第11話 い、言うなれば私たちの子供ですね……キャッ いいえ、ちがいます
今俺は、
黒髪黒目ではないことを証明したにも関わらず、1万人ほどの全身鎧と剣の様なアクセサリーを持った奴らに……
そんな奴らが『勇者様ぁ!!!』と言いながら追いかけてくるんだぜ?
恐怖しか感じねぇ!!
「勇者様お待ちくださいっ!
ねぇ、ちょっと!
いい加減止まりなさいよ!!!」
聖女という(痛い)称号を持つ女の子のキャロルさん。
彼女のお淑やかそうな仮面が、早くも脱ぎ捨てられました。
「だから俺勇者じゃないって!
あんたも黒目じゃないって認めただろうが!!」
「それでも遠くから見たらあなたは黒目なの!!
この際そんなことどうでもいいのよ!
私達の任務に、勇者っぽい男も連れて帰るって言うのが含まれているのよ!!」
「今『ぽい』って言った?!
そんな怪しければ連れてくって言ってる奴らについていけるか!!」
「いいから一緒に行くのよ!」
「……なんか俺らが悪い奴らみたいだな……」
キャロルの横を走っている英雄の称号を持つイケメン、ブライがそう呟く。
分かっているじゃないか?!
さあ、英雄よ!
無辜の一般人を誘拐しようとするその聖女(悪)を止めてくれ!!
「
「ふんぎゅっ?!」
なんと聖女が、手甲を纏った手で、ブライの顔面に裏拳をかます。
そして、ブライは思いっきり吹っ飛んで転げまわり、ようやく止まったと思ったら、後続の討伐軍に踏まれて姿を消していった……
「あ、悪魔ああああああっ!!」
「貴方がさっさと私達について来ればっ、ブライも死にませんでした!」
(注 死んでません)
「それあんたの所為だろうっ?!」
「いいえ、あなたの所為です!」
一般的に、女性は男性に比べて感情的になりやすい。
聖女と言われる彼女も、その傾向があるようで、もはや勇者かどうかではなく、俺を捕まえることに固執しているようだ。
その所為で、一人の男が死んだっ。
(注 ブライは死んでません)
何とかならないか?!
『精霊魔法で、アナゴさんを呼んだらいかがですか?』
(それどうやって使うんだ?!)
テノンから、念話でアドバイスをもらう。
『契約した聖霊に、助けてーっ……って言いながら、魔力を込めてお願いします』
(分かった。
やってみる!!)
俺が今現在契約しているのは、ア○○ゴブリンだ。
こいつは100000を超える戦闘力を持つ
「ア○○ゴブリン!
助けてくれっ!!」
「きゃっ、何この光は?!」
そして、辺り一面を光が覆う。
―――――――――――――――――――――――――――――
彼は泣いていた。
ようやく……数年ぶりに生の尻に触ったからだ。
昔……彼はとある泉で一人の女性と出会った。
「ぷはっ、おいしいぃ!」
美しい女性だった。
長い紅い髪に、抜群のプロポーションをした女性だ。
彼女は前かがみになって泉の水を飲み、輝かんばかりの笑顔になっていた。
だが、彼が注目したのはそこではなかった。
(なんだあの
そう、彼が目を離せなかったのは、その臀部である。
安産型……とでも言えばいいのか、とても丸みを帯びたモノだった。
そして何より、その臀部でパツンパツンになる
そのあまりの
「誰っ?!」
びくっ?!
だが、直前に気付かれ、彼は一目散に逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
奇麗な尻だった……魅力的な尻だった……彼は尻の魅力に囚われた……
こうして、
そして、契約者の渉の願いに呼び寄せられた。
(むっ……女が追いかけてきている……)
一瞬、ア○○ゴブリンは歓喜した。
やはり、最初に尻に囚われたきっかけが、女の尻に魅せられたからだ。
久しく触っていない女の尻……それを触れる!
と思ったが、よく見ると、キャロルは全身鎧を着ていた。
(アレは先ほどの女……)
あの理想の
しかし……それがグラトルと戦おうとしていた女であることに気づいた。
そう、討伐軍は全身鎧を着て、グラトルに挑むつもりだったのである。
ほんの少しでも生き残る可能性を上げるため、全員
それが再度、彼らの
(あれでは……萌えない……)
だが、呼び出されたからには何かしらの対価が居る。
それは本能的なもので、抗うのが難しい衝動なのだ……
魔力は貰ったが、彼が求めるのは尻である。
種族性別問わず尻を求めて、ただのゴブリンからア○○ゴブリンへと進化した……彼の求めるもの、それは尻しかない!!
