第17話 巫女舞 (悪魔の踊り)※渉視点

次話は同じく明日の6時に投稿予定


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「渉様、この奥が聖域と呼ばれる地底湖です。

 そして正面に見える建物が聖宝殿せいほうでんと呼ばれる代々の巫女の住居となります。

 今回聖宝殿に立ち入ることの出来るのは渉様のみ……私の案内はここまでです」


 目の前には地下なのになぜか明るい空間があり、海外の観光名所にありそうな神殿のような建物があった。

 というよりもこの湖や、神殿自体が光っている?


 神殿の周りには5人ほどの聖女と思われる女性が居た。

 恐らく巫女の護衛かな?



 さて、突然だがここでもう一度、聖母教会について詳しく説明しておこう。

 キャロルの所属する聖母教会には、いくつかの役職が存在する。

 キャロルもそうだが、まず魔力の高い者達をこのファース大陸中から集め、人類の発展のために身を捧げる者が、まず見習いとして修業に励む。


 その中で、戦闘に向いていないものは、サポートに回される。

 それが教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭という教会の運営を行う者。

 基本的に非戦闘員であり、代わりに各街にある教会で説法をしたり、貧困層に対して炊き出ししたり、簡単なケガや病気の治療を受け持ったりしている。


 その一方、神子みこ、巫女、聖女、聖剣、聖騎士という人類の為にその生涯を奉仕に費やす者達もいる。

 聖騎士は、有事の際には国境を越えて最前線に立ち、魔物という脅威から民を守るために命を懸ける者達だ。

 尚、国同士の争いには基本的には立ち入らない。


 そして、聖騎士の中でもアルテの声を少しでも聴くことの出来る者がさらに上の位に任命される。

 それが聖女や聖剣と呼ばれる者達だ。


 聖女や聖剣の違いは、性別が男か女かというだけだ。

 だからキャロルは聖女と呼ばれている。


 彼らは聖騎士の一部隊を率いる立場にあり、また、例外なく突出した戦力を持つ。

 それはアルテの加護を受けているからだ。


 一般市民の平均戦闘力が1000とすると、一般的な兵士が5000~10000、そして聖騎士が10000~30000で、聖女、聖剣が30000~40000とされている。


 この世界に存在している者達は、アルテの力との親和性がとても高い。

 そのため、アルテの加護を受ければ、その力は飛躍的に上がる。

 しかし、この神話性が高いために、この世界の人類は、加護を受けきることが出来ない。


 何故なら、アルテの力が強大すぎて、人類の体は加護を受け止めることが出来ないからだ。

 もし、受けようとした場合、全身が粉々になるような激痛と衝撃が体を襲い、一瞬で意識を失ってしまうからである。

 

 戦闘力60000を持つキャロルですら0.5秒しか意識が保てなかった……一般的な聖女や聖剣に至っては、0.1~4秒ほどしか耐えられない。


 そして、加護は一生に一度しか受け取ることが出来ないため、後は自己鍛錬で上げるしかない。


 ここまでが聖母教会の実戦部隊だ。

 聖女や聖剣の序列は、各街の教会の大司教はもとより、大聖堂の枢機卿よりも立場が上である。

 因みに聖女のトップに立つキャロルは、有事の際には教皇にすら命令を出すことも出来る。

 実はとても偉い女の子なのだ。


 恐らくその権力は女子力(物理)きょうふによるものだと推察しているが……





 そして、神子みこ、巫女については、更に別格とされている様だ。

 彼らは1世代につき一人か二人しか存在しない。


 今現在は神託の巫女アルトリアしかいないようだ。

 戦闘力自体は持たないが、神の依り代となり、人類に神の声を伝えることの出来る稀有な存在だ。


 だが、やはり神の力を降ろすことは負担になるのか、平均的な寿命は短い傾向にあり、また、この聖域から出ることもほとんどない。


 時代によっては神子みこと巫女のどちらも存在しないときもあるようだ。

 そのときは便宜上、教皇が聖母教会の最高権力者となり、教会に属する者を率いることになる。

 

神子みこ、巫女の違いも性別によるものだが、ほとんどの場合は巫女だけであり、神子が現れるのは数百年に1度というくらい、稀な存在だ。


 仮に神子が存在する時は、序列1位は神子、2位が巫女となる。

 そして、それと同時に神子と巫女の婚姻が自動的に結ばれる様だ。


 恐らくこれは人類側の都合だろうな……尊い人ととうとうい人の子供はやっぱり尊いだろうという思惑が透けて見えるな!


