第20話 強襲、誤解で誘拐犯?!



 お、落ち着け俺、まだ慌てる時間じゃない……


 あの時は口調も変えていたし、何より仮面をしてたから身バレはしていない。

 何食わぬ顔でやり過ごせるはずだ!!



「あ、どうも」


「?!」


 俺は軽く会釈して、子供たちと外に出る。


 そして、鬼ごっこなどで30分ほど遊んでやり、そろそろ帰ろうかとイリアさんに挨拶をしようと孤児院に入ったら、何故か申し訳なさそうに椅子に座るイリアさんと、仁王立ちしているビスチェが……


「話があるわ」


 俺の事がバレる要素が無いならば、恐らくイリアさんやイアンさんの治療の事だろう。


「昨日はよくもやってくれたわね変態!!

 私を信用させて油断させてからなんて最低ねっ!!!」


 ぬわああああああっ!!!


 何故バレた?!

 いやまだだ……まだ確定したわけじゃない……


「何の事だろうか?

 貴女とは今、初めて会ったばかりだが……」


「精霊使いは精霊の気配に敏感なのは知っているでしょう?

 特に聖霊となればその気配は普通の精霊の比ではないわ!!

 あなたからは昨日の精霊の気配が出ているわ!!!」


 そ、そうなの?!


 ……いや、まあ、確かに……あいつの異常さならば毒々しい紫のオーラとかそんなものが漏れていても不思議じゃないが……


「???

 全く何のことを言っているのか分かりませんね……それに私は魔術師ですよ?

 そうですよねイリアさん」


「ええ、間違いありません。

 私の顔の傷もワタルさんに治していただいたのよビスチェさん」


 一般常識として、魔術を使える者は、精霊魔術を使うことが出来ない。

 魔術は自分の魔力を使って現象を起こすことに対し、精霊魔術は精霊に力を行使してもらう。

 つまり、魔力の使い方で言えば、双方は相反するので、魔術師が精霊魔術を使うことは出来ないし、その逆もしかりなのだ。


「火よ!」


 と思っていた時期が、俺にもありました……

 マジで指の先から火が出てるね……やだ何この娘天才?


「多くの人は誤解しているけど、両方使うことは可能よ」

 

 私にはこっちの才能あまりないけどね、と自虐的にビスチェは〆る。


「で、でも仮面をして立ってビスチェさんは言ってたじゃない」


 ナイスイリアさん!

 さすがここ最近のベストオブ美人!

 神とか、惑星とか、暴力聖女とか、狂信者じゃない、いたって普通の女性!!


「ほう……そうだったのですか。

 あなたはその方の素顔を見たのですか?」


「……見てないわ」


「ならば言いがかりは止めていただきたい」


「言いがかりではないわ」


 なんかメッチャ自信がありそうなドヤ顔……


「ならば証拠はあるのですか?」


 出せるものなら出してみろ!!


「……あなた、本気で言っているの?」


 なんか今度は呆れられた。


「さっさと結論を言ってくださいよ。

 これでも私は忙しいので」


 俺とイリアさんは”ほれ、さっさとその証拠を出せよ”という顔でビスチェを見る。


「ビスチェさん?」


「さあ、早く」


 二人で彼女をかす。


「はぁ、本当に気付いていないのね……

 あのね、本気で正体を隠したいなら、そんな珍しい靴を履くものじゃないわよ?」


 俺達は俺の靴を見る。

 ???

 普通の動きやすい運動靴だが?













 ………………あっ?!










 こっちの世界じゃこんな運動靴なんてないね!

 てへぺろっ?


「これでよろしくて?

 なまはげさん?」


 メッチャにっこり笑って、拳をボキボキ鳴らしながら近寄ってくるビスチェさん。


「申し訳ございませんでした!!!」











「ずびばふぇんべじだ……」


 鼻っ柱をグーで殴ったよこの女!!

 しかも3回も!

 あり得ないほど握りしめたグーを3回も!!!


「ビスチェさん、やりすぎよ!!」


 イリアさんがかばってくれる。

 なんかもう天使に見えてきたよ……


「ふふふ……なまはげさん、そうなの?」


 ……どう考えても俺の聖霊アナゴさんがあれしたんだよな?


