第14話 ……この聖女達、ノリノリである。
この話は主人公の個人的な見解が多分に含まれています。
ご了承ください。
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今日の一言
「アルテが居たから命が助かった」
いや、アルテが居なければこんな状況になっていないわけで、俺とグラトルはずっとキャロルから
キャロルには全てを白状した。
俺がグラトルを倒した後、アルテがグラトルの魂を浄化して、元の聖霊に戻したということと、どうやって人類を救うのかを……
「つまり渉様の目的は、その邪神の邪気に犯された魔王たち、または神樹の浄化を行うことなのですね?」
「ああ、魔王たちと戦うのは、あくまでその浄化とやらを行いうための手段だ」
グラトルは余裕が無くて、全力で反撃したために、体は消滅してしまい、アルテがグラトルの魂を代わりに浄化することによって、元の聖霊に戻った。
このことにより、少なくともこのファースの邪気はどんどん薄れていき、魔物達の邪気も払われて、元の精霊に長い時間をかけて戻っていくだろうとアルテは言っていた。
そう、魔物も元は精霊で、世界中に散らばった邪神の
本当ならば魔王の行動を縛り、俺が直接体に触れることによって、俺の中にあるアルテの女神パワーが彼らを浄化するらしい。
そして、一番優先度が高いのが、最強の魔王が居るファーブルにある神樹ユグトラの浄化だ。
ユグドラとは最も古くからアルテノンに存在する樹で、その根はアルテノン全土の地下深くに霊的に広がっているらしい。
よく分からないが、樹であって樹でないようだ。
そして、この神樹を浄化することにより、アルテノン全土蔓延している邪気が自然と浄化されていくようである。
「だから必ずしも人類を救うことが、魔王を全て倒すこと……とかいうわけじゃない。
ぶっちゃけ、俺がその神樹ユグドラというのに触れることが出来れば、このミッションはクリアになるんだ」
「神樹に……」
だが、神樹には魔王となって尚、その守護に立つ者がいる。
最強と呼ばれる魔王……グリドラが。
「グリドラ君には、ユグドラの守り手として必要な強大な力があります。
さらに、どのような相手に対しても対応出来るように、100の宝具を有しています……
こと1対1の戦いでなら、間違いなくアルテノンで一番強いでしょう」
アルテが聞きたくない情報を教えてくれる。
「キャロル……貴女の力を、渉さんに貸しては頂けませんか?」
「聖母神様……」
「本来ならば、17歳という年齢は、伴侶を得て家庭に入ってもおかしくないです……
でもこのままだと、渉さん一人にあまりに負担をかけてしまいます。
だから、私の加護を持つ者達の力が必要になるはずです」
え?
アルテさん?
29で独身の俺を何気にディスってる?
「……元よりこの身は人類の未来の為に捧げる覚悟を持っております。
聖女として、必ずや渉様と共に人類を救ってみせます」
キャロルが跪いて祈りを捧げるように両手を握ってアルテに誓う。
美しい女性が美しい女神に世界を託されるというムネアツ展開のはずだが、このボロアパートの一室で、座布団の上で跪き、割烹着を未だに着て、ちゃぶ台の向こうで正座している
「渉さん、彼女は必ず力になってくれるでしょう」
「渉様、必ずやお役に立ってみせます」
熱い
「いえ、結構です」
とりあえず断っておいた。
『??? ……え? えええええええっ?!』
よく考えていただきたい。
ラノベやアニメではよく美女・美少女と共に冒険に出るというシチュが多い。
それは認めよう。
ただ、社会人としての経験でいうと、女性と組むのは勘弁願いたい!
何故なら俺はブサメンだから!
女性社員関係で、何度大変な目に会ったかわからねぇよ!!
奴らはイケメンの御願いは張り切るが、ブサメンの俺には発言権さえ認めてくれないんだ!?
それに俺が触れた机をアルコール消毒するところを見てから、3日はストレスで不眠症さ!
きっとキャロルも、アルテが言ったからあんな殊勝なことを言っているんだ!
心の内では……
「私達のために頑張ってね?
こんな美少女と会話できるだけでも報酬としては十分でしょ?
でも触るのは禁止。
目を合わすこともしないでね?
あと人のいるところでは話しかけないでね?
