第13話 粛清と身バレ





 何とか赤ちゃんグラトルを優しく起こし、グズるグラトルをあやすアルテ。


 俺はその間にシャワーを浴びて、汚れた服を着替える。


「ん?

 まぁ、いいか……」


 いつの間にか着慣れた秘蔵Tシャツ。


 それとジーパンと革のジャンパーを着る。


「それじゃあ、ご飯にしましょう。

 いただきます」


「いただきます」


「ぐぅう~」


 アルテのそんな言葉の後、俺とグラトルも食事に取り掛かる。


 グラトルは前脚が短いために、手を合わせられなかったが、何とか頑張るその姿にほっこりした。


 この子があんな大きなドラゴンになるのか……


 なんか複雑な気分だが、聖女あくまキャロルと比べたら可愛いもんだ。






 今日は焼き魚と冷ややっこ、豚汁と筑前煮と白飯のまさに和食だ。

 一汁三菜の基本を守っている……ほんと聖母神おかんだ……日本に来たときの知識により、アルテの料理スキルは上がったようだ。


 この姿を見ていると、とても邪神を「ッ!!?」ってした女とは思えない。


 因みにグラトルは離乳食だ。

 なんか俺の魚を狙っているが、アルテが抱きながら食事させているので、その間に食べてしまおう。




 食事が終わり、アルテがグラトルを差し出してきた。


「さあ、契約しちゃいましょう」


「ああ、だけどどうするんだ?」


「グラちゃん」


「ぐあっ」


 グラトルが仲間になりたそうな目でこちらを見ている。


「俺と一緒に来てくれるか?」


「ぐぎゅ」


 小さな頭を縦に振る。

 すると、グラトルの体が光り、俺の体にまとわり……つかないっ!


 光は一直線に俺の顔に当たり、やがて俺の頭を噛んでいるグラトルが現れた。


「まぁ、まぁ……グラちゃんはお外に出て遊びたかったみたいですね」


「……おい、こいつ俺を食おうとしてない?」


「???」


 さっきからガジガジっとしているんだが……歯が生えてたら絶対かじられてたね……


「とりあえずシャワー浴びてくる」


「はい、もう、グラちゃん。

 めっ」


「くるぅ~~」


 なんか俺の時より優しくない?


 荒みまくった俺は、そんなことを思いながら、再度シャワーを浴びに行った。






「それじゃあ、行くよ」


「ええ、お気をつけて」


「ぐぅ」


 グラトルは俺の胸にしがみついている。


 そんな俺達を笑顔で見送った後、アルテは食器の後片付けに行った。


 俺は存在意義の分からないドアを閉め、玄関で靴を履く。





 とりあえず、馬車の中に戻るか。


「そんじゃあ、窓を開いて……うひっ?!」


「ぐるぁ?!」


 いやあああああああああああああっ????!!!


 なんかキャロルさんがヤバい顔で馬車の中をうろついている?!



 俺たちのいなくなった馬車の中で、人を殺せそうな眼付きでキャロルさんがいた……







「どういうことだ?」


 俺は考える。

 何故キャロルはあそこまで怒っているのかと……


「……どう考えても、無断でこっちに帰ってきたのが原因だな……髪が少し湿っているような感じだ。

 それに汚れが落ちていて、さらに何故か着替えているところを見ると、川でも探して水浴びしてきたということか……」


 そう、キャロルは全身鎧ではなく、シンプルなワイシャツに、水色のスカートを履いていた。


 俺が風呂入ろうぜ?

 と提案したことで、川を探して水浴びしていたことが予想される。


 そして、俺はその間にこちらに帰ってシャワーと飯をのんびり食っていた……


 キャロルはそんなときに馬車に帰ってきて、なんと馬車の中に俺は居なかった。

 彼女はこう思ったのだろう……


「余程私と一緒にいるのが嫌みたいですね……フフフッ……ブライ、勇者様を探してきなさい。

 生死は問いません……フフフッ……」


 ッという感じで……間違いないと思う……だって女の子があんな目をしてるもん!!


「はっ?!