「全面的に私の落ち度です。

 この度は私の聖霊がご迷惑をおかけしました」


「ふんっ」


 プイっとそっぽ向く。


「聖霊が独断でやったなんて信じられないけれども、でもまぁ、イリアさんとイアンさんを治したことに免じて許してあげるわ。

 それに寄付と子供たちを喜ばせたことにね」


 なんだかんだと言って優しい……これがツンデレか?


「で?

 あのチンピラたちは?」


「衛兵さんに連れられて行ったと思います」


「確かにスラムで騒ぎになっていたわね……何人もの男たちが衛兵にしょっ引かれていたわ」


 という訳で帰ろう。


「それじゃあそういう訳で……」


「あら?

 もう帰っちゃうの?」


「ええ、へへへ、これでも忙しい身なんでさぁ」


 俺は必死に訴える。


「そうなの……それじゃあ私も帰るわね。

 それじゃあまたねイリスさん」


 するといきなりドアを開けてエリックが飛び込んできた。


「おじちゃんもう行っちゃうの?

 やだ!」


 ごふっ……おじちゃんっていうのは結構クルね……


「おじちゃんいかないで!!」


 子供たちがいっぱい入ってくる。

 仕方が無いので目線を合わせるためにしゃがんで謝る。


「ごめんな、もう本当に時間なんだよ」


「皆、ワタルさんに迷惑を翔けちゃだめよ」


「やだぁ!!」


 そう言ってエリックが俺のかつらを引っ張る。


『あっ……』


 バサッとかつらが外れ、サングラスまで一緒に落ちた。


「え?」


「黒髪……黒目?」


 その言葉を聞き、俺はビスチェとイリスさんに近づいて顔を寄せる。


「よく見てくれ!」


 そして、互いに10cmくらいまで顔を近づけて目を見つめ合う。


「俺の瞳は黒じゃない!

 焦げ茶なんだっ!!」


 何度でも言うが、俺は焦げ茶目だよ!

 黒くなんてないんだよ!!


「な?

 黒目じゃないだろう?!」


「え、ええ……」


「そ、そうですね……」


 俺は思いっきり力説すると、二人がちょっと引き攣っている。




「勇者様?」


 しまった?!

 子供たちを放っておきすぎた??!


「勇者なの?」

「すごいすごい!!」


『勇者様あああああぁ』


 子供たちが全員で抱き着きに来る。


「静かに!!!」


 俺は大声で静止し、ビスチェも含む全員の動きが止まる。


「俺がここに居ることは内緒だ。

 何故なら、俺は正体を隠して、人類の危機に対処し、世界を救わねばならないからな……


 ここでもし、俺の正体がバレたら、奴らが襲ってくるんだ……

 だから皆、俺を勇者って言っちゃだめだ。

 君たちだからこそ、俺は信じる。


 俺の事を、内緒にしていてくれるかい?」


 そういって、君たちは特別なんだよ感を出す。


「はい!」


「ひみつう!!」


 何故か全員敬礼している。


「宜しい、それでは解散だ!

 約束を守れる偉い子には、またお菓子を持ってくるぞ!!」


『わああああ、ありがとう!!』


 そして子供たちは、秘密だとか、内緒とか言いながら楽しそうにこの場から去っていった。


「まあ、ワタルさんが……」


「なるほどね……だから二人を……」


 なんか納得してくれたようだ。


「二人も俺の事を秘密でね?

 でも俺は黒髪黒目の勇者とは別人だから!

 それじゃ!!」


 そして俺は一歩を踏み出す。


「待ちなさい」


 だが、肩を掴まれた。


 振り向くと、にっこりと可愛らしい笑顔のビスチェが……


「あなたの宿は?」


「……○○亭です」


「あら、奇遇ね。

 私も今日、そこに移動する予定だったの!

 一緒に行きましょう?


 それじゃあねイリアさん」


 そして、俺はビスチェに連行されて行った。


 その時イリアさんは、玄関で俺達の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 マジ天使……






 俺達は宿屋に着き、ビスチェが部屋に乗り込んでくる。


 俺はかつらとサングラスを取り、亀のように縮こまりながら椅子に座る。

 ビスチェも対面に座った。


 無言の時間が続くが、ビスチェがいきなり頭を下げた。


「ありがとう。

 兄さんを助けてくれて」


 いきなりの事で、固まってしまった。


「そして、昨日も……最後はあれだったけど、私の身を案じてあんなことを言ってくれたんでしょ?」


「いや、まあ……」


「だから私、あなたについて行くことにしたわ!!」


「ホワッ?!」


 何でそうなるの?