知り合いだと思われたら恥ずかしいから」
みたいなことを考えているに決まっているんだ?!
(注 渉は唐突にトラウマを思い出して錯乱しています)
そして営業マンを経験していると、同僚などに手柄だけをかすめ取られるようなこともあった。
だからどうしても、誰かと組んで仕事をするというのは抵抗がすごいのだ!
俺は一人でいい!!
仲間と組んでも問題ないのは、
よく見る主人公はイケメンではなく、冴えない顔なのにいつの間にかハーレムに……いくら文字で「冴えない・地味な顔」となっていても、
いや、むしろフツメンを装うなんちゃってフツメン……すなわちイケメンだっ!!
本当のブサメンっていうのを分かってねぇ!!
俺みたいなブサメンは一人でなければ、責任だけは大きく、手柄は誰かに……ってことになりかねない!
だから仲間なんていらない!!
(注 渉はトラウマに苦しんでいます。
温かい目で見守っていてください)
「ふぐっ……ひっく……」
「ぐるぅ……」
唐突にトラウマが蘇り、錯乱した俺に対し、女性陣が実力行使をしてきた。
そして、俺は最後の手段で布団をかぶって亀になり、グラトルは布団の上に登って俺を慰めている。
「……」
「……」
アルテもキャロルも困っているようだ……
これが社会に出ても意外と役に立つ泣き落としだ!!
どうよこのいい年した男がみっともなく泣いている絵面は?!
もはや可哀そうすぎて放っておくしかあるまい!!
「では戻りましょうか渉さん」
だが、キャロルはそんな俺の様子をスルーして布団をはがし、襟首をつかんで玄関まで引きずっていく。
「キャ、キャロル?」
「聖母神様……私の経験上、渉様は本気では泣いていませんよ……元彼も、都合の悪い時はこんな感じでしたから……ふふふっ……」
うひっ?!
なんかキャロルさんから聖女とは思えないような闇が、今漏れたよね?!
「経験……?」
「私、渉さんと同じ世界、そしてこの方と同じ国で過ごしていた前世の記憶があるんです」
おい元カレ!
一体何やったんだよ?!
「さあ、早く馬車に戻らないと、他の者にバレる可能性がありますわ。
さっさと行きますわよ」
「やだああああぁっ!
俺は一人で世界を救うんだあああああっ!!」
そんな俺の抵抗むなしく、馬車まで引きずられて行った……
そして、部屋でゆっくりと寝たかったのだが、キャロルが笑顔で馬車で寝ろと言う
なお、キャロルは数少ない女性兵士達と共にテントを張ってそちらで休むようだ。
「おはようございます渉様」
「んあ?」
体を起こしてグーッと伸ばす。
体のあちこちからバキッっと音がして、錆びついたような感覚が……もう儂ゃ歳かいのう……
隣には俺を起こしたキャロルが……これが朝チュンか……ふっ、むなしいぜ……
「朝食の準備が整っています。
こちらにお持ちしますか?」
少し考える……
「いや、食事はいいよ。
多分アルテが用意してくれてるから」
「そうですか。
それでは2時間後出発いたします。
それまでにはお戻りを……」
「あっ、少し寄りたい所があるんだ」
「……昨日仰っていたファイヤーゴブリンたちの事ですか……」
昨日のうちにキャロルにはカズヤたちの事を話している。
彼女には討伐軍の兵士達にむやみに攻撃しないように伝えてほしいとお願いしていて、今日中に皆と合流したいと伝えた。
「分かりました。
ただ、そのまま伝えても効果は見込めないでしょう……
なので渉様の事も交えて伝えた方がいいと思いますが宜しいですか?」
「……わかった。
頼んだよ」
「という訳でアルテ、何とかならない?」
ファースとコンタクトを間違えたら、その場で殺し合いとかになりかねん。
それは何としても避けなければ……
「出来ますよ?」
出来るんかーい?!
えらいあっさりした答えだな?!
「先ほど気付いたのですが、グラチャンを浄化したことで、ファースの邪気は徐々に少なくなっています」
「ああ、そう言ってたね?」
「そして、それ以前に貴方と長い時間接していた彼らは、通常の魔物よりも邪気の含有量がかなり減っていました。
つまり、見た目こそは変わらないですが、彼らは既にほぼ精霊と呼んでも良いくらいまで、邪気が払われています。
なので、皆の前で精霊契約をすれば、彼らが安全だという証明になると思いますよ」
……え?
