第19話 遭遇……はかってくれた喃……

次話は明日の6時予定


ちょっとだけ良い渉さん……


―――――――――――――――――――――――――――――――








 さて、アナゴさんが処理したこのチンピラたちが気が付くまで隠れているか。

 そうやって待っていると、5分ほどでチンピラたちが起きた。


 そして俺に対して恨み言を言い、いったん自分たちのねぐらに帰るみたいだ。

 俺は奴らの後をついていく。



 

「ん?

 今なんか悲鳴みたいなのが聞こえたような……」


『ええ、これはビスチェの声ですね』


「?!

 また襲われたのか!?

 アナゴさんを付けていたのに!!」


「確かに襲われましたね。

 アナゴさんに」


「……うぇい?」


 訳が分からないよ?


『ビスチェのお尻に釘付けになったアナゴさんは、彼女からお礼を言われて別れたたことで、渉さんからの依頼が完了したとみなし、もう我慢する必要はないだろうと彼女のお尻を……』


「……テノン」


『?? 

 何ですか?』


「誰も悲鳴など聞いていなかった」


『え?』


「悲鳴など誰も聞いていないんだよ。

 気のせいだ」


『……最低ですね』


 何とでも言うがいい、起こってもいないことを非難されても、俺は何とも思わない。

 しかし今日は暑いな……それ程動いていないのに汗がダラダラ流れてくるぜ……


『メチャクチャ気にしてますね……」







……

…………

………………






 ここがチンピラのアジトか……さて、俺一人でも大丈夫だろうが、助っ人を召喚するか。


「ウキーッ!!」

「うきっきー!!」

「うぎゃー!!」

「キャッキャー」


『ウィー!!!』


 助っ人はラリアットエイプのスタン・アックス・ビリー・ブロディ― だ。

 一通り声を上げた後、皆揃って有名プロレスラーっぽく右手を挙げている。


「さて、今日やってもらうのは、あそこのチンピラたちを完膚なきまでに潰すことだ。

 あいつらが起こした凶行によって、人類が滅びる切っ掛けを作るというとんでもない奴らだからな……

 今日はボッコボコにしてやるぞ!

 とある女の子の仇だ!!」


『ウィー!!!』


 今度は揃って腕を曲げて静かに叫ぶ。

 空気を読んでくれてありがとう。


 さすがにこの距離で叫ばれたらいい加減気付かれてもおかしくなかったからな……



「という訳なんですよ!」


「アニキ、あいつはヤベェよ!?」


「うるせぇ!!」


 兄貴と呼ばれた巨漢が、ボロボロの机を蹴り砕く。


「今すぐそいつの特徴を全員の頭に叩き込め!

 俺等に刃向かったことを後悔させてやるぞ!!」


「おおぉ 「悪い子はいねぇがあああ!!!」 ぉおう?!」


 チンピラたちは突然入ってきた俺に目を丸くしている。


「な、何者だ!!!」


「正義の味方だ」


「せ、正義……?」


「どこにもそんな要素ねぇだろ!!」


 失礼な!

 悪いことをしそうな奴を止めるために来た俺は、間違いなく正義の味方だ。


「……お前が正義の味方って野郎か?

 うちのもんが世話になったらしいな?

 正義の味方が俺等に何の用だ?

 悪いことはいけませんって説法にでも来たのか?」


『ぎゃははははっ』


 早々に落ち着きを取り戻したアニキを見て、周りのチンピラたちも余裕を取り戻したようだ。


「俺らをいい子にしてくれるってか?」


「見た目の割には優しいねぇ!!」


「神様ぁ、ぼくきょうからいいこになりま~す」


 何が面白いのか笑いが伝播していく。


「で?

 どんな楽しいお話をしてくれるんだ?」


「話などしねぇ。

 ただお前ら悪党の持っている金を全部もらっていく!!」


「ただの強盗じゃねぇか!!」


「安心しろ……今後、お前達は金を触る機会など来ないだろう……ならば残った金は俺が代わりに使ってやるのが情けというモノだ」


「んなわけあるかボケ!!」


 兄貴が驚愕の表情を浮かべているが、失礼な!