 どうもこの時に出来た子供(御子みこ)の能力はすごく高くなるようで、聖女や聖剣が束になっても足元にも及ばないと言われている様だ。


 因みに世界テノン情報だと、数代前の一番力を持った御子が、地中深くに埋まっていた邪神の肉片カケラに触れてしまい憤怒の魔王となってしまったらしい。

 もう数千年前の事の様だ……


 なんか”みこみこ”言いすぎて、頭の中に巫女巫女○○医療関係者のあの歌が……

 

 生麦生米っ!


 っと……これ以上は危険だな……



 とにかくそんな奉仕の心溢れる少女がこの先に居るらしい。


「ところで会ってどんな話をするんだろう?

 キャロルはなんか聞いてる?」


「いいえ……ただ渉様と会いたいとだけ……」


 とりあえずお邪魔してみるか。







 ドアの所に行くと、神社によくある太い綱の上に鈴が連なっている奴があった。

 これがチャイム替わりなのか?


カランカラン


 鈴を鳴らしてしばらく待つと……


「ようこそお越しくださいました。

 どうぞお入りください」


 その声と共に、扉がひとりでに開いた。


「お邪魔します……」


 ……中はまんま和風だった……

 玄関には小さな草履が一つ置いてあり、これが恐らくアルトリアさんの履物なんだろう。

 俺は靴を脱ぎ、用意されているスリッパに履き替えて、板敷きの廊下を歩く。

 するとあと数歩という距離で、廊下の先の障子扉が勝手に開いた。


 その部屋の中央には、マットの上に正座している女性が居た。


 そこは座布団じゃないんだね……


 女性の背後には、お祓いしてもらうために神社に行った時に通された祭壇みたいなものがある。


 次にアルトリアさんだと思われる女性を見てみる。

 藍色の艶のある髪を垂髪すいはつにしており、キャロルよりも可愛い寄りの美少女だ。

 普通と違うのはその服装で、巫女服とステージ衣装を足したような……なんかヒラヒラしつつも厳かな衣装を着ており、そして何より初めて生で実物を見た……


 ニーソ足袋……だと……


 あのコスプレでしかありえないファンタジー衣装を普通に履いている?


 とはいえ、決してコスプレのような不自然な感じではなく、彼女の可愛らしさと神聖な雰囲気に見事にマッチしている。


 そして、腕には少し太い腕輪みたいなのがあり、穴が空いている?

 

 んん~……人も建物も、和洋折衷と言った感じだね。


「お初にお目にかかります。

 今代の巫女、アルトリアで御座います」


 そう言って正座の状態からお辞儀をする。


 やだっ、なんて奇麗なお辞儀……俺がやるとなぜか土下座に見えるから質が悪いぜ……

 とバカなことを考えていたが、続いて謝罪される。


「渉様に対してこのような無礼を働き申し訳ありません。

 本来ならば私がお出迎えせねばならなりませんのに、案内もつけずにお越しいただくことになってしまいました……

 何とお詫びしてよいやら……」


「い、いいえ。

 気にしてはいないのでどうか頭をお上げください!」


 前々気にしていないことに対し、ここまで心のこもったガチの謝罪はやられる方もきつい。

 そこで何度か、いえいえやはり……いえいえお気になさらず……と言ったやり取りが繰り返される。


 彼女が出迎えられなかったのは、おおよそ午後1時から4時までの間は、祈祷やら何やらを一人でこなさなければならないらしく、万が一にも外に居る護衛やキャロルなどに顔を見せるのはNGだったからのようだ。


 別に気にしなくてもいいんじゃないと思ったが、それが決まりなら仕方ない。

 こういうのは理屈じゃないんだよな……それはともかく。



「あの……もう少し砕けた言い方をしていただけると助かるのですが……」


「そんな……聖母神様の使徒であらせられる渉様にそのようなことは……」


 どうやら少しお堅いようだ。

 仕方ない……


「ならほんの少し待っていてもらっていいですか?」


「? はい、承知いたしました」










「はい! はい! かしこまりましたっ」


 ふぅ~何とか穏便に事を運べたな……なんてことはない。

 拠点魔法で部屋に帰って、部屋に置いてあったラノベを呼んでいたアルテにお願いして、アルトリアさんにちゃちゃっと神託と言った感じで”もう少し砕けた言い方で”と頼んでもらっただけだ。


