ソビエト軍日本本土強襲爆撃




 昭和二十六年 六月



 前年の領空侵犯機撃墜事件以降、日ソ関係は冷え込んでいたものの、日本軍はとにかく非戦の意思を明確にしていたし、なんとかかんとか大事には至らず平和は続いていたのだが・・・・・・




 梅雨のジメジメした昼下がり、ラジオからはNHKの臨時放送チャイムが流れる。


「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。国防省からの発表です。先頃、佐渡島、三沢等の複数の空軍基地のレーダーが無数の国籍不明飛行物体を探知致しました。直ぐに我が戦闘機が発進、警告を行っておるようであります。現在、北海道、千島、日本海側の各都市に於いては空襲警戒警報が発令されております。こちらの地域の皆様は安全な地下等に避難してください。たった今、情報が入りました!我が空軍戦闘機の確認によりますと、飛行物体は、ソビエト軍の爆撃機の編隊であります!このラジオを聞いている国民の皆様、これは訓練ではありません!繰り返します、これは訓練ではありません!速やかに安全な場所へ避難してください!・・・・・・」




この放送の直後、札幌、秋田、長岡、新潟、金沢、加賀、福井、舞鶴等日本海側諸都市に警戒警報ではない空襲警報が鳴り響く。時を同じくして、国防相から三軍司令部、各基地防空部隊へと発砲、交戦許可が下りた事で、上空では既に戦闘が始まっていた。



「ダメだ!数が多すぎる!」



「流石に雷電じゃ戦闘機相手は厳しい!」


 彼らは小松基地より飛び立った雷電隊であった。この頃、ジェットゼロは生産がようやく軌道に乗ったばかりで、運用する滑走路の問題もあり、佐渡島基地や三沢基地等一部の本格的設備や舗装滑走路がある基地にしか配備されておらず、多くの基地では大戦中からの雷電や紫電改、旧五式戦闘機こと飛燕改、米英払い下げのグラマンF6Fやスピットファイア等レシプロ機かターボプロップ機が主で、更に小規模な、とりあえず平坦な滑走路があるだけというような基地では零戦や隼を使う部隊まであった。それでも、彼らは勝手知ったる本土領空、レーダー波探知による待ち伏せ成功という利を生かして粘り強く迎撃戦を行う。



「雷電隊は爆撃機に集中せよ!すぐに佐渡ジェットゼロ隊が来る。それまで我々は敵直掩戦闘機を片付ける」



「了解。戦闘機はそちらに任せる」



 空軍、海軍(日本海に展開している瑞鶴の烈風戦闘機隊)混合の色んな形をした戦闘機達が一斉に直掩のミグ戦闘機に襲いかかる。敵戦闘機はなんとか爆撃機から離れないように戦っていたが、それでも守りきれるものではなく、隙を見た雷電隊が一斉に爆撃機に斬り掛かる。



「よっしゃ、敵戦闘機が離れた!いいか、皆落ち着いて、よーく狙え!」



「はっ!」



 雷電翼下のロケット弾が発射され、敵機編隊へ向かう。雷電隊指揮官粟野空軍大尉は一発は当たってくれ・・・と祈って、それが届いたわけではないだろうが、まず一機のエンジンにロケット弾が命中。敵パイロットは脱出する間もなく、爆発四散した。更にその破片でもう一機を撃破、敵が怯んだのを見てとって雷電隊は更に機銃による射撃を敢行。米国製新照準器の性能も相まって敵爆撃機を次々撃破。そして、ついに敵編隊が上昇して逃げようとした所へ、佐渡島のジェットゼロ隊がやってきて、追い討ちをかける。

 福井沖日本海上空でのこの戦闘を始め、日本軍機の損害は少なく、一連の空戦は戦術的に見れば、日本側の勝利に終わったものの、結局、いくつかの都市は爆撃を受け、日本軍の防空体制はまた見直しを迫られる事となった。



 そして、これらの一連の空戦の最中にあって、東京のソ連大使からはソビエト連邦政府からの日本国に対する宣戦布告文書が届けられていた。























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