 強盗じゃなく、たまたま悪い奴らを倒したらあった金品をもらうだけだ!


「問答……無用!!」


『ウィー!!』


 そして、このボロボロのアジトの四方の壁を破ってラリアットエイプたちが強襲する。


『うわあああああああっ?!』


 なぎ倒される数十人のチンピラたち。


「な、何なんだよお前ら!!」


 兄貴がそう叫ぶ。


「いけ!

ファイヤーゴブリンカズヤ!!」


「ほいほいチャーハン?」


「く、来るなあああああああ!!?」



……

…………

………………



 20分後、ボロボロになったチンピラたちの屍がアジトの中に転がっていた。

 いや、死んでないけどね?


「……」


 兄貴の目は死んでいる。

 よほどカズヤにひどい目に会わされたのか……俺は彼らの戦いをよそに、お金がないか建物の中を探してたから全然見てなかったんだよね……


 そして発見しました計55600円の現金。


 コインで言うと、金貨1枚(10000円)、大銀貨2枚(5000円×2)、銀貨18枚(1000円×18)、大銅貨25枚(500円×25)、銅貨51枚(100円×51枚)……


 こんなに人数が居るのにしょっぱいな……


 値打ち物もなさそうだし、とりあえず広間に戻るか。


 そしたらラチンピラたちが倒れている訳ですよ!



「よし、帰るか……アナゴさん、トドメを刺しておあげなさい」


「ゴブゥ」


『ああああああああああああああ♂』


 チンピラたちの汚くも野太い声をBGMに、俺はボロボロのアジトを出る。


「衛兵さんこっちです!!」


 そして周りに誰もいないことを確認し、生活魔法の火を、自分の魔力に物を言わせて大火球にし、上空に打ち出して爆発させる。


 ポンポンと花火のように破裂する火球たち。

 いくらスラム街でも、これだけど派手にやれば衛兵たちもすっ飛んでくるって寸法さ!


 ことが終わると、スタンたちがアジトの壁をぶち破って出てきた。


『ウィー!!』


 そしてそのまま精霊界に帰っていった。


 遠くの方で何かガヤガヤしている。

 恐らくもうすぐ衛兵たちが来るな。


「お前達の敗因は、知らなかったとはいえ、人類滅亡のきっかけを作ってしまったことだ……」


 一言決めて、俺はその場を後にする。

(※ この日の夜、このことを宿で不意に思い出してメチャクチャ悶絶した)







 さて、昨日1日で金を集め終わった。

 なのでビスチェが救おうとしている孤児院の先生とやらの様子を伺いに行くか。


「テノン、孤児院の子供たちは何歳くらい?

 そして人数は?」


『下は3歳から上は12歳ですね。

 13歳になると、独り立ちして孤児院を出ていかなければいけないみたいです。

 人数は12人で、6歳以下の子供が8人と半分以上を占めています』


 どうやら去年、漁の途中で亡くなった人が出たらしく、その人の幼い子供が4人ほど入ってきたようだ。


 孤児院はスラムではないが、比較的貧しい人たちが住む区画に建っており、街からの支援があるが、余り多くないらしい。

 そのため、孤児院の世話をしている先生が謎の病で倒れている現状が続くと、とてもマズイようだ。


 一応医者にはかかったが、原因不明ということでとりあえず栄養を摂って休めと言われている。

 金銭的な問題で、回復魔術を受けることが出来ない。


 だからお人好しのビスチェがそれを気にかけ、その先生の治療の為に、何でも治すという薬を求めているのだとか……


「本当にそんな薬があるのか?」


『人体が受ける苦痛を取り除いて元気にする薬は存在します。

 そして遅くても数年後には内臓がボロボロになって死にます。

 早ければ3か月ほどでしょうか?』


 うん、もの凄いアブナイお薬だった。


 仮にビスチェが手に入れたとしても、その末路を知ればとてつもない罪悪感でつぶれてしまうんじゃないか?


「頑張っている女の子の為に一肌脱ぐか!」


『彼女の○○○ピー××ピーた罪滅ぼしですか?』


 いいえ、それじゃないです!




