第12話 世界の成り立ち……ゆるふわ成分が無い~~~っ??!







「ぐすっ……渉さん、グラちゃんと契約してください」


 なんとかなだめることに成功したアルテが、赤ちゃんドラゴンとの契約を勧める。


「なんで?」


「グラちゃんの邪気を払ったので、この子は元の聖霊に戻りました。

 契約すれば、この子の力も手に入れられるし、ファースの環境も徐々に良くなっていきます」


 人類で言う魔王……アルテやテノンが言うには魔王も元は聖霊らしい。



 なら、何故グラトルが人間を捕食するようになったかというと、テノンの説明によれば、邪神という奴が関係あるらしい……


 俺はその時の状況を思い出す。




















「そもそも聖母神アルテが人類を救おうと必死になったのは、かつてこの世界に攻めてきた邪神の所為なのですよ!!」


 世界テノンが珍しく激怒している。


「どういうことだ?

 まさかその邪神の封印が解けそうとか?」


 ファンタジー系のストーリーではテンプレだな。


「はぁ?

 あんな自分の世界も持てないようなゴミクズごときがっ?!

 母に敵うわけないでしょう?

 瞬殺ですよ瞬殺!!」


 逆鱗に触れてしまったのか、驚くほど低い声の「はぁ?」だった……


 どうやらアルテは、神の中でも相当な実力者らしい。


「じゃあ邪神の何が悪かったんだ?」


「弱すぎたんですよっ!!

 史上最弱のゴミですあれは!!

 いいえ、むしろ存在すら許されない屑ですっ!!

 ゴミに失礼です!!」


 怒りで興奮して、罵詈雑言を吐きまくるテノンの話をまとめると……













――――――――――――――――――――――――――――














 神は生まれた時から神格が決まっている。

 そして神格を持っている者は、生まれたときに、その手に世界樹の種という物を持っている。


 ある時、無の空間に神気が集まり、アルテが生まれた。


 アルテは生まれてすぐに、自身が持っていた世界樹の種に、自らの神気を注ぎ続けた。


 1年後、世界樹の種が発芽する。


 こうして世界アルテノンが誕生した。


 当初のアルテノンは、何もない乾燥した大地しかなかったようだ。


 1億年が経って、アルテの自我がハッキリした頃、アルテは神樹の種をとある場所に植えた。

 この神樹の種とは、世界が生まれたときに一粒だけ生まれる。


 それからも片時も休むことなくアルテは世界に神気を込め続けた。


 世界が出来て5億年経つ頃、ようやく神樹が芽を出した。


 これが不毛の大地に、初めて自然が出来た瞬間だった。


 そして7億年目にアルテは神樹のみに、神気を与え続けることにした。


 やがて神樹は実を付けた。


 付けた実は7つ。

 この実が後に、アルテノンに住む生物の元となる。



 アルテはその7つの実から、6体の眷属神と1種の生命体を作り出す。


 

 8億年目に1体目、宇宙を司る眷属神の長男アクローヌ。


 9億年目に2体目、光を司る眷属神の長女アイラ―シュ。


 10億年目に3体目、水を司る眷属神の次男イクリード。


 11億年目に俗にいう生命の源、単細胞生物が生まれた


 12億年目に4体目、植物を司る眷属神の次女インナーチェ。


 13億年目に5体目、風を司る眷属神の三男ウルトン。


 そして、6体目、昆虫を司る眷属神の三女ウカトリーナが生まれた。



 宇宙が出来たことで、アルテノンに大気が出来た。

 光が出来たことで、神樹は光合成を開始した。

 水が出来たことで、アルテノン全域に雨が降るようになり、海が出来た。

 海が出来たことにより、海中で単細胞生物が生まれた。


 そして地上には植物が生まれ始め、昆虫が植物の繁殖を助け、風はその種子をアルテノン全域に広めた。


 こうして生物が繁殖出来る環境にアルテノンは生まれ変わる。


 