「だって私、精霊術士だもの」


「どういうことなの?」


「知らないの?

 強力な精霊術士の近くには、強力な精霊が集まってくるのよ。

 私はもっと強くなりたい、だからあなたについて行くわ!」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ!!」


「なら私を汚した責任をどうとるの!!」


「よろしくお願いします」


「よろしい!

 こちらこそよろしくお願いします」


 こうして、旅のお供にツンデレが加わった。










「あら、貴女はビスチェですね?

 いつもうちの人がお世話になっています」


 またこの聖母神おかんは何寝ぼけたことを言ってんだ?


「せ、聖母神様?!」


 あ、この反応デジャブ……


「もうすぐご飯が出来ますので、貴女も召し上がってくださいね?」


「は、はい!

 ふつつかものですがよろしくおねがいしまちゅ!!」


 なんかガチガチに緊張して、言葉のイントネーションは変だし、噛んだな。




 アルテは上機嫌に、料理を作るためにベランダから不思議空間へ入っていった。


「ちょっとワタル!!

 どうゆうこと?!!

 何で聖母神様が?!!

 あなたは使徒様でもあられましたか?!!」


「うげぇ……」


 襟首をつかまれ、思いっきり前後に振られる。

 ビスチェ自身が混乱しているため、加減を知らない……

 グラトルがそれを見て、


「それ、メチャクチャキツイよな……」


 という感じでうんうんと頷いている。

(※ 13話参照)









「ところであなたたちの次の目的地は?」


「船に乗ってアトランディカに行くつもりだ」


 だからついて来なくていいんだぞとアイコンタクトをとるも、


「そう、それじゃあ出航は明後日ね」


 っとやっぱり付いてくる気満々だった。


「あの……お金が……」


「そのくらい持っているわよ。

 あなたの分も出してあげようか?」


「断る!!」


 手持ちが少ないことに気づいたのか、ニヤニヤとこちらを見る。

 こんなところで借りを作ってしまったら、後で何されるか……












 という訳で、俺たちは船旅の為の買い物をする。


 今回はグラトルがついて来ており、俺の頭に装着済みだ。

 ぷにぷにしたお腹を頭頂部で感じながらビスチェを連れ添って歩く。


 本当は各々買い物をすればいいじゃんと思ったのだが……


「何で荷物持ちと別々に行かなければいけないのよ?」


「何で荷物持ちなんだよ?!」


「あなた、私にした仕打ちを忘れていないわよね?」


 と言われて、しぶしぶ一緒にいるのだ……



「こうしてみると、私達ってもしかして恋人同士に見えたりしてね?」


 ビスチェが揶揄からかうようにこっちを見ているが、意外と箱入りなのか、世間を知らないな……


 かつらとサングラスをしているとはいえ、明らかに可愛い女の子と釣り合わない男が一緒に歩いていたら……









「あの子可愛くね?」


「でも男がいるみたいだぞ?」


「あの横の奴?

 ないない、顔面だけで通報ものじゃないか。

 そんなのと一緒に居たい女の子がいるか?」


「確かにな……

 じゃあなんだろ?」


「貢がされているんじゃないか?

 そんで束の間の夢でも見てるんだろ?」


「ああ~なるほど!!」


 憐みの目……







 って感じにみられるんだぞ?

(※ 渉の個人的見解です)







 という訳でビスチェを無視していると、


「照れてるの?

 ねぇねぇ?」


 と、俺の頬を指でつつく。


 ちょっと可愛いのがムカつく!!

 満足したのか、ぴょんと跳んで離れるビスチェ……

 ニシシシ……と何が楽しいのか笑っている。


 きっとこれから過ちをネタに俺を色々と強請ゆする算段をしているんだろう……


「ぐぬぬぬぬっ……」


 いかにこいつを撒くか……そう考えていたその時、強い風が吹く。


「きゃっ?!」


 何のラッキースケベかは知らないが、明らかに物理法則を無視した感じでビスチェのスカートがめくれる。






 のは別にどうでも良いんだ!!!!