 とりあえず孤児たちへのお土産も買っていくか。

 幸いいくら荷物があっても収納魔法があるし、読者みなさん忘れているかもしれないが、俺が一度食べたことのある料理を出す”料理魔法”というのを使ういい機会だ。


「せめて俺がいるときには腹一杯食べてほしいしな」


『(なんだかんだ言って優しいですね。

 ……小児性愛だからじゃないですよね?)』


 なんかテノンが失礼なことを考えた気がしたが、とりあえず子供に娯楽を、と考えたら絵本が定番でしょう。


 屋台のおばちゃんに買い物と引き換えに情報を得て、本屋に辿り着く。


「すいませ~ん。

 小さい子に文字を教えられるような簡単な絵本ってありますか?」


「はいはい、こっちにありますよ」


 と案内された一角で、目につく絵本のラインナップはこんな感じだ。


・逝け、ボナパルディー!! 2000円

・魔女っ子ベルちゃん 1000円

・俺の上腕二頭筋が火を噴くぜ? 3000円

・ハイレグヴィーナス♡ 5000円


 うん……うん?

 いやっ、確かにそれっぽいのはあるが、他の大半は子供に見せられそうにないな……特に一番下は確かに絵本だけどもっ!

 対象年齢がもっと大きい子だよね!!?


 俺は財布にも教育にも優しそうな魔女っ娘な絵本を見る。

 一応中身も確認しなきゃね?


 うん、問題なさそうだ。

 この本を買って、個人的に”ハイレグヴィーナス♡”を買う。

 大変すばらしい出来です。


 俺はまさかのお宝を発見し、大満足して本屋を出る。


『渉さん、最低です!

 変態です!!

 不潔です!!!』


「黙れペチャパイ」


『びえぇぇぇ!!!』


 貧乳系惑星(※ 3話参照)が泣き喚いているが、お宝を手に入れた紳士おとこは、精神がものすごく強くなるのだよ……テノンを無視してお菓子を買っていく。


 話を聞く限り、そういうモノを食べられるような環境じゃないだろう。





……

…………



 ここか、確かにボロいな。

 テノンが拗ねてしまって、ビスチェの居場所が分からないが、1時間ほど前まで数人でスラムの方に行っていたからここで鉢合わせする可能性は低いだろう。


「ごめん下さい」


「……はい、どちら様ですか?」


 ギィっと、立て付けの悪い扉を開けて、10歳くらいの女の子が顔を出す。


「この孤児院に寄付をしに来たんだ。

 責任者の人はいるかい?

 あ、あとこれお菓子だから皆で食べて?」


「ありがとう!!

 あっ……すぐにお姉ちゃん先生を呼んできますね!」


 最初は警戒していたみたいだが、お菓子をあげるとパァっと花が咲いたように喜び、女の子は孤児院の奥に走り出した。


 確か、ここの先生は男の人だったはずだが……お姉ちゃん先生?


 ここはテノンに聞いてなかったな……


「お待たせしました。

 あいにく父は今体調が優れずでてこられないので、私が代わりにお伺いします。

 こちらにどうぞ」


 出てきたのは妙齢の女性だった。

 ただ、彼女の奇麗な顔に三本の深いひっかき傷があり、おでこから右目を通って頬まで至っている。

 多少赤く腫れているし、瞼はずっと閉じたまま……恐らく右目はもう、見えないんだろう……


 彼女に案内され、応接室と思わしき所に出る。


「このようなモノしかありませんが……」


 そう言ってお茶を用意してくれた。

 お礼を言ってからお茶を頂き、要件を告げる。


「急な訪問お許しください。

 こちらに孤児院があると聞いて、少ないですが寄付させていただこうかと思い、お伺いしました」


「まぁ、宜しいのですか?

 本当にありがとうございます。

 それとマナから聞きましたが、子供たちの為にお菓子までご用意いただいたようで……」


 感謝の言葉と謙遜の応酬を何度かして、世間話をする。

 この美人さんはイリアさんと言い、長そうな茶髪をセイバー結いみたいに後頭部にしにょんを作っており、地味な茶色のワンピースに白いエプロンをしている。


 優しそうな垂れ目で、瞳は緑っぽい色だ。

 だから余計に顔の傷が違和感に感じるな……意外と手が大きいから、普段から何か持つようなことをしていたのか?