 この間のように、1000体にも上る精霊契約を結ぶのではなく、一言二言だけでは彼女の体に負担をかけることはないようだ。


 俺は一仕事終えたような清々すがすがしい気分だったが、アルトリアさんが頬を膨らませてこちらを睨んでいる。

 うん、そっちの方が断然いいね。


 近寄りがたい神聖な少女よりも、そういう普通の反応をしてくれた方が、小市民には嬉しい。


「聖母神様にご協力いただくなど、酷いではありませんか」


 む~、っと唸っている。

 これこれ!

 こういう反応を待っていたんだよ!!


 どこその暴力聖女キャロルとか、面倒なボッチ系惑星テノンとか、暴走気味な聖母神おかんのアルテとかじゃない、ブサメンの俺が一生お目にかかることのないであろう、女の子らしい可愛い仕草……


 奇麗な女性医師に触診されている時の様な癒しの時間……

 ここは痛くないですか~?

 とか言って触ってくれるんだぜ?


 保険が利くから、夜のお店よりも経済的さ……代わりに痛いとか苦しい思いして、運が良くなければダメだけどな……ほとんど年配の男性医師……




 アホなこと考えてぼーっとしていると、だんだんとアルトリアさんの目が据わってきた……あ、これはアカン奴だ。


「すみません。

 使えるモノは使う質なので……」


 そうじゃなきゃ営業などというブラックな職を続けていけないのです。

 頭を掻きながら愛想笑いでごまかす。



「……ところで渉様、私などに敬語を使っていただく必要はございません。

 もっと砕けた言い方をしていただけると助かります」


 あれ?

 これって……


 してやったり見たいなドヤ顔を浮かべるアルトリアさん。

 当初の近寄りがたい神聖な雰囲気がいつの間にか無くなったお茶目なアルトリアさん。 

 それを見て互いに笑った。


 お茶を出してくれるということで、客間に案内される。

 畳っぽい床にマットレスとちゃぶ台、取っ手の無い湯飲みには紅茶っぽいお茶……和洋折衷だね本当に。


「ああ、分かったよ。

 改めまして、半藤渉です。

 よろしく」


「アルトリアです。

 よろしくお願いいたします」


 お互いにある程度リラックスできたかな?

 とりあえず何で呼び出したのかを軽く聞いてみるか……


「アルトリアさん、俺と会って何か伝えたいことがあったのかな?」


 花の様な香りの紅茶っぽいものを飲むと、程よい渋みと甘味が口の中に広がる。

 美味い……


「……」


 モジモジして口を開いたり閉じたりしているので、とりあえず話してくれるまでゆっくりとお茶を楽しむ。


「……私には縁のないことだと諦めていた、未来の旦那様に一目会いたくて……」


「ごふっ?!」


「渉様?!

 大丈夫ですか?」


「いやっ、げほっごほっ、変なとこに……入って……」


 この娘はいったい何を言っているのでしょう?





「どういうことかな?」


 落ち着いてから詳しく聞いた。


「アルテ様から数か月前に、渉様が勇者様であると神託を受けました。

 そして渉様と共にグラトルを倒し、いくつかの試練を乗り越え、人類を救った暁には巫女の任を解かれ、渉様と共にこれからの人生を歩んでほしいと……勿論人類の為にこの身を捧げることには躊躇は有りません。

 そのために私自身、生涯独身を貫く覚悟をしておりました。

 しかしここにきて、女としての幸せを手に入れてもいいと言われて……」


 えへへっ、と恥ずかしそうにはにかんでいる……が、人生の先輩として、前途ある若者の未来に影を落とすことは出来ない。


「アルトリアさん、落ち着いてほしい。

 俺と一緒になる?

 人生捨てる気か?!」


 ぐふっ……自分で言ってて辛くなるが、俺みたいな奴と一緒になって幸せにはならんだろう……美女と野獣どころか、美女と悪霊レベルだぞ!!


「君みたいな若い子には、俺みたいなブサメンじゃなく、もっと格好良いイケメンと一緒になった方が幸せになれるぞ!!」


 俺は必死にアルトリアの間違いを伝える。


「そ、そんなことはありません!

