第6話 魔境の生物たち……






 さてさて、皆さんどうお過ごしですか?

 魔王グラトルさんのお散歩圏内である魔境に入り、頑張って自分を鍛えようとしたんですが、魔物が居ません!!


 正確には居たのですが、それ程危険な魔物では無かったのです!!


 そしてあれよあれよという間に、グラトルさんと、討伐軍さんの戦いが始まろうとしています。


 そう、魔境に入って今日で1か月目、当初の予定通り、決戦の場に間に合いました!!





 ちなみに僕は今一人です。

 ファイヤーゴブリンカズヤや、ツレになった魔物達は、2日前から魔境の中層に置いてきました。













――――――――――――――――――――――――――――――――――――












 さかのぼること20日前、拳で語り合って仲間になったのは、カズヤだけでなかった。


「ウキーッ!!」

「うきっきー!!」

「うぎゃー!!」

「キャッキャー」


 ラリアットエイプのアックス・ビリー・スタン・ブロディ―も何時からか付いてくるようになった。




『あれはロックロックの群れ……いいえ、明らかに変異種です。

 渉さん』

 

 見た目は、緑の『ばくだん○○』だな……


 と言うことは爆発するのか?



『いいえ、ロックロックとは、近づくと大音量で歌います』


 歌の方のロックだったか……すんごい致命的な隙を晒してない?!


「何か効果があるのか?」


『最後まで聞くと、彼らが満足します』


「どういうことだよ?!」


『お、男の人も……ア、アレを途中で邪魔されたら怒りますよねっ?

 最後までイきたい……それと一緒じゃないですか?

 渉さん……たまって……無いですか?』


「おい、唐突にセクハラは止めろ!!」


 テノンのこうした下ネタで話題を繋いでくるのは、とある町の冒険者たちの会話が元らしい……曰く、仲良くなった相手との猥談はとても楽しいと言っていたようなのだ……


 同性同士ならそうであろう……だが断じて男女ではそれは成立しない!!

 それをブサメンが言ったら、即訴訟モノだからな!!!


 そう……俺はブサメンなんだよ……


『あれだけフツメンだといっていたのにどうしたんですか?

 あ、渉さんってアフロが似合いそうですよね!』


「うっせぇ!!

 アフロが似合いそうって何だよ!!」


 周りにいるのは、マッチョなゴブリンと、マッチョなテナガザルだ……そんな連中と何十日も一緒に居たら、そりゃあ荒んでくるぜ!






 とりあえずロックロックに近づく……何気にテノンは、この世界の辞典と言ってもいいくらいの知識量を誇っている。

 まぁ文字通り、テノンはこの世界自身だけど……意外と情報源としてバカにならないんだよな……


 それを万が一伝えたら調子に乗るから伝えないけど……


ぴくっ


 ロックロック達がこちらを向く、そして……


「ド~」

「レ~」

「ミ~」

「ファー~」

「ソ~」

「ラ~」


 と声を出し始めた。


 何こいつら、メッチャ澄んだいい声?!

 ロックじゃなくて、聖歌隊という感じだ。


「ミ~」

「レ~」

「ド~」

「シ~」

 ……


 カノン?!


 まさか異世界の魔物にまで知れ渡っているとは……


 しかし、何だこの体の疼きは……


『どうやら、変異種である彼ら……名づけるならば、コーラスロックとでも言うべきでしょうね……彼らの歌声を聞くと、体が勝手に踊りだすのではないのでしょうか?

 渉さんの踊り、とても見たいです!!』


「いや、これ操作系のスキルだろう!!

 マズイ……身体が勝手に~~~っ!!?」


  そして俺の体は、とあるジャンルのダンスを踊り出す……そう……伝統的な地元の盆踊りを……














「あそれっ!」

「ミ~」「シ」「ド」「レ」「ド」「シ」「ラ」

「ド」「ラ」「ド」「ド」 

「シ」「ド」「ラ」「ソ」「ミ」「ファ」「ソ~」



 

 そして、今、魔境中の、音楽に魅入られた魔物達が集まってきた。

 まぁ、ほとんどコーラスロックと、ロックロックだけど……岩系多くない?


