいひょいと新型機を乗りこなし、着陸した。

 着陸後、源田は高野の顔を見つけ、駆け寄ってくる。




「長官!ではなくて総理でしたな、失礼。いらっしゃるなら言っといてくださいよ」



「皆を驚かそうと思ってな。そういえば源田も空軍に行ったそうだな」



「ええ。私はやはり飛行機乗りですからな。今はもっぱら現場で若手の指導に当たっとりますわ」



「して、どうだ。新型機の感想は?」



「いやあ、まず速度が零戦や紫電等とは段違いですから、ちと怖いですがいい飛行機には間違いありません」



「空母でまともに運用するならどれくらいかかる?」



「まあ、先の戦争の教訓から考えましても、三年近くは最低でも見積もるべきでしょうな」



「成程、育成はいつになっても時間がかかるな」



「技術は進化しても、人間というのは変わりませんからな」



「そうだな」



 さて、源田がテストし無事に採用された二四式戦闘機は意外にも早く初陣を迎える事となった。























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