 確かにアルテ様は、渉様の容姿をゴブリンとオークとレッドキャップを足して2/5にしたくらいの容姿で中肉中背の男の人だと仰っていましたし、私もそう思いました。

 でも、こうやって私の事を考えて親身になっていろいろ教えてくださいます。

 そんな方が私を不幸にしてしまうなどとはとても思えません!」




 ふえぇぇ……アルテ……俺の事をそうやって思ってたんだね……自分の容姿をそうやって具体的に、しかも魔物に例えられるととっても心が痛いよ……


 ほら、”キモッ”って言われるより”気持ち悪い……”って言われる方が傷つくだろう?

 自分ではブサメンって一言で言ってるけど、世間一般の醜い魔物の有名どころをMIXしたような面だって面と向かって言われるとね?


 っていうか2/5って何だよ!!

 40%に希釈して、少しマイルドにしましたってか?

 やかましいわ!!


 暑くもないのに目から汗が溢れてきそうになるぜ……


『俗にいうキモ可愛いってことですね!』


 はいテノンそこ

 久しぶりに出てきてそんな言葉をテンション高く言うものじゃありません!


『褒めてますよ?

 可愛いって言ってるじゃないですか?』


 それは誉め言葉じゃねぇからな!!


『後ゴブリンとオークって性欲旺盛なイメージがありますよね?

 きっとエロ本やエロゲーがいっぱいあって、勇者になりたいってイメージがあったから、母がそう伝えたんじゃないですか?』


 ん?

 勇者……?

 あれかっ?!(※ 9話参照)


 またあの聖母神アルテおかんは要らんことを……しかしマズイ……仮にも信託で伝えられたことを素直に実行しようとしている分、説得に多大な労力を使うことになるだろう……どうすべきか……


「あっ、申し訳ありません……私みたいな小娘では、渉様には釣り合いませんよね……」


 アルトリアがシュンとしている。



▽▽▽



「い、いや……そういうことじゃないんだ……君とは一回り程離れているし、それに知らない相手と結婚なんて嫌だろう?」


「??? そうなのですか?

 キャロルなど貴族出身の女性に聞いたら、普通にあるみたいですよ?」


「あ、そうなんだ……でもやはり俺みたいな男が、君みたいな美少女と一緒になるのはいろいろとマズイだろう?」


「何がマズイのでしょうか?

 私は余程不潔な方や目に余る方ならともかく、渉様でしたら嬉しく思うのですが……」


「そ、そうかな?」


「はい、私では……ダメですか?」


「……別に……ダメじゃないです……」


「ではこれからよろしくお願いしますね」


「ま、まずは友達から……」


「ふふっ……はい、お願いします」




△△△





 というのが娯楽作品で言う一般的な流れだろう。

 主人公の年齢は10代20代が多いが、驚くことに30代40代もあり、中には50代以上という作品もある。

 そして、えてしてヒロインとなる美少女に対して、しどろもどろになり、赤面してキャッキャうふふとなっていく……


 いやいやいや、ちょっと待てよ!


 10代ならともかく、社会に出ている大人が、若い子相手にキョドるって本当に社会人かよ?!

 って俺は何度も突っ込んだね。

 きっと奴らは妄想で働いていると思い込んでいるヒキニートなんじゃないかってくらいさ……


 市民権持ちフツメン以上、ブサメン関係なく、社会に出たら否が応でも異性との会話をせざるおえないし、風俗なんてものがあるんだから、30代以上で童貞とかいう男なんて本当にいるのか?

 とか思ってしまう。


 会社では真面目でも、女の子のいる飲み屋さんとかが好きな人とかごまんといるぜ?




 だからこういう時、俺はこう思ってしまうんだよ……


 え?

 こんな可愛い子が俺に?

 美人局つつもたせ


 他にも……


 え?

 結婚とかしたら一緒に住むの?

 エロ本読むとかエロゲーするとか気軽に出来ないじゃん……


 って考えてしまう。


 これが本当に異性に関して諦めている男の思考さ!




「あ、ごめん。

 俺結婚とかそういうのは全く考えていないから他をあたって?

 それにいろいろと片が付いたら、日本に戻るし、その国もこことは別の世界だから」


 それに報酬の5億とか、禿げない頭皮とか、禿げない頭皮とか!!