 もしかしたら元冒険者で、ケガで引退したのかも……ビスチェとの縁はその時に出来たとか?


 仕事モードに入った俺は、会話をしつつも彼女を観察してプロファイリングする。

 相手の事を分析して興味ありそうな話題で親近感を持たせるのは、営業をしていれば身に着くスキルだ。


 因みに俺は今、金のかつらとサングラスをしてるよ!


 でもよかった……営業職なので、仕事モードに切り替えれば、普通に会話できるな……

 30000円ほど寄付をしたら、開いたお口を手でかくしながら、


「まぁ、まぁ、まぁ……」


 と言っていた。

 ちょっと可愛い……


「それではワタルさんは世界各地を旅しているのですね?」


「ええ、何とか魔術を身に着け、若気の至りで冒険だー!

 などと村を飛び出したはいいのですが、何度も死にそうになったりしてここに辿り着きました」


 一応アルテにもらった力なので魔法なのだが、それを言うと情報が洩れてキャロルに嗅ぎ付けられる可能性があったため、魔術ということにしておいた。


「魔物に腕を引っ掻かれたときは痛みをこらえながら回復魔術をかけて、泥まみれになりながら尻尾を巻いて逃げたこともありました」


「っ?!」


 食い付いた!


「どうかしましたか?」


「……いいえ……」


「あ、お茶が無くなってしまいました……申し訳ありませんが、もう一杯いただけませんか?」


「ええ、すぐにお持ちします」


 これで彼女に考える時間が与えられる。

 そして、お茶を入れている間に覚悟を決め、回復魔術の事を切り出してくるはずだ……


「……お待たせしました」


「ありがとうございます。

 厚かましいお願いを聞いていただいてすみません。

 余りにお茶が美味しかったもので……

 子供たちに持ってきたお菓子だけでは申し訳が無いくらいです。

 この孤児院の掃除でもお手伝いしたいのですが、私が手を出したら余計に散らかりそうですね……」


「……」


「おや、どうしました?

 もしかすると本当に私に何かお手伝い出来ることが?」


 彼女が一歩踏み出しやすいように誘導する。


「あ、あの…………ワタルさんのご厚意に甘えまして、一つお願いがあります」


「はい、何でも言ってください。

 私に可能な事ならば」


「私の父が体調が優れないと先ほど申しましたが、実はここ最近寝たきりになってしまったのです。

 お医者さまにも見せたのですが、原因が分からず、手の打ちようがありませんでした。

 回復魔術ならばもしかしたら……と言われたのですが、生憎と使い手の方も、費用の方も捻出できず……ただただ出来る限り栄養のある食べ物と、休養を取る様にしていたのですが……」


「なるほど……つまり私に父君に回復魔術をかけてほしいということですね?」


「はい、……もしそうして頂けるのなら、私に出来ることなら何でもします。

 ですのでどうか……父を助けていただけませんか?

 お願いします!」


 そう言って頭を下げる。


「頭を上げて下さい。

 構いませんよ。

 ただ、私の力が及ぶかどうかは分かりませんが……」


「あ、ありがとうございます!!」


 涙ぐんで嬉しそうにしている。

 うん、奇麗なひとだな……


 こういう頼られ方は悪くない。

 後はアルテにもらった力を、アルテに治るように祈りながらかけるだけだ。


「では父君の所に案内していただけますか?」


「はい、こちらです」


 そして、応接室から出て、廊下の突き当りの部屋にノックして入っていく。


「お父さん、イリアよ。

 回復魔術を使える方に来ていただいたの!