 時が過ぎ、眷属神達がアルテノンと混ざり合い、17億年目を超え、後数万年で18億年目に突入するという時……眷属神達から数代目……世界に新たな聖霊が生まれる。











 神樹の下で幼女が目を覚ます。


 彼女の名はラストラ……繁栄を司る聖霊である。


 だが、彼女は一人ではなかった。


 隣には彼女の妹……進化を司る聖霊インヴィスが寄り添っていた。


 彼女たちは生まれたばかりで、力が弱かったため、勇敢なる神狼スぺラドが彼女たちを守る。


 彼女たちは一時も止まらずに世界を回る。

 だが世界には海があった。


 この広大な海に足を踏み出したはいいが、押し寄せる波が、彼女たちを陸に押し返す。

 疲れ果てた彼女たちを助けるために、その背に3体の聖霊を乗せたアケトロが空を翔る。

 アケトロの背に乗って移動しているときだけ、彼らは休息をとることが出来た。


 長い時間、世界を見て回る姉妹には、いつしか感情というモノを持つようになる。


 時に喧嘩し、時に嫉妬し、ラストラが美味しい果実を見つけると、インヴィスが羨ましそうに指をくわえて見ている。


 今度はインヴィスが2つの果実を取ってきた。


 ラストラが一つ分けてくれというと、インヴィスが嫌だと拒否する。


 こうして、姉妹は毎日仲良く喧嘩した。





 聖霊である彼女たちが感情を持つことで、世界には感情という概念が加わり、生物の多様性がより豊かになる。






 世界アルテノンの変化と共に、アルテも成長速度が速くなり、乳幼児から成長した。




 地上には、数多の生物が生まれ、進化し、やがて人類の祖先が生まれた。
















「へっへっへっ、ここが新米女神が作った世界か」


 人類が文明を持ち始め、ある程度文化が発展した頃、一人の邪神が現れた。


「どちら様ですか?」


 男の目に映ったのは、年端もいかない幼女だ。

 その時のアルテは7歳ほどの容姿にまで成長していた。


 が、それが邪神を増長させた。


「今日からこの世界は俺の物だ!

 ガキは今すぐ出ていけっ!!」


 神の中には、神格が低いまま生まれてくる者もいる。

 そのような者は、いくら神気を込めても発芽させることが出来ない。


 自らの世界を持つのは、神々にとって本能にすり込まれた義務だ。

 だが、神格が低い者達は世界を持てない……であるため、中には他の神の世界を奪おうとする者もいる。


 この男もそういう輩だった。


「ひとのものをうばっちゃいけませんっ!

 めっ!!」


 アルテノンでラストラとインヴィスが行うやり取りを見て、アルテ自身もそういうことを覚えながら成長していっている。

 悪いことをしたら叱ってしつけるのは当然……だから、軽く『叱った』程度のはずだった。


「んぎゅぼっ?!」


 だが、ここで想定外の事が起きた。


 余りにも神格の差がありすぎて、邪神が爆散してしまったのだ。


「え?」


 アルテから見たら、急に男が居なくなって困惑することになる。

 そして、これが悲劇の引き金となったのだ。


 もし、アルテが渉と会ったときくらいに成長していたら、こんな事にはならなかった……












 その頃、地上では人類が文明を持ち、社会を発展させていた。


 そして、人里離れた山奥で、ラストラたちは新たな聖霊の誕生の場に居た。


「どんな子が生まれるのかな?」


「ヴィス、落ち着いて。

 もうすぐお姉ちゃんになるんだから、はしたなく騒いでいたらこの子に笑われるわよ?」


「む~、わかったよ……」


「くぅ~ん」


 彼女たちの前には、光の球が浮いていた。


「あ、生まれそう!!」


 そして……


「くるぁ~~~……ぐぁ」


 ドラゴンの赤ちゃんが生まれた。


「かわいいぃ~っ!!」


「そうね……」


 聖霊は、姿形は様々だ。

 だが、間違いなくこの目の前の赤ちゃんドラゴンは、二人の弟なのだ。


「鳴き声がかわいいねっ!