 最初に気づいたのは偶然だった。


 何故遠くを見たのかと突き詰めたるならば、なんとなく……というほかない……


 今歩いているところから数百m先の住宅街。


 そのうちの一つに、出窓で洗濯物を干しているお宅があった。

 その吊るしているモノの一つに……


(純白のショーツ?!)


 やたらと気になるモノがあったのだ。


 読者の方みなさんも経験が無いだろうか?


 何故か普段は気にならないのに、やたらと気になって仕方がないモノを見た時は……


(いやまて、もしかしたら老女のショーツかもしれん……)


 それはそれできついモノがあるが、次の瞬間、その窓から洗濯物を回収する女性が見えた。


(すんごい美人!!)


 刹那の瞬間に、何とかもっとよく見て記憶に刻み込もうと、無意識に目に魔力を集中させた。


(何だこれ?!

 すごくよく見える!!)


 後で知ったことだが、魔力を体の一部に集中させ、部分的に強化する技術があるらしい。


(繊維の一本一本まで見える!

 ってやりすぎだ!!)


「ねぇ!

 今の見た!!」


 ビスチェがなんか言っているが、そんなことはどうでも良い!!


 俺はピントを合わせようと、瞬きを何度もする。




 そして、ようやくピントを合わせ終わったと思ったら、既にお姉さんは洗濯物を回収して家の中に……


「ちょっと!!

 何とか言いなさいよ!!!」


 周りの雑音を意識から追い出し、せっかくのチャンスを不意にしたのが悔しくて、涙がこぼれないように空を見上げる。


 すると、遠くの空に、豆粒のような影が……


(んん?

 何だあれ?)


「見たのね!!

 私の……ゴニョゴニョ……を見たのね?!!」


 目に魔力をさらに集めてズームすると、何と小さな女の子が空から落ちてくるではないか?


(リアルで女の子が空から?!)


 さらに視力を上げて女の子を見る。


(やべぇ!!

 どう考えてもやべぇ!!)


 仮に女の子の体重を40kgと仮定しよう。

 そして高度も2000mだとしたら、


 位置エネルギー=質量×高さ×重力加速度


 E=40kg×2000m×9.8

  =784、000J


 人は当たり所によっては9000Jの位置エネルギーで死に至ると言われているため、どう考えてもグチャグチャだ?!


 というかテンパりすぎて思考が異次元に飛んでいた!!?


「ねぇ!

 無視すんじゃないわよ!!」


「それどころじゃねえよ!!」


「?!」


 俺は脚に魔力を籠め、全力で跳ぶ。


「ひゃあんっ?!」


 ビスチェの悲鳴が聞こえたが、それに構う暇はない!!


 しかし、どれだけ頑張っても女の子の落下地点は数キロ先だ……届かない……最悪の未来がよぎる……


「あぁ……」


 俺は街の城壁を飛び越え、マンボーに入ろうとしている多くの人々に注目されつつも、急ぐ。

 が……


 もう、女の子は地面に追突する……

 そして、何の偶然か目が合った……


(これ、nice boatなゲームの一つのエンドであったな……)


 こうして女の子は地面とぶつかり、盛大な土煙を上げた……










―――――――――――――――――――――――――




 不幸な出来事によりお姉ちゃんが何処かに飛んで行っちゃった……


 どうしよう……絶対怒られる……


 そんな風に悩みながら、飛んでいると、大陸が見えてきた。


 あそこにグラチャンを殺したやつが……


 その強い恨みが、お姉ちゃんのことを頭の隅に追いやって、とりあえず適当なところでヘラクちゃんの背中から飛び降りたの。


 ヘラクちゃんはすっごく早く飛べるのよ!!


 急いでいる時にはいつも助けてもらうの!!


 目的の人間がどこにいるのか……しまった!?

 お姉ちゃんがいなければ見つからないかも……


 私はどうしようかまた悩みながら落ちて行ったの。


 そしたらいきなり誰かに見られていることに気づいて、そっちの方を見たら、すごい勢いで走ってくる男の人が……


 あっ?!

 グラちゃんの仇の男!!


 やっと生まれた大事な弟だったのに……いつか必ず元に戻すと誓った可愛い弟だったのに……許せない!!


 でも待って……あの男の頭に乗っている子は……グラちゃん?!