メッチャ色物ばかりなんですけど……
精霊ってこう……可愛い羽の生えた女の子とか、可愛らしい小動物とかじゃないの?
「分かった……」
まあ、あいつらの安全に関わるんだから仕方がないか……
「ただし、約1000体にも及ぶ精霊と一気に契約することは不可能でしょう……ですのでこういうのはどうでしょう?」
――――――――――――――――――――――――――
魔境の空を翔る魔物が居た。
彼はワイバーンと呼ばれる竜種の一体だ。
グラトルには及ばないが、その戦闘力は90000に達する。
(魔王が消え、兄者も居なくなった……)
そう……このワイバーンは、以前盆踊りをしている渉に恐怖を抱き、この大陸から去っていったワイバーンの弟だ。
この日、彼は目の上のたん瘤であった強者が消えたため、奈落樹海や、下界まで遠征し、獲物を狩ろうと思っていた。
すると彼の知覚範囲に、膨大な数の
(久しぶりの餌だっ!!)
彼は空を疾駆する。
そして……
(な、何だあれは??!!)
いつもの食事……そんな軽い気持ちで近づいた
数万に及ぶ人間と、数百に及ぶ岩系魔物、そしてゴブリン含む5体の人型の生物が、大音量の奇妙な音と、奇妙な動きをしながら進行している。
今まで感じたことのない程の恐怖……
(馬鹿なっ?!
こんな異常な奴らが居るのか?!!)
ただ一心に……妙な動きをして時々くるっと回り、また妙な動きで進んでさらにくるっと回る。
あのような異様な動きで進む生物自体初めてだが、それが皆笑顔で整然と並んで、この魔境を堂々と進む……
(奴らは……異常者か??!!!)
そして驚愕する。
彼らの先頭を一人で進む者……それは矮小な存在であるはずの
その風貌は、血走った眼を見開き、悪鬼の様な形相で踊っていた。
(あの人間は異常だ……いつの間に人間はあのような不気味な存在に~~~~っ!!?)
ワイバーンは恐怖する……理解できない存在は、やがて恐怖の種を心に植え付け、時間が経つごとに全身が恐怖で震えるようになる。
あの訳の分からない集団から一刻も早く離れたいっ。
今まで受けたことの無かった
彼はその場から逃げる。
一刻も早く、この魔境から……
(もう、人間とは会いたくない……)
この日、また強者の一体が、この大陸から去って行った。
――――――――――――――――――――――――――――
アルテの案は、精霊と化したコーラスロック達と共に、巫女の待つ城塞都市にある大聖堂まで移動することだった。
この大聖堂内に居れば、アルテがほんの少しだけ力を及ぼすことが出来るようで、そこまで移動できれば1000体の精霊と契約することも可能だと言う……
でも、皆と一緒に移動なんて出来るのか?
そう疑問を持った俺に対し、アルテは出来ると言った。
「精霊に戻りましたので可能です」
何でも、ロック達が精霊に戻ったおかけで、彼らの歌声には癒しの力が
この世界の空気には魔素というモノがあり、それを歌声と混じり合わせて聞いた者を癒すのだとか……
本来、1体だけならばごく微量の効果しかないのだが、1000体近いロック達の合唱ならば、その効果は絶大だという。
だから、常時癒しの力が掛かり、空腹も疲労も眠気も起きないのだとか……
何そのガンギマリの怖えぇ歌声っ?!
ブラック企業ならば喉から手が出るほど求める社畜量産ミュージックっ??!
そして、魔物ではなく自然と共存する精霊であれば、精霊魔法使いの俺が呼びかければ、友好的な精霊ならば目の前に来てくれるらしい。
という訳で、馬車に戻って外に出ると、ちょうどキャロルがこちらに歩いてきた。
「渉様、皆には伝えましたが、やはり魔物相手にはかなり警戒しています……」
「魔物じゃなくて、アルテが言うには精霊に戻ったみたいだけどね……まあいい、とりあえず呼んでみるよ」
「呼ぶ?」
「俺が呼びかけると答えてくれるらしい。
それに数万人に及ぶ人間全員を、この短時間で説得出来るとは思えないしね……
だから少し強引に事を進めるよ」
この場は討伐軍が楽に休めるほどの広場だ。
なぜこんな鬱蒼とした樹海の中にそんな空間があるか?