 入るね」


 するとそこには顔を真っ青にして苦しそうにこちらを見る男性が居た。


 これマジで悪いヤツだ……


「初めまして、渉です」


「ヒュー……こんな、か、っこうで、もうしわけ、ありません……ヒュー……

 イアン、です……ヒュー」


「喋らないで……すぐに診ますので安静にしてください」


 コクっと頷き、目をつむる。


 アルテからもらった力に回復魔法がある。

 そして、回復魔法の中で、今回必要そうなのは……


診察スキャン

 身体の内外にケガや病巣が無いか調べる。


 これでイアンさんの体を診察する……肺に何かあるのか?


診断ダイゴ

 病気の診断をする。


【肺魔核】

 漂う魔力を吸収しすぎて起こる。

 本来ならば、余剰の魔力は体外に排出されるはずだが、何らかの要因により、排出出来ずに体の中に許容量以上にたまってしまい、体調を崩す症状を”魔核”と言う。

 自然治癒する場合もあるが、3割ほどは治療せねば回復せず、1から3か月ほどで死に至る。


 治療法は経絡けいらくに魔力を流して、体内の魔力に干渉して体外に排出することで、改善する。


 今回は、肺に障害が出てしまい、呼吸が上手く出来無くなっている。


 猶予1日

 




 メッチャ便利!

 医者いらずだね!!

 

 ってか、アブねぇ!!?

 明日じゃ間に合わなかった可能性がある!!


 というか経絡ってどこ?

 ……多分全身を1周していると考えると、首にもあるはず!

 首に手を当てて、回復魔法をかける。


生命修復キュア

 全身に魔力を通して回復力を上げる。

 ケガや病気を問わず、ある程度の効果がある。


「ヒュー、ヒュー、はぁ、はぁ……スー、スー……」


『……』


 俺とイリアさんで見守っていると、穏やかな寝息がしてきた。


「大丈夫そうですね……多分このまま安静にしていれ」

「お父さん!!

 よかったぁ……」


 治ったと分かると、イリアさんは眠るイアンさんに縋り付いて涙を流す。


 俺はそっとその場を離れて、先ほどの応接室に行く。




……

…………




「……お見苦しいところをお見せしました……」


 目を腫らしながら恥ずかしそうにイリアさんが謝罪してくる。


「いいえ、美しい家族愛を拝見させていただきましたよ。


 ぼんっっといった感じで顔が真っ赤になる。


「あの……なんとお礼を言ってよいやら……」


「私がやりたくてやったことですので、お気になさらず。

 あ、お茶をもう一杯頂いて宜しいですか?」


「くすっ、はい、喜んで!」


 そう言って彼女は上機嫌にお茶を入れてくれる。




「3か月ほど前、父が急に倒れたと聞き、慌てて帰ってきたんです」


 お茶を飲んでいると、これまでの経緯をぽつぽつと話す。

 やはり彼女は冒険者だったらしい。


「そのときは大丈夫だと笑っていたんですが、父の事が……血は繋がっていないのですが、唯一の肉親の事が気がかりで、討伐以来の最中に集中力が途切れ、ケガを負い、これを機に引退してこの孤児院を父と共に支えていこうと……そうした矢先にドンドン父が衰弱していって……」


 ついに涙を流しながら、とてもいい笑顔で彼女は感謝してくれる。


「本当にありがとうございます」


 ちょっと照れるな……


「……先ほども申したように、私がやりたいからやっただけです。

 ついでと言っては何ですが、もう一つ試してみたいことがあるのですが」


「はい、何でしょう?」


 そういって、彼女の頬に手を伸ばす。


「あ、あの……」


「あ、申し訳ありません。

 触れてもよいですか?」


「は、はいっ」


 目をと口を固く閉じるイリアさん。

 まだ完全に傷として定着していないなら、魔法なら何とかこの傷を消せるはず。

 何せ神様パワーだからな。


「ん~っ」


 えっと……怪我を治すには……


傷修正ヒール

 外傷を治す。


 なんか手のひらから青い光が溢れて、彼女の傷をみるみる治していく。


「ん……ん?」


 よし、完了。


「あ、もう大丈夫です」


「ふぇ?」


「右目を開いてください」


「あの……私、このケガで目が……え?