―――――――――――――――――――――――――――――







 俺は力が抜けて、へたりこんだ……


「は、ははは……」


 何がどうなったのかは分からないが、目の前で女の子が墜落死……見知らぬ子なのに、思った以上に衝撃だった。


「ぐ……ぐるぅ……」


 グラトルが”だいじょうぶ?”と慰めるように、頭をペタペタと触る。


「……っ!」


「ぎゅ」


 俺は思わずグラトルを頭から降ろして抱きしめる。


「全然間に合わなかった……

 助けられなかった……」


「ぐぅ……」








 余りの事にパニックになって、動けなかったが、大きな音と共に、何かが猛烈な勢いでこちらに向かってきた。


「グラちゃああああああんっ!!!!」


「ぐえっ?!」


「ぐるるぅっ?!」


 そして何かがぶつかり、俺は吹っ飛んだ。


「グラちゃん、グラちゃん、ぐらちゃあああんんっ!!!」


「ぐ? ぐる?? ぐるるっ??!!」


 何とか立ち上がると、先ほど墜落死したはずの女の子が、涙を流しながらグラトルに頬ずりをしていた。


「な、何だ?」


 最近の女の子は、あんな高いところから飛〇石が無くても無事に済むのか?!


「ぐるるるるうううううっ!!?」


 とりあえずグラトルが助けてほしそうな目で見ているので、女の子に話しかける。


「ねぇ、その子がちょっと嫌がっているよ?」


 キッ……と睨みつけられた。

 なけるぜ……


「グラちゃんがそんなこと思うはずがない!!」


「いや、でも……それより君は誰?」


「私はグラちゃんのお姉ちゃんよ!!」


『?!』


 俺とグラトルは驚いた。


 え?

 姉って……魔王の?


「……とりあえず離してあげて?」


「いやっ!」


「がうぅ……」


 仕方ない、女の子から取り上げるようでなんか気が引けるが、グラトルの事を無視出来ない……


「ほら、いい子だから」


「やだっ、離して!!」


「君が離してやらなきゃ!!」


「ダメ!!

 私からグラちゃんを取らないで!!!」


 ええい、厄介な!!


「いいから離すんだ!!!」


「ヤダヤダヤダあああああっ!!!!!」


「ぐ、ぐるう……」


 グラトルが俺と女の子に引っ張られすぎて”俺はもうだめだ……後は頼んだぜ……”というような目で見ている。


「ほら!!

 グラちゃんがマジでやばいから!!!」


「私からグラちゃんを連れて行かないでえええええぇぇっ!!!!!!」


 女の子がマジ泣きしてきた。


 どうしようかと悩んで居たら、






「あの男、さっき走っていた奴だ!!!」


「女の子を襲っているぞ!!!!」


「衛兵さんこっちです!!!!!」



「おほっ?!」


 何故か周りに人がいっぱいいた。


 そう、彼らはマンボーの街に入るために並んでいた者達だ。


「いや、違うんだ!!

 誤解だから!!

 この娘がこの子を離さないから!!」


「そこの男!!

 動くな!!!」


 衛兵さんがこっちに来た。

 しかも一杯!!!


「いやああああっ!!

 グラちああああああああゃん!!!!」


「あんな小さな女の子を……この屑野郎!!」


「人でなし!!!」


「ブサイク!!!」


 ふぇぇ……俺、何も悪くないのに、皆がグサグサ心を抉ってくるよぉ???!!


「大人しく人質を渡せ!!」


「ぐらちゃあああん!!!!」


「変態!!」


「ロリコン!!」


「よくそんな顔で生きてこられたな!!!」


 ああああああああああっ!!!!!


「俺はなんも悪くないんだあああああああ!!!!!」


 どうしようもなくなった俺は、グラトルと女の子を一緒に抱いて、その場から逃走した。


「いやあああああああっ!!!!!」


「女の子を攫ったぞ!!!」


「逃がすな!!

 追ええええええ!!」


「女の子を助けるんだ!!!!」


「応援を呼んで来い!!!!」


 誤解が誤解を生み、いつの間にか俺は女の子を攫う誘拐犯になってしまった……







「マジでこの世界理不尽すぎだろおおおおおおおおお!!!!!???」


 とりあえず俺は女の子を抱えて夕日に向かって走っていった。







―――――――――――――――――――――――――――



 一方その頃……




「わ~た~る~!!!!!!」


 色々と乙女として傷ついた挙句に置いて行かれたツンデレ娘は、キチンと渉と合流出来るのか……








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