そう……この場に鎧を着ていないものはただ一人……
(主の尻で我慢するか……)
「ゴブゥ(
(注 全年齢作品に相応しくない表現がございましたので、自主規制しました)
こうして、性霊にして聖霊……
最恐にして最狂……
世界最強のゴブリン
ア○○ゴブリン……通称アナゴさんは、新たな住処……精霊界に帰っていった。
――――――――――――――――――――――――――
ブスッとまたきました。
「ああああああああああああああああああっ♂」
全力疾走の途中に、いとも簡単に事をなして、アナゴさんは帰っていった。
当然、そんな速度で走っている途中に、そういうことをされたらバランスを崩し……
「あぎゃっ、ぼふっ、ほわっ」
地面に何度もバウンドしながら、ボロボロになって俺の体は止まった……
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと追いつきましたわ……」
追いついたことで、冷静になったのか、いつものすまし顔でそう呟くキャロル。
その表情を見る限り、先ほどあのような言葉で渉を追いかけていた女だとはとても思えないほど、お淑やかさがにじみ出ている。
女は生まれながらに女優……聖女だとしても例外はないのだ。
ちなみに、他の討伐軍の連中は、勇者コールが五月蠅すぎて、キャロルのあの言葉遣いを聞いていたのは、隣で走っていた故ブライのみなので、既に証人は居ない。
(注 何度も言いますが、死にかけてはいますが、ブライは死んでいません)
そして、渉達とは身体能力が違いすぎるので、既に数キロの距離を離されている。
「さて、勇者様、我々と共に、巫女の元に参りましょう」
―――――――――――――――――――――――――――――
彼女の所属する聖母教会には、いくつかの役職が存在する。
教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭という協会の運営を行う者。
キャロルが渉を連れていくのは、神託の巫女アルトリアの元に届けるためである。
彼女は、このファースに存在する聖母教会のTOP3に入る要人であり、アルテから神託を受け取れる稀有な人材で、実質的に教皇よりも上の地位に位置する。
そのアルトリアが、渉を連れてきてほしいといっていたのだ。
必ず理由がある。
それも、人類を救うための……自身よりもよほど滅私奉公を続けるアルトリアの願い……キャロルはそれを何としても叶えるつもりだ。
たとえ渉の意思がどうであれ……
確かにキャロルは日本人女性の記憶を持っているが、それは持っているだけで、あくまでキャロルはこの世界の人間である。
決して日本人寄りの思考ではないのだ……
「こ、断る……」
「何故……そこまで頑ななのですか?」
「……」
「勇者様と呼ばれたくないのならば、従いましょう。
この身を捧げよというのならば、喜んで差し出しましょう。
ですから、どうか神託の巫女に会っては頂けないでしょうか?」
逃げ続ける渉に対し、感情的になってしまったが、何故か光が辺りを満たした後に、ボロボロになって倒れている彼に対して、かなり焦った。
それを面には出すまいと、とりあえず譲歩するような形で話しかける。
だが、彼女は本当に渉が身を捧げろといえば、捧げるだろう。
グラトルとの絶望的な戦いで、彼に救われたことは、それだけの恩を感じているのだ。
そして、フラフラと渉は立ち上がる。
「……条件がいくつかある」
「拝聴します」
「一つ、今後俺の事は勇者と呼ぶことは禁止する。
他の奴らにも徹底させるんだ」
「かしこまりました。
それでしたら、貴方様を何と呼べばよろしいでしょうか?」
「……スズキと呼んでくれ。
二つ、その巫女とやらと会うのはいいが、こちらは礼儀作法も知らないし、積極的に覚えようとは思わない」
さりげなく偽名を告げる渉である。
「それも承知の上です。
もとよりスズキ様は、聖母神様から遣わされた使者様であらせられます。
立場は、教皇よりも、巫女よりも上で御座いますので、我々に
むしろ、私共が御身の前では膝をつく立場で御座います」
(え?
さっきその立場を、おもいっくそ無視したような言葉遣いで追いかけられたような……)
渉は心の中で思ったが、これでも社会に出て数年経っている企業戦士なのだ。
口には出さない。
「3つ、俺はどこかの勢力に与しようというつもりは全くない。
だから俺を引き入れようとするな」
「……少なくとも私にはそのような意思はございません。
仮に教会がそのような行為に出たとしても、私は聖女の名に懸けて、スズキ様の意向に沿うことを宣言します」
キャロルの言う聖女の名に懸けてというのは、破ればこの命を即座に絶つという、絶対の誓いである。
この世界は、アルテが過去に何度も降臨して、奇跡を起こしている。
キャロルも、アルテが直々に見出し、直接加護を与えた者の一人だ。
故に、教会関係者で不信神な者は存在せず、もしも神職としてあるまじき行為を行った者は、直接天罰を下されるため、この世界の神職者には貴族の様な権力志向というものは存在しない。
あるのはただ敬神の心のみ……故に、神から与えられた称号に懸けるということは、本当に命を掛けるに等しい行為なのだ。
「そして4つ目、俺は一人で行動して、その神託の巫女とやらに会うつもりだ。
だから君たちとは共に行動しない。
でもきちんと巫女には数日中に会うことを約束する」
「なっ、それはなりません!!」
勇者とはそれだけの人物だ。
この森の中を一人だけ……しかも歩かせて等ということは、聖女としてとても許容できない。
実際、キャロルは後方に控えさせている豪奢な馬車に渉を乗せて、凱旋する予定だったのである。
奈落樹海に入るまではキャロルも乗っていた最新鋭の馬車である。
その乗り心地は、日本の乗用車にも引けを取らないと自負している。
「いや……俺は一人で行くよ……」
「何故です?!