 グラトルヤバいぞっ?!」


「ぐる?」


 ブルブル震えながら、涙目で俺を見上げる赤ちゃんドラゴン。

 よほどキャロルが怖かったらしい。


「キャロルたち討伐軍はおまえを倒しに来た。

 ということは、お前がグラトルだとバレたら……」


「ぐるっ!

 ぐるぐるぐっ?!」


 嫌や嫌やっ!?

 と、目をウルウルさせて、首を横に振る。


「何とか戦闘力ではこちらが上回っているが……」


 何とグラトルの役割は聖霊王……生まれたばかりで邪神の欠片に犯されてしまったからこそ、成長せずに居て、俺でも倒せた。


 だが本来は、姉のラストラやインヴィスを筆頭に、聖霊たちをまとめることが本来の役割であったようだ。


 なので、赤ちゃんの時点でもその戦闘力は高い。






聖霊王子グラトル


 戦闘力150000



 そしてグラトルと契約した俺は、


半藤渉ばんどう わたる


 戦闘力444700



 まで上がっている。


 そして、固有スキルが2つ手に入ったようだ。

 頭の中に文字が浮かぶ。





 戦闘力が300000を超え、契約聖霊が増えました。

 固有スキル『ぐりゃうんどじぇりょ』を獲得しました。


 僕が皆を守るもん!ぐりゃうんどじぇりょ……聖霊王という使命を持って生まれたグラトルの固有スキル。

 仲間を守るため、限界以上の力を込めた一撃で、強大な敵でも立ち向かう。


 赤ちゃんなので、舌足らずで、必死に守ろうとする感じが可愛い……グラトル成長すれば、上位スキルに変化する。


 発動させるには、赤ちゃんになったつもりで、可愛らしく叫ぶ。





 戦闘力が400000を超え、特定の条件を満たしました。

 固有スキル『赤面白書アカシックレコード』を獲得しました。


 赤面白書アカシックレコード……聖母神アルテの精神攻撃により、古の記憶ふういんが解かれたこと、そして世界の根源に触れたことにより習得。


 相手の恥ずかしい過去を、巨大スクリーンにて放送。

 通常時の10倍の精神ダメージを与える。


 使用者は、相手が受けた精神ダメージと同等のダメージを自らも負う。



 発動条件


・敵対する

・相手が殺意を持つ

・実際に攻撃を受ける

・何においても必ず勝つという覚悟を持つ


 副作用


・偶に自分の黒歴史悲しい記憶も流出する

 自分が受けた精神ダメージと同等のダメージが相手に入る。

・日常生活中に、不意に過去の過ち《恥ずかしい記憶》が蘇って悶絶する






「何なんだよこのスキル?!」


 突っ込みどころが多すぎんだろっ!!

 特に赤面白書がヤバすぎるっ?!!


 二つとも使えば酷い精神ダメージを受けそうだ。

 特に赤面白書は死蔵決定!!


 ぐりゃうんどじぇりょも、極力使わないようにしよう。


 


 さて、今の戦力でなら、キャロルの脅威も切り抜けられると思う。


 彼女の戦闘力は60000程度……俺達の敵ではない……


「グラトル。

 向こうに行ったら、お前の事を……竜ちゃんと呼ぶ。

 お前の安全のためだ。

 分かったな?」


「ぐるぅ」


 それでいいと、了承してくれたので、グラトル改め竜ちゃんの頭を撫でて覚悟を決める。


「よし、行くか!」


「ぐらぁっ!」


 そして、俺達は一歩踏み出す。





――――――――――――――――――――――――――――――







「な、何?」


 キャロルの目の前に突然黒い穴が広がった。


 そして、そこから出てきたのは……




 勇者スズキ(偽名)と、ドラゴンの幼体だった。


 二人はその穴から出るなり、彼女の足元に倒れる。

 いや……日本人の記憶を持つキャロルは、別のものを連想する。


 そう……それは惚れ惚れする様な見事な土下座だった……








――――――――――――――――――――――――――――――







「ご心配おかけしましたっ!!」


「ぐらぁ!」


 開幕で即行繰り出したのが、人生で数えきれないほど出した伝家の宝刀……ジャパニーズ土下座だ!