 貴方の名前はグラトルよ!」


「きゅっ」


 小さい前足を上げるグラトル。


 こうして、新たな家族を得て幸せの絶頂に至った姉妹に……


「え?」


 悪夢が降り注ぐ。


 アルテの力を持つ彼女たちの目には、無数の黒いモノが空から降ってくるように見えた。


「きゅあっ?!」


「グラちゃん?!」


 その一つがグラトルに当たり、グラトルの体から、黒い何かが立ち上る。


「ウォーンッ!!」


 それを見て、スぺラドがすぐさまラストラとインヴィスを背に乗せてその場を離れる。


「だめっ、グラちゃんが!!」


「駄目よヴィス!!」


「いやっ、グラちゃ――――ん!!!!」



 生まれたばかりの弟を、その場に置いて離れる……インヴィスはずっと慟哭をあげ、ラストラも涙を流し続けた。


 だが、黒い何かは降り続ける。


「ウォォォオオオオオオオンッ!!!」


「グワッ!」


 スぺラドは呼び寄せたアケトロの背に飛び乗り、アケトロはその場をすぐさま離れる。


 




 そして、ファースを飛び越え、サードルの上を翔けていた時……


「あっ?!」


 彼女たちの当たりそうな軌道で、黒いモノが落ちてきた。


「ガウッ!!」


「スぺラドッ!」


「スぺちゃんダメ!!」


 スぺラドはその黒いモノを迎え撃とうと、アケトロの背から飛ぶ。

 そして、黒いモノに接触した瞬間……


「キューンっ?!」


「いやあああああっ?!」


 スぺラドは高度数千mからサードルに落ちていった。


「アケトロっ、スぺちゃんを助けて!!」


「駄目っ、アケトロ!

 逃げるのっ」


「お姉ちゃ!! ……ん……」


 非常な判断を下す姉にふざけるなと言おうと振り向くが、滂沱の涙を流し、今にも胸が張り裂けんばかりに悲痛な表情を浮かべるラストラを、非難することは出来なかった。


「スぺちゃん……ひくっ……あ……ああああああぁぁぁっ!!」


「ヴィス……ぐすっ……酷いお姉ちゃんでごめんね……ふっ……うわあああああぁん!!」


 背の上で泣く姉妹の余りに悲痛な泣き声……アケトロは必ず二人を守ると誓う。







 そして、神樹が根付くファーブルに着き、神樹の元に急ぐ。


「グリドラと早く合流しなくちゃ!!」


「グリちゃん……無事だよね?」


「大丈夫よ!

 絶対……」


 グリドラは、神樹を守護する聖霊だ。


 姉妹が世界を旅する間、二人に代わって神樹を守る……しかし……


「うそ……」


「グリ……ちゃん……」


 辿り着いた神樹の下で、グリドラはこちらを攻撃しようとしていた。


「グワアアアアッ!!!」


 すぐさま二人を背に乗せて離脱するアケトロ……


「デュヒヒヒヒ!」


 その背に向けて、神槍を突き刺すグリドラ。


強獣を衝き落とす神槍アスカロン!!」


 凄まじい閃光が、アケトロの羽を抉り取った。


「いやあああああああっ?!!」

「きゃあああああああっ?!!」


 空中でバランスを崩すが、何とか二人を落とさないように激痛に耐えて飛ぶアケトロ……



 だが、セカンスに着いた瞬間、倒れこむようにその身体を軟着陸させた。




「アケトロ!