 ブサメンにとっては、髪の毛は最後の砦……これが無ければ俺は何かが壊れてしまう……


(※ ここまで全て渉の個人的な見解です)


 



「あ、はい……」


 余計にシュンとなってしまったが、この子の人生を背負えるような男じゃないことは確かだしね。


「では、貴方様を夢中にさせる女になればよろしいのですね?」


 Why?


「え? え?」


「では早速、こちらにどうぞ!」


 そう言ってアルトリアは俺の手を取って、部屋を出て、神殿の奥に連れていく。


「え? ちょ?

 俺断ったよね?!」


「はい、完膚なきまでに断られましたね」


 アルトリアさんがこちらをニコリと微笑んで……ねぇ?!

 これあれだ!

 目が笑ってない奴だ!!?


「渉様のご意思は承りました。

 しかし、私は聖母神様より神託を授かり、渉様と共にこの先を生きていく覚悟が出来ております。

 ならば、私の、その……魅力で振り向かせてみせます!!」


 え、やだ、何この娘意外と肉食系?!


「それに私は自分の身だしなみに気を使ってきました。

 そして自他ともに平均以上の容姿をしていると自負しております」


 あ、これプライド傷つけちゃったパターンだ……

 

”なにこのブサメン。

 私が結婚してあげるって言ってるのに何断ってんの?”


 とかいうパターンだ?!



 ……いや、違う……さっき神託を授かったって言ってたな……

 え?

 もしかしてこの娘、神様に言われたから俺と結婚するんだって意固地になっているの?


 障害があった方が燃えるぜ……とか?


 どうなってるの?!

(※ 渉は錯乱しています)





 






 俺は混乱している間に、神殿から連れ出され、湖の前に来ていた。


「渉様、私は今まで、世間一般の女性がするようなことはほとんど身に着けては参りませんでした」


「だろうね」


 だってあんだけ護衛とかが居るし、当然身の回りの世話をする人とかもいるだろう。


「ですのでお茶くらいしか入れられず、渉様の胃袋を掴むことも出来ないでしょう」


 ここだっ!

 行くならここしかない!!


「あ、そうなんだ。

 でも俺料理出来ない女性はちょっと無理かな?」


「なので、ひたすら磨いてきた舞を披露させていただき、私の方に振り向かせてみせます!」


 やだこの娘、俺の言葉をガン無視してくる?!

 やっぱこの世界の女性はこんなんなのか?!!




 そして、アルトリアは湖に入っていく。

 湖とはいえ、奥は分からないが、目の前の水深は数cmほどしかない。

 そして玄関に会ったような草履ではなく、女性ものの黒い下駄をはいる。


 でも、いくら数cmとはいえ、どう考えてもそのままでは足袋が濡れない?

 と思った。


「んん??」


 しかし、目の錯覚か……?

 アルトリアは湖の上に立っており、歩いた後の水面には、まったく波がたっていないのだ……


「どうなっているんだ?」


ひゅぉ~


 どこからか空気が流れてきていて、岩壁の形故か甲高くも優しい音が鳴り響いている。


ぴちゃ……


 アルトリアが足首までまっすぐ伸ばし、左足を軸にして、右足を上げた。


『アルトリアは今から感奉かんほうの舞を踊るみたいですね?』


感奉かんほうの舞?」


聖母神ははによってアルテノンわたしが作られた物語をなぞり、そして今の自分たちがあるということに感謝を示し、市民の安全を祈願する舞です。

 彼女たち巫女は、神託を受ければ少しずつ消耗し、結果、市民の平均寿命よりも10年ほど若い時に無くなってしまいます。

 

 それを防ぐために、この空間に漂う良質な魔力を取り入れて、体を癒す必要があります』


 それが巫女がこの聖域に居る理由か。


『舞には何種類かありますが、その一つのこの感奉かんほうの舞を踊ることにより、トランス状態となり、魔力の九州効率が良くなるという仕組みです』


 つまり、自分も癒せて民の安寧を祈りつつもアルテに感謝できる一石三鳥の舞だということか。


 アルトリアは、指先を奇麗に揃えて両手を広げる。

 その姿は”オ”といった姿勢だ。


 そして、一呼吸置いた後、舞が始まった。




 皆さんはアイリッシュダンスというのを見たことがあるだろうか?

