我ら瑞鶴航空隊
昭和三十四年 二月
一月、満州国境地帯からのソ連軍の砲撃によって始まった戦いは未だ収束の気配を見せることなく、ソ連側の周到な計画によって、日米満韓中の対共連合軍は劣勢に立たされることとなる。そんな状況の中、日米連合海軍は海からへの陸上友軍への支援策として空母戦闘群を用いたソ連軍部隊への爆撃を計画。既に旧式となり廃艦も噂されていた日本海軍歴戦の武勲艦、航空母艦瑞鶴の艦載航空隊も再び戦いに駆り出される事となった。
日本海洋上にある瑞鶴の艦内では、搭乗員達も久々の実戦に浮き足立っていた。
「ジェットゼロでどこまでやれるかな」
「今回は前回と違う。新兵器の誘導ロケットだってあるんだ」
ちなみに瑞鶴も、大東亜戦終結時よりかなりの改造を施され、ジェットゼロ程度の初期型ジェット機運用に耐えられる装甲甲板やカタパルトも採用。最新の空母には劣るが、艦載ジェットゼロには新兵器、追尾誘導装置付のロケット弾、零式ミサイルと名のついたそれを装備し、それでもまだ充分戦える力はあった。
「小隊長、今回の爆撃はどれほど有効なんでしょうかね?ソ連軍はそれこそ畑から兵士が取れるとも言いますし・・・・・・」
「しかし、徴兵も無限ではない。それにこっちだって米国の物量支援があるんだ」
「確かに米軍の圧倒的物量支援は心強いですが、我々はしっかり勝てますか?」
「勝つ。勝って、友邦を守る。そして、皆で帰るんだ。いいか、例え右腕を吹っ飛ばされても、左手で操縦桿を握って、両腕を失っても足で、足を失ったら口で操縦桿をくわえてでも帰ってこい。被弾して機体が火を吹いたら、どこだろうと脱出せよ。どんな状況でも、体当たり攻撃のごときは絶対にならんぞ」
「敵の捕虜となり、過酷なシベリア送りにされても・・・・・・ですか?」
「そうだ。何年かかっても、殺されない限りは必ず生きて帰ってこい。それが友邦のみならず、日本国の未来、郷里の家族の未来の為だ。これは、軍総司令官佐武護首相閣下の厳命でもある。よいな!」
「はっ!」
そして、この何があろうと、帰還不可と見ても原則自爆攻撃厳禁という司令は日本軍のみならず、友軍の米韓満中軍にも佐武の働きかけによって徹底されている。戦いとなると多くの人員や飛行機が必要となる。そして、自爆攻撃はそれらを無駄に消耗し、戦局を不利にしかねないと、佐武は各国軍の指導者達に大東亜戦、前回の対ソ戦時の連合軍のデータを用いて説得したのである。
「ですが小隊長殿、自分には一つ疑問があるのですが」
「なんだ?」
「両手両足を失えば、口で操縦桿をくわえようと、ラダーペダルやギア等の操作ができません。爆撃機や旅客機なら自動操縦で何とかなるかもしれませんが、そのようなシステムがない戦闘機は墜落してしまいます」
「はは、そうだな。その時は俺が機体の背に乗せてお前の機毎連れ帰ってやるさ」
「ありがとうございます、小隊長」
とは言ったが、彼らもそんな神業が本当に可能とは思っておらず、その状況になれば諦めるしかない事をよく分かっていた。
それでも戦わねば、友邦が、祖国が危険に晒される。だからこそ、戦うのだ。建前上、国の為だなんだと言ったが、誰しもが、愛する者達を守るために戦うのである。
そうこうしている内に発艦命令が降り、搭乗員達は整備兵に礼を言いつつ、甲板上で愛機に乗り込む。ジェットエンジン特有の耳を劈く音が瑞鶴甲板上に響き渡り、一機、また一機と発艦していく。彼らは発艦後、上空で集合。全機、陸用爆弾やミサイルを抱え、一路、満洲国北東の街、激戦地となっている哈爾濱方面を目指す。
『いいか、電探だけでなく、自分の目でも警戒しろよ』
制空権はどっちつかずで敵勢力圏近くを飛ぶ為、隊長機の無線から各機へ警戒強化の指示が入る。既に各機電探には敵と思われる反応が多数あるが、あいにくジェットゼロに識別システムはないため、後は目視でそれが本当に敵か確認するのみ。そもそもこの頃のミサイル誘導も初歩的で、現代のように見えないところから撃つというのは難しい注文だから目視距離まで近づかねばならない。
『こちらZ3、敵戦車部隊視認!これより爆撃体制に入る!』
数分後、瑞鶴航空隊は敵地上部隊を視認。上空では、満洲国空軍が戦闘を行っており、米海軍の艦載機も瑞鶴隊と同時に到着。合図を送るまでもなく互いにやるべきことは分かっており、共同で爆撃隊の護衛に当たった。日米海軍の艦爆(といっても爆撃専用ではなく戦爆両用機達)隊が爆撃体制に入るのを見つめ、瑞鶴航空隊の制空ジェットゼロ隊は迎撃に群がってくる敵護衛戦闘機を片付ける。
『敵機0時上空!全機散開せよ!』
『いいか!敵戦を深追いして爆撃隊から離れる真似はするな!』
『なかなかやるな、ジャップ』
『どうも。あんたらにヤンキー魂があるように、俺達にも大和魂ってのがあるんでね』
『そうだな・・・・・・おい、ジョーンズ!ケツにアカが張り付いてるぞ!』
『?!・・・あぶねえ!感謝します、隊長』
『ったく、落ち着いて周りをよく見るんだ。今のアカのケツにジェットゼロがいなかったら、お前は死んでいた』
『日本軍は強いですな』
『そりゃそうだ。世界で初めて我が合衆国本土を空襲したのは日本海軍だぞ』
『そうでしたな』
日米艦載機部隊は無線で常に連絡を取り合い、爆弾とミサイルの誘導装置もしっかり機能してくれて適確に攻撃を敢行。見事、友軍を苦しめてきたソ連軍の地上部隊に大打撃を与える事が出来た。
『やったな!アメさん、あんたらのおかげだ』
航空支援も一連の空戦で壊滅し、地上で混乱するソ連軍を見て、ひとりの満洲国空軍パイロットが無線で感謝の意を述べる。
『いやいや、俺達はほぼ何もしてない。日本軍のパイロット達は正に神業だった、日本人はやたら器用なのか、まるでエアショーを見てるみたいな機動をしやがる』
『そうか・・・それでその日本の飛行隊はどこへ行った?』
『母艦に帰ったんだろう。今回の作戦目的は果たされた』
『そうか。礼も言わせてくれんとはな。あんたらもそろそろ帰らんと燃料が持たなくなるぞ』
『そうだな。また、危ない時は助けに来るさ』
『ありがとう。それで、俺はよその国の事はよく分からんが、その日本軍の飛行機達はどこの所属なんだ?』
『JN-ZUIKAKU。WW2も前回も生き残った歴戦の幸運艦だそうだ』
『ほう、瑞鶴か・・・それじゃ、日本の基地に帰ったら瑞鶴のパイロット達に礼を言ってくれよ』
『分かった。それでは、失礼する』
『あぁ、また話そう』
この日の瑞鶴航空隊の活躍は、同盟国軍の間でも語り草となり、後にその功績が讃えられ、彼らの活躍を歌った軍歌が作られることとなるが、それはまた別の機会に。
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