 アケトロっ?!」


「トロちゃん!!」


「くわ~」


 必死で声をかける姉妹に、大丈夫だと伝えるアケトロ……二人はほっと息をついた……



 と思った瞬間……


ドゴッ


 二人がいる近くに、クレーターが出来た。


ゴゴゴゴゴゴッ


 そんな地響きと共に、クレーターの上に黒い空間が出来た。


「あれは……街?」


「なんで?」


 二人はそのあり得ない光景に呆然とする。


 その黒が広がっていると、緑豊かな地面が、何か不吉な街にドンドンと侵食されて行っているからだ。

 大陸の中央に向かってどんどん広がっていくナニか……


「くわ~っ」


「えっ?」

「だ、駄目よアケトロ!!」


 その異常なモノから、二人を守るために、アケトロは固有スキルを使う。


理想郷へ辿り着こうノア


 二人に危機が迫った時、その場から確実に逃げられるスキル……時空を切り離して、一切の干渉を断つ技だ。


 それにより、そのクレーターのを含めた姉妹の目の前の土地、半径5kmに及ぶ範囲を、セカンスから切り離し、海の上に運んでいく。


「アケトロオオオオオオォォォッ!!」


「だめええええええっ!!」








 体力続くまで飛び続け、何もない海の上に着たアケトロは、スキルを解除する。

 不吉なモノに侵された大地を、二人から十分に離した……


 そして……


「くわ?」


 その大地は、空に浮かんでいた……何が作用したのかは分からない。


 それを解明しようにも、アケトロの体は限界を迎えていた。


「……くぅ……」


 黒い何かに侵された大地で、アケトロは気を失った。
















「……何よこれ……」


「お姉ちゃん……」


 世界中で変化が起こる……




 その原因は、邪神の肉片かけら……アルテが触れてすらいないのに爆散したその肉体は、細かい欠片となってアルテノンに降り注いだ。


 そして、世界に重大な影響をもたらす。


 植生が変わる。

 あるいは魔物になる。

 環境が侵される……


 長い長い年月をかけて、世界を侵食していく邪神の邪気。


 聖霊である姉妹は、世界が侵食されていくにつれ、いつしか邪気がまとわりつくようになっていた。



 繁栄を司る……それは生物が交配していくこと……すなわち色欲の魔王となるラストラ……


 進化を司る……こうなりたい、ああなりたい……そんな思いが嫉妬に変わり、嫉妬の魔王となるインヴィス。


 生きるために、本能的に食料を欲するようになり、やがて暴食の魔王となったグラトル。


 スぺラドの勇敢さは傲慢へと変わり、姉妹の旅の助けになろうとしたアケトロは怠惰になった。


 そして、グリドラは強欲と皆変化していった……









「そんな……私の所為せいで……」


 アルテが気付いた時には、既に世界の大半が邪気に侵されていた。


 そして、最も被害を受けていたのが人類だ。


 彼女は何とかしようと幾度となく地上に降臨し、人類に手を貸したが、やがて追い詰められていく……彼女が直接手を下せば、下手すれば世界ごと崩壊してしまう……


 何度も何度も時を巻き戻し、幾億回も時を繰り返すうちに、その悲しみや後悔などの負の感情が、彼女を蝕み続けていった……

















―――――――――――――――――――――――――


「だから、渉さんには本当に感謝しています。

 まさか母があんな笑顔になれるなんて……」












 あの時テノンに送られてきたイメージは、本当に嬉しそうに微笑むアルテと瓜二つの少女だった。

 まさかテノンにあんなクソ重たい話を聞かされるとは思わなかった……


 俺はアルテを見る。


 こんな顔で、グラトルを慈しんでいる子が、そんな辛い経験をしていたのか……


 余りにスケールが違うが、彼女の優しさだけは、俺でも感じられる。


「分かった。

 グラトルとどうやって契約すればいいんだ?」


「ええっと……」


 二人でグラトルを見る。


 そのプニプニした腹をボリボリと小さな手でかき、半開きの目でいびきをかきながら、少し開いた口から盛大によだれを垂らしていた……












「おっさんか?!」


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