 ……………うそ……っ!!」


 彼女は走ってこの部屋を出ていく。


「あ、ああ、ああああああああああっ」


 喜んでもらえたようだ。


「ぐすっ……ワタルさん……本当に、すんっ……なんとお礼を言ってよいやら……」


 傷が治ったら一段とイリアさんは奇麗になった。

 さっきも奇麗だったが、恐らく純粋な笑顔を浮かべているからだろう。


 俺は彼女の姿を脳に刻み込む。


 彼女とハイレグヴィーナス♡で、しばらくオカズには困らなさそうだ。

 あ”~さっさと宿に帰ろう!!


「何度も申し上げますが、私がやりたかったことなので……

 ではこれで私は失礼しますね」


「そんな?!」


『渉さん』


(ん?)


 テノンが念話で話しかけてきた。


『あの扉から見ている子供たちが見ているんですが?』


 そう言われて振り向くと、空いたドアの隙間から、子供たちが顔を半分出して床から団子のように連なっている。


 もし今が昼じゃなければチビるね……


「ねえちゃん?」


 3歳くらいの男の子が入ってきた。


「けがしたの?

 いたくてないたの?」


「違うのよエリック……この方に痛いのを治してもらって嬉しくて泣いちゃったのよ」


「ほんとだ、おかおのいたいいたいがない!」


「姉さん!!」

「お姉ちゃん!!」


 子供たちが、次々にイリアさんに飛びつく。


 ものすごく慕われている様だ。


「あ、そうだ……もう一つお土産がありました。

 絵本ですが、子供たちに読んであげてください。

 簡単な内容なので、文字の勉強にもなりますよ」


 この世界の識字率は半分ほどだ。


 文字を読めない人も割といるので、こういうので小さなころから勉強していれば将来役に立つだろう。


「本当に何から何までありがとうございます」


「いいえ、それでは」


 俺は帰ろうとしたが、エリックと呼ばれた男の子が、ズボンを掴んで離さない。


「よんでえ」


 ……困った……俺は早く帰ってオカズを使いたいのに……


 すると小さな子たちが集まってきた。


「えほんよんで~」


「おねえちゃんをありがとう!」


「だっこ~」


 わらわらと集まってくる。


「こら、あなたたち!!

 すみません……」


 イリアさんがちょっと慌てている。


『読んであげたらどうですか?

 ビスチェたちはまだまだ来ないですし』


 子供たちがじーっと見てくる。


「分かった。

 一度だけ読んでやるよ」


「やったあ」


 子供たちが”わあああ”っとはしゃぐ。


「すみません」


「子供は元気な方がいいですから、気にしないでください」


 そして、俺は絵本を読んでやる。










 私は魔法少女ベル!!!

 悪い奴らは許さないわ!!!


 そういって魔女っ娘は悪い奴らをやっつけました。


 助けられた人々は、ベルを称えます。


『ベール、ベール、ベール……』


 人々が笑顔になるのが大好きな少女は、こうしてたくさんの人の笑顔をとりもどし、生涯にわたって人々を助け続けました。


 めでたしめでたし。







 女の子たちはキャーッと大興奮で、男の子たちは俺達も強くなるんだー!! っと叫び、エリックは俺の膝の上で寝ていた。


「お疲れ様ですワタルさん。

 お茶をどうぞ」


「ありがとうございます。

 ちょうど喉が渇いて……」


 お茶をごくごく飲んでいると、小さな女の子が寄ってくる。


「ねぇねぇ、もっとあそぼ」


 まだ遊んでほしいようだ。


 でもオカズ……


『遊んであげたらいいんじゃないですか?

 ビスチェたちはまだまだ来ないですし』


 周りに子供たちが寄ってくる。


「分かったよ。

 ちょっとだけだよ?


『わああああああ』


 あの上目遣いは卑怯だと思う。

 俺は子供たちを引き連れて孤児院の扉を開け、


「ファッ??!!」


 目の前にドアを開けようとしたビスチェが居た。


『ぷくくくくっ……』


 テノンめ……笑ってやがるぜこの野郎……


「はかったのう はかってくれたのう……」


 ギギギ……と歯をかみしめながら、俺はこのピンチを乗り切ろうと脳をフル回転させた。





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