スズキ様を歩かせて一人で向かわせるなど、私たちに恥をかけと仰るのですか?!」
「いや、だからそうじゃないんだ……」
「ならば何故ですかっ!」
キャロルは渉に詰め寄る。
渉はその分下がる。
そしてキャロルが詰め寄る……を数度繰り返す。
「スズキ様?」
キャロルの背景が『ゴゴゴゴゴっ』という文字が見えるほど怒りで歪んでいた。
「お、怒らず聞いてほしいんだ!」
渉はたまらず理由を言うことにした。
「はい、お伺いします」
もしくだらない理由ならば承知しないと、青筋の浮かんだすまし顔で言うキャロルに対し……
「風呂ぐらい入ろうぜ?
さすがに一緒に乗るのは……いくら何でも、ちょっと……」
そう漏らしてしまった。
数万人による行軍を、1月以上も続けていたのだ。
いくら聖女といえども、貴重な水を使って水浴び等することは出来ない。
出来ても、水で濡らしたタオルで体を拭くくらいだ。
そんな状況を何十日も、全身鎧をつけて、森の中を行軍し続けてきたのだ。
毎日拠点に帰って風呂に入っていた現代人の渉には、とても口に出来ない香りを、彼女は放っていたのだ。
勿論、他の男たちは言うまでもない。
そんな者達と、ずっと一緒に行動するなど、自身の嗅覚に障害が出ることを懸念しても、仕方のないことだった。
勿論女性に対して言えることではないので、渉は口を
渉は少しずつ下がる。
何故ならキャロルが顔を真っ赤にして震えていたからだ。
因みにその可愛らしい小さなお手々からはギチギチと、とても未成年には見えないヤクザの少年並みの握力が感じられたのだ。
握力 × スピード × 体重 × 乙女心を傷つけられた怒り = 破壊力っ!!
「最っ低っ!!!」
「ぎゃああああっすっ!!!?」
ドゴッ
そんなビンタではあり得ない音を出して、俺の体は宙を舞った。
因みに、あの可愛らしいお手々がグーであったような気がしないでもないが、聖女たる者が男をグーで殴るなどある訳が……
そう、消えかけの意識の中、渉は考えていた。
あの後、気絶した渉をキャロルが馬車に放り込み、討伐軍を使って川がないかを調べさせた。
本来ならば容易に出来ることではないが、何故かこの魔境に居るはずの危険な魔物達が、一切姿を見せないので、探索は容易に出来た。
無論、逆らったらただでは済まされそうにない程、キャロルの雰囲気がやばかったから、彼らが必死に探したことも理由であったのだろう。
「
間違いなく本気の殺害宣言であることを感じさせるキャロル。
そして、彼女は心行くまで、水浴びをして、スッキリしたのである。
因みに、彼女の水浴びが終わるまで、ブライを含めた討伐軍は、恐怖に震えていたようだ。
――――――――――――――――――――――――――
「いや~酷い目にあった……」
未だズキズキする頬を撫でながら、拠点魔法で帰ってきた渉。
目覚めたら馬車の中で、一人で居たので、隙を見て帰ってきたのだ。
窓の外を見ると、何故か討伐軍が震えて縮こまっていたので、カズヤたちも今日は見つからないだろうと、とりあえず帰ることにした。
愛しい
「あ、渉さんお帰りなさい」
そしてまた俺は膝から崩れ落ちた。
そう、アルテがまだ居たのだ……
憂鬱な気持ちになりながら、寝室の何でついているのかわからないドアを開けて中に入ると……
「ほら、渉さん、グラちゃんでちゅよ~」
そう言いながら、ノーパソサイズの小さなドラゴンの赤ちゃんを抱いて、その手を持ってこちらにフリフリして出迎えてきた。
「……」
なんかもう面倒臭くって返事をしなかったら、アルテがこんなことを言ってきた。
「渉さんが倒したグラちゃんの魂を、私が浄化して新しく生まれ変わらせました。
……言うなれば私達が共同作業をして生まれた……私たちの子供ですねっ!
きゃっ」
恥ずかしそうに赤ちゃんグラトルを抱いて身体をクネクネするアルテ。
そんな
本当に面倒臭くてつい言ってしまった。
「いいえ、違います」
やはり
アルテをなだめるその横で、赤ちゃんグラトルは可愛らしく寝息を立てていた。
カオスすぎる……
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