 俺達は、何故かボレロという曲に合わせて盆踊りを踊りながら進行していた。


 岩系の魔物はぴょんぴょん跳ね転びながら……カズヤやラリアットエイプたちは俺と同じように盆踊りを踊りながら……


「「「あよいしょっ!」」」

「「ミ~」」「「シ」」「「ド」」「「レ」」「「ド」」「「シ」」「「ラ」」

「「ド」」「「ラ」」「「ド」」「「ド」」 

「「シ」」「「ド」」「「ラ」」「「ソ」」「「ミ」」「「ファ」」「「ソ~」」


 この曲は、酒場で踊る娘に釣られてドンドンその踊りが伝播していく……みたいな設定があったはずだ。

 時が経つほどにぎやかになっていく。

 そして、盆踊りに必要な「合いの手」を、俺達踊る者達が入れていく。


「「「「「「 はっ!! 」」」」」」

「「「ミ~」」」「「「シ」」」「「「ド」」」「「「レ」」」「「「ド」」」「「「シ」」」「「「ラ」」」

「「「ド」」」「「「ラ」」」「「「ド」」」「「「ド」」」 

「「「シ」」」「「「ド」」」「「「ラ」」」「「「ソ」」」「「「ミ」」」「「「ファ」」」「「「ソ~」」」


 俺達は今、種族を超えてとてつもない一体感に包まれ、笑顔で進行している!!!










―――――――――――――――――――――――――――――――――






 魔境の空を翔る魔物が居た。

 彼はワイバーンと呼ばれる竜種の一体だ。


 グラトルには及ばないが、その戦闘力は90000に達する。


(最近は、餌が少ない……)


 ここ数年で、岩系の魔物が増えてきている。

 岩以外の魔物は、彼と同等の戦闘力を持つため、餌というより敵と言った方が良い……


 彼らは一度食事を摂れば、50日間は余裕で生きていられる。

 中には100日を超える個体もいる。


 だが、このワイバーンは、既に200日間以上も絶食しているが、ほぼ消耗が無い……間違いなくワイバーンの中でも、上位に位置し、恐らくは変異種であっても太刀打ちできないだろう……



 この日、彼はたまたま気が向いて奈落樹海や、下界まで遠征し、獲物を狩ろうと思っていた。


 彼が過去に気まぐれで遠征に出た時には、餌の中に人間も居た。

 勿論彼らは抵抗したが、ワイバーンにとっては、食事前の運動程度の認識だった。

 そして、そのの襲撃から生き残った少数の人間の情報により、人間達はより魔物に対する恐怖に震えることになる。





 そんな悪夢の権現である彼の索敵範囲に、ゴブリンカズヤの気配が……


(久しぶりの餌!!)


 我慢できるといっても、腹が減ったら喰いたくなる。

 今日もちょっと摘まみに行くかというくらいの軽い気持ちで、遥か彼方に居る獲物たちの元に、ワイバーンは跳んでいく。


 そして……


(な、何だあれは??!!)


 いつもの食事……そんな軽い気持ちで近づいたワイバーンは恐怖した。


 数百に及ぶ岩系魔物と、ゴブリン含む5体の人型の生物が、大音量の奇妙な音と、奇妙な動きをしながら進行している。


 今まで感じたことのない程の恐怖……


(馬鹿なっ?!

 こんな異常な奴らが居るのか?!!)


 ただ一心に……妙な動きをして時々くるっと回り、また妙な動きで後ろ向きに進んでさらにくるっと回る。

 あのような異様な動きで進む生物自体初めてだが、それが皆笑顔で整然と並んで、この魔境を堂々と進む……


(奴らは……悪魔か??!!!)


 そして驚愕する。

 彼らの先頭を進む者……それは矮小な存在であるはずの人間だ……


(あの人間は異常だ……いつの間に人間はあのような不気味な存在に~~~~っ!!?)


 ワイバーンは恐怖する……理解できない存在は、やがて恐怖の種を心に植え付け、時間が経つごとに全身が恐怖で震えるようになる。


 あの訳の分からない集団から一刻も早く離れたいっ。


 今まで受けたことの無かった精神的な大怪我トラウマに抵抗する術を、ワイバーンは持たなかった……


 彼はその場から逃げる。

 一刻も早く、この魔境から……



(もう、人間とは会いたくない……)


 この日、強者の一体が、この大陸から去って行った。



 討伐軍と、魔王の決戦の15日前の事である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る