クリスマス
昭和三十三年 十二月二十四日
前日、皇太子の誕生日からクリスマスまで連休とあって、日本国首相佐武護は国民と同様、家族と共にゆっくり過ごしていた。
「ねぇパパ?サンタさんってどこに住んでるの?」
そう聞くのは、佐武家の次女である
「サンタさんはね、ノルウェーとかフィンランドとか樺太とか、寒いとこに住んでるんだよ」
「サンタさんって一人じゃないの?」
「そうだよ。文愛のおうちに来るのは、樺太のサンタさんかな」
「樺太って遠い?」
「遠いよ」
「じゃあ、そんなに遠いとこから来てくれるなら、いい子にしてないとだめね」
「そうだな。文愛はサンタさんに何お願いしたの?」
分かっていながら、一応聞くのが親心というものだ。
「えーとね、あやちゃんね、くまさんのぬいぐるみ!」
「そうかあ。じゃあケーキ食べたら、歯磨きして早く寝ないとな」
「うん!」
その後、子供達も寝て夜遅く・・・・・・
「あなた、どうしたの?」
何か思い詰めたような佐武に、妻の喜子が心配そうに問う。
「次にこうして家族で一緒に過ごせるのはいつになるか・・・・・・」
「あなた・・・もしかして、また戦が・・・・・・?」
「流石、首相夫人だな・・・・・・巷でも噂になってるのか?」
「ええ、満洲国との国境にソ連軍が集結していると・・・・・・」
「満洲国は我が国にとって米国に次ぐ縁がある。だから、我が国が静観というわけにはいかない。これからまた忙しくなる」
この頃、日本は米国、満洲国、韓国、中華民国と環太平洋安全保障同盟ともいえる関係を結んでいた。
この世界では中華人民共和国は誕生せず、東アジアは安定しているかに思われたが、これらの国の共通の脅威が北の大国、ソ連であった。
「大丈夫。あの子達もパパの仕事は分かっています。だから、心配しないで」
「ありがとう・・・・・・」
そう言って、護は喜子を抱きしめる。
「・・・・・・・・・?」
「どうした?」
「何か聞こえません?」
「ん・・・こんな時間に飛行機か?空軍の夜間訓練でもあったかな・・・・・・」
国防省からは何の情報もないが・・・と思いながら、窓の外を見やる。
「飛行機じゃないな・・・・・・」
「じゃあ、ヘリ?」
「いや、それも違うようだ。見てみろ」
そう言われ、上空を眺める喜子。
「あら、あなた。本当にこんなこと・・・・・・」
「まさかな・・・・・・」
そして、二人はこの飛行するものを子供のようにいつまでも眺めていたのであった。
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