 素人目にはタップダンスとあまり違いは分からないが、上手い女性が踊ると、本当にきれいなダンスだ。

 あれに似ている?

 

 アルトリアがステップを踏むたびに、波紋が幾重にも湖に広がる。


 そして上半身にも動きが出てきた。

 腕を振るたびに、腕輪から音が出てきている。


 ボノレ〇フ?!


 どうやらあの腕輪は楽器の役目もあるらしい。

 それに、あれだけステップを踏んでも、体どころか脚すらも水に濡れている様子はない。


 本当にどうやってんだ?

 奏でた音を乾燥力に変えているのか?


 と、そんな馬鹿な事を考えながら見る。

 


 何故なら、彼女はその女体をいかんなく使って、俺でも本当に美しいと見惚れる舞を踊っているのだ。

 そんな馬鹿な事を考えながら出ないと、本当に美しく荘厳で、神聖さすら感じるアルトリアを真正面から見れない……このまま見続けたら、恐らく俺は浄化されてしまうのではないかと思うほど、彼女に魅せられている。









 そして舞が終わり、こちらに歩いてくる。


「いかがでしたか?」


「ああ、正直言って、あそこまで見惚れるとは夢にも思わなかったよ……」


 俺は余韻に浸ってぽけーっとしながら、思ったことを正直に言ってしまった。


「そ、そうですか……人前で舞うことは会っても、皆さん何も言わずに行ってしまわれるので、何か新鮮ですね」


 多分それは俺と同じで声も出なかっただけだと思う。


「渉様もどうですか?」


「え? 俺?」


「はい、渉様も帰還の道中、討伐軍や魔物達と一緒に踊りながらここまで来たと耳にしました」


 はいあの道中半分以上を孤独感で満たされたあの地獄のような時間ですね?


「……俺は君みたいに踊れないよ」


「最初は誰でもそうです。

 どうかあなた様の最初の一歩を、私も共に歩ませていただけませんか?」


 そう言って手を出してきた。

 微妙に震えているな……不安な気持ちが見え隠れしている。


 さすがにこれまで断って女の子を悲しませるのはちょっと……ね?

 お金が絡むわけじゃないし……


「ああ、分かった。

 よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 まぁ、この笑顔だけで十分おつりが来るかな?






 そして、アルトリアに手を引かれて湖の上に立つ。


「そうです。

 足裏に魔力を集めるようにイメージしてください。

 そうすれば、この湖に私達は沈むことはありません」


 どうやら不思議パワーで水しぶきが飛ぶことが無くなったり、水上を歩けるようになるようだ。


「そうです。

 そのとき右足はこう……左足も……ある程度できたら次は腕も……」


 どうやらアルトリアは誰かと踊るということもなかったようだ。


 巫女になった時、色々と道具を受け継ぐが、その中の一つに巫女としての作法等の知識を与えられるものがあるようだ。


 その知識をもとに、いつも一人で練習していたようで……


「誰かと一緒に踊るのって、楽しいですね……」


 どうやら彼女もボッチ歴が長いみたいだ。




「ふふっ、お上手ですよ。

 それでは、一緒に踊ってみましょうか?」


「出来るかな?」


「失敗しても笑う者などいませんよ?

 それに私も何度も水浸しになりました」


 本当に嬉しそうに笑う娘だな。


「分かった。

 やってみよう」


「ええ、では3数えたら……いち……」


 帰還の道中では誰とも手を繋げずに俺でも寂しい思いをしたが、まさかその俺がこんな可愛い子と手を繋いで踊りを教えてもらうとはな……


「……に……さん!」


 そして俺達は踊り出し……


ごきっ


「にゃああああああああああっ??!!」


「わ、渉様?!」


「アルトリア!!」


「巫女様?! 

 如何なされました?!!」


 俺は足を思いっきりくじき、激痛に悲鳴を上げ、アルトリアは真っ青になり、キャロルや護衛の聖女たちが集まってきた。


「あ、悪魔じゃ!!

 悪魔の踊りじゃ!!」


「違います!

 渉様落ち着いてください!!

 傷は浅いです!!」


 パニックになる俺とアルトリアを呆然と見つめる聖女たち……

 やはり、俺はこういう時にビシッと決められないようだ。

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