 尚、グラトルは手足が短すぎて床に大の字で寝転がっている。

 どうよこの可愛さ?!


 この愛らしい姿と、大の大人の本気の土下座を出せば、高々高校くらいの女の子では対応出来まい!!

 あたふたして「え、いやっ、あ、頭を上げて下さいっ」っと狼狽うろたえる姿が目に浮かぶわっ!!


 だが、予想に反して馬車の中は静かであった。


(失敗っ??!)

(ぐるっ?!)


 俺とグラトルは焦る。

 そして、逆に狼狽えて身動きの止まった俺達の元にコツコツと、この広大な樹海の探索に相応しくないハイヒールの音が近づいてくる。


 コツッ……俺達の目の前で止まった……顔は上げられないので、目線だけで確認する。


 青くて光沢のあるハイヒールに、黒いニーソ……いや、この生地の薄さはストッキングか?

 それはどうでもいいっ!!

 俺はハイヒールに注目する。


 つま先部分に妙な切れ目が入っていない……どうやらつま先から刃物が飛び出すというギミックの無い普通のハイヒールのようだな……


 BeenZビーンズで見たことがあるから、何となく普通のモノと暗器を仕掛けているモノが分かる。


 これは白だ!


「スズキ様、頭をお上げください」


 予想に反して非常に優しい声音だ。


 俺とグラトルは、恐る恐る頭を上げる。


 そこにはホッとした顔のキャロルが居た。


「スズキ様……どうか何も告げずに居なくならないでください。

 貴方様に何かあれば、我々もどう責任を取れば良いのか分からないのです……

 何卒お願いします」


 彼女は泣きそうな顔でそう告げる。


「ああ、悪かった……今度はキチンと言ってからにするよ……」


 その顔を見ていると、もの凄い罪悪感があふれてくる。


「ああ、ありがとうございます。

 それよりも、どこかお怪我は有りませんか?」


 本当に聖女というのが納得出来るような微笑で、両手で優しく俺の頬に手を当てる。


「あ、ああ……怪我なんて全くないよ」


「そうですか……良かった……」


 許してくれた……のか?


「確かにスズキ様の言う通り、何十日も行軍して、湯あみどころか水浴びの一つたりともしていませんでした。

 聖女というより、女としてあるまじき行動です。

 どうかお許しを……」


 本当に申し訳なさそうに、俯いて震えるキャロル。


「え……あっ、いやっ……そんな気にせずにぃ??!」


「スズキ様がお休みになられた後、何とか川を探し出し、少し水浴びの時間を頂きました……」


 今、俺の両頬に凄まじい圧力がかかっている。


「そして、一応持ってきてあった普段着に着替え、これならば貴方様もお気になさらないと思えば、貴方様は既に馬車から消えた後……」


「いやっ……がっ……んぎぃ?!」


 潰れるっ?!

 顔が潰れるぅ?!


「外の者達に捜索を命じてみれば、何やら怪しい穴から登場……した挙句、その香り……男物のシャンプーで御座いますか?」


「かっ……ぁ……ひゃ……ひゃめれぇ……」


「さらには焼き魚の香り……照り焼きでしょうかね……フフフッ……」


「あ、ぁ、ぁぁぁぁぁ……」


「ふふふふふふ……」


 ゴキィッ……


 その後、笑顔のキャロルの恐怖を物理的に刻まれることになった。


 また、グラトルはどうしたかというと、死んだふりをしていた……





「そのような魔法が存在するのですか……」


 俺は、一度外れたような気がしないでもない顎関節を撫でながら、何処に行っていたのかと、どうやって行ったのかの説明をしていた。


 因みにやはり女性は可愛いものが好きなのか、キャロルは赤ちゃんグラトルを抱いている。


 しかしグラトルは、彼女が怖いのか、全く動かずに人形のふりをしていた。


「因みに女性用とは申しませんが、ボディーソープやシャンプーなどの予備は有りますか?」


「……分からない」


「分からない?」


 何言ってんのこいつ?