「それは魔王だったグラトルが、自分を討伐しようとしてくる
グラトルにとって、少数で来られても一瞬で終わるし、お腹も膨れないため、このような道を作りました。
勿論道中で、魔物に襲われることにもなりますが、その戦いを眺めるのも趣味の一つであったようです」
という知識だけは有用な
エゲツねぇ……
という訳で、十分な広さのある所で俺は前に出て、教えられた通り、体の中にある魔力と合わせて声を出し、皆を呼ぶ。
「皆っ!
戦いは終わったから、ここに来てくれ!!」
……………
…………………
………………………
こ、来ない……っ?!
周りにはなんか微妙な空気が漂っている……キャロルが俺の後ろで引き攣っている……なんかそんな気配も感じる。
振りむくのが怖い……
冷や汗をだらだら流しながら、胃の痛くなるような時間が1分ほど過ぎた頃、突然目の前がぴかっと光った。
「Boy♂Next♂Door?」
「ウィッー!!」
「ラ―――――ッ!!」
そして目の前にはきちんと
……………
…………………
………………………
それからは、身構えた討伐軍たちを、歌い出したコーラスロック達に手を出すなと宥めた。
「彼らはこちらの動きを封じます!!?
このまま声を聴き続けるのは危険ですっ!!」
「ちょっと待って!
こいつらは歌をきちんと聞いてやれば、とても友好的だから!」
という緊迫したやり取りをしていると、自然と体が動くようになってくる。
「来た来た来たああああぁっ!!」
「きゃっ?!
ま、マズイっ??!」
「ヤベェっ!?
体が……」
キャロルやブライたちが焦った声を出すが、大丈夫……やがて楽しくなるはずさ……
彼らが歌い出した曲は……
『ミレドシドレド 』
『ミファソラソミソ』
『ドレ・ミ・ミ・ミレドレ・ミレレ』
「~~~っ??!」
フォ、フォークダンス……オ、
討伐軍たちは手を取り合って楽しげに進行する。
キャロルとブライも美男美女のペアで楽しげだ……
ラリアットエイプたちも手を取り合ってくるくる踊っている。
グラトル改め竜ちゃんは……
そう、俺だけボッチ……孤高の
小学校の時の事だ。
そこで
そう、
たとえボッチの根暗でも、女の子と触れ合える時間……
しかし……
そこにお節介な教師や、熱血教師が絡めば、さらなる地獄と化すっ!!!
「○○ちゃん!
渉君と手をきちんと繋いで!!
△△ちゃん!
渉君と手を繋ぐのっ!!
□□ちゃん!
ほらっ! え? 何で泣いているの?!」
その後のホームルームで……
「皆、今日、先生はとても残念な気持ちになった。
何故だか分かるか?
それは誰一人として、渉と手を繋いでちゃんと踊らなかったからだっ!!
なぁ、なんで皆渉と手を繋がないんだ?
渉の何が嫌なんだ?
渉が可哀そうだと思わないのかっ?」
そう、追い打ちの
この上なく俺に現実を突きつけ続けるこの地獄。
少しでも
「ほらっ、渉だってこんなに悲しんでいる!!」
やめろおおおおっ!!
お前が妙な空気にしているんだよ!!
何かのアクションを起こせばそれを俺が悲しんでいると声を上げる教師の所為で、身動きすら取れない。
そしてクラスの連中は罪悪感を募らせ、教室内はお通夜ムードだ。
最後には望んでもいない謝罪大会……俺は家に帰ってから泣いた。
母親の作ってくれた好物のから揚げが美味かった……
そのトラウマが今蘇る!!
『ミレドシドレド 』
『ミファソラソミソ 』
『ドレ・ミ・ソ・ソミドレ・ミ・レ・ド 』
『
『
討伐軍も揃っての大合唱である。
さっきまでの険悪な雰囲気はどこへ行ったのか……この聖女たち、ノリノリである。
(ちくしょおおおおおおおおおっ!!!!!?)
俺は再度、引き籠ることを誓った……
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