 みたいな感じで睨んでくるが、今の部屋はアルテおかんが管理しているため、分からないのだ。


 そして、このキャロルさんの前世は日本人女性で、前世の記憶も持っていらっしゃるようだ。

 因みに前世の年齢は、彼女の話題から察するに40代後半……今が17歳……つまり彼女の精神は既に還暦を過ぎているっ?!


 まぁ、口に出そうものなら、ラ○○と戦った炎の人みたいな最期になりかねないから口にしないけどね。


「もしよろしければ、お部屋にお邪魔させていただけませんか?」


「あ、それは無理っす」


 条件反射で断った。

 あの部屋は俺の聖域……女人禁制の場所なのだよ……


「ふふっ、そうですよね……ごめんなさい。

 無理を言ってしまいました……ふふっ……」


 心底残念そうにそう呟くキャロル。

 因みにグラトルの頭を撫でているが、その撫でている速度がどんどん早くなっていき、グラトルの頭が残像を残して左右に振られている。


「少しだけっ!

 部屋を片付ける時間をくれ!!?」


「あ、はい。

 スズキ様にお招きいただけるなんて光栄ですっ!」


「ぐ、ぐぁ~」


 何とかグラトルの頸椎は守られたようだ。


 今のうちにヤバ目な物は隠しておかなければっ……







「お邪魔します……」


 そして、靴を脱いで部屋にあがってくるキャロル。

 日本人の記憶があってよかった。


 さすがに土足で上がられたら許容できなかったからな。


「案外片付いているんですね」


「ああ、そりゃあな」


 クローゼットという空間便利なモノに移動させれば簡単さっ!


「シャワー……羨ましいですわ……」


 風呂場を見てキャロルがうっとりしている。

 まさか毎日風呂に入りに来るつもりか?!


「と、とりあえずプリンでも食うか?」


「プリンですか?!

 是非いただきます!!」


 どうやら、この世界には甘味が少ないようだ。


 冷蔵庫からプリンと、缶コーヒーを取り出す。

 俺はコーヒーやお茶などは冷たい方が好みだ。


 因みにプリンはアルテがおやつとして冷蔵庫に入れている。

 常時10個以上あるので、アルテからも好きに食べていいと言われているのだ。


 全部アルテが仕入れた物で、無くなったらすぐに補充される……もう、おかんを超えてない?


「んん~~~~~っ美味しぃ~~~」


 こうやっていると、まだまだ子供らしい笑顔で笑うんだな……とても還暦を超えた精神年齢の持ち主で、男の顎を外す聖女とは思えない。


「スズキ様っ!

 ありがとうございます」


 久しぶりに甘いものを食べられて、キャロルもご満悦みたいだ。


 その時……


「渉さ~ん。

 忘れ物しちゃいました」


 よりによって悪魔おかんが来てしまった。


「ワタル……?」


 ガラッとベランダに続く扉が開く。


「あら?

 グラちゃんも居たのですね。

 プリンはおいちいでちゅか?」


 そして、ベランダに続く扉……の向こうの不思議空間から、アルテが入ってきた。


「あら?

 キャロルも居たのですか?

 お久しぶりですね。

 加護を与えた時ですから……5年ぶり?

 でしょうか?」


「せっ、聖母神様っ?!」


「はい、アルテですよ。

 ゆっくりしていってくださいね。

 グラちゃん、そろそろお眠のお時間ですよ~」


 アルテがグラトルを抱く。


「え? グラちゃん?

 え? 竜ちゃんではないのですか?」


「え?

 この子の名前はグラトルですよ?

 だからグラちゃんです。


 その~渉さんと共同作業で……きゃっ

 

 キャロル?

 私の事は、半藤ばんどうアルテと呼んでも構いませんよ?

 むふふっ……」


 何言ってんだこの18億歳?!

 ボケてんのか?!

 いきなり爆弾ぶち込みやがった?!


「半藤……?

 スズキでは……それにグラトル……?」


 あ、偽名がバレた……


 俺とグラトルの目が合い、互いにうなずく。






「すみませんでしたっ!!!」


「ぐらぁ!」


 男二人は、仲良く聖女に土下座した。








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