第23話 来ちゃった♡END
「ここはどのあたりかしら?」
ラストラはスキルを発動させる。
彼女は植物の女王……周りに植物がある限り、その植物が得た情報を入手することが出来る。
海の上では使えなかったが、ファース大陸に降り立つことによって、スキルが使えるようになった。
「そう、アトランディカという国ね……それとヴィスは……ダメね。
あの子隠れてるわね……」
インヴィスは蟲の女王でもあり、様々な蟲の特性を持っている。
蟲の中には驚異の擬態能力を持つものもいる。
「多分大陸に降りる前……空中で
お姉ちゃんから隠れるなんてヒドイ妹ね……」
恐ろしい笑みを浮かべながら、優雅に微笑むラストラ……その頃インヴィスは……
「ひゃんっ?!」
と、何故か青ざめていたようだ。
「とりあえず無事に街に入れたわね」
彼女はまず先に、近くの街に入った。
しかし、10人いれば10人、男女問わず人目を引く容姿の彼女に、何故か誰も見向きもしなかった。
彼女は幻覚作用のある香りを纏って街中を歩く。
「きゃああああああっ……」
「……悲鳴かしら?」
魔王である彼女は、当然ながら常人とは比べ物にならないほど五感が鋭い。
彼女の耳には、路地裏の奥から聞こえる少女の悲鳴をとらえた。
「行ってみようかしら?」
「ひっ……~~っ?!」
「こんなものね」
目の前の惨状に、捕らえられていた女の子が怯えている。
私が声のしたところに辿り着いた時、ガラの悪そうな人間の男たちが女の子を拘束していた。
恐らくこれから生殖行為でもするのかしら?
繁栄を司っていた聖霊として、そういうのは推奨しているけれども、この男たちは不潔すぎるわね……そんなことをすれば女の子が感染症にかかって、子を産むときに様々な支障が出るかもしれない。
それに、ずっと海の上だったから、連れて来た
男たちが女の子を抱えて何処かに向かっていた。
どうやらこの先に、人間達が十数人いるところに連れて行くつもりみたい。
養分が多いことは好都合ね。
私は彼らの後を追っていった。
そして、女の子に手を出そうとしていた時に、そこに割って入る。
「坊やたちダメよ?
女の子とするときはもっと優しくしなきゃね?」
いきなり入ってきた私に、男たちは最初動揺したけれど、私を見てイヤらしい顔をした。
「おいおい、こんないい女がわざわざ来てくれたのか?」
「姉さんも混ざるかい?」
「まあ、いやだと言っても混ぜるけどな!!」
耳障りな笑い声をあげている男たちに、
「ええ、そこまで言うなら楽しませてね?」
私は、人類を興奮させるフェロモンを発した。
ゴクッ
すぐさま男たちは発情し、女の子を放ってこちらに歩いてきた。
まるで熱病に浮かされたように、ボーっとしている。
「おいで、坊やたち……」
私は手を広げて男たちを迎え入れるように待つ。
男たちはもはや理性というモノはなく、本能で
「あ”あああぁぁ……」
「よく来たわね。
いっぱい楽しんでいってね?」
そして、私の可愛い
「いや……許して……」
「そんなに怯えなくても大丈夫よ。
それより少し聞きたいことがあるの……」
こうやって何人もの人間から情報を得ながら、私は大陸の南側に移動していった。
その間、何人もの盗賊と呼ばれる輩が
「グラトル……必ず敵は取ってあげる……」
ヴィスの手前、姉の私が泣くことが出来なかったけど、本当は可愛い弟を殺されて発狂しそうだった……この耐えがたい苦しさに抗わず、泣き喚きたかった……
私はなんて無力なの……数千年もの間、ただただ指をくわえて待っているだけで、弟を助けることが出来なかった……挙句に大切な
「何としてもヴィスよりも先に見つけなければ……」
植物を操れる私は、直接的な戦闘は得意ではないわ。
基本的に迎撃が中心のスキルなの。
対して蟲を操るヴィスは、攻守ともに優れた戦闘スタイルを持つ……だから、倒した相手をすぐに殺しちゃうの……あの子は私と違って
「だから絶対私が先に見つけて、あの男を……ふふふ……」
私の中で大きくなる憎悪が、色欲の魔王としての力をより強大にする。
ほら、今日も愚かな
そして、とうとうある町で男の足取りを掴んだ。
私ははやる気持ちを抑え、あの男を誘惑して邪魔の入らないところにおびき寄せるため、気合を入れてより魅力的に見えるようにおめかしした……
「夜の酒場……いいわね……」
人類の男女がよく番になるシチュエーションね……
私は男を吸い寄せる一番強力なフェロモンを出しながら、その酒場に入っていった。
「ふふっ……」
酒場に居た男たちが、私に欲情している……でもダメ、今夜は邪魔をさせない……
ターゲット以外に、フェロモンがあまり行かないように操作し、男の横に座る。
「あら?
もしかして私の前に注文してらっしゃった?」
「いいえ、お気になさらないでください」
そっけない態度をとっているけれど、明らかに私に欲情しているわね……後は人気のないところまで連れて行って……
日頃から人類の営みも、植物経由で情報を得ている。
よく男を誘惑する女が、こういった雰囲気で会話をして、男に気がある様に見せて寝屋に誘うらしいわ……お酒を飲むのも効果的みたい。
「大したものじゃないさ……それにほとんどとんでいるしな?」
?!
どうやら男の飲むお酒は飛ぶらしい……変わったお酒もあるものね……
そして、店主が男の前に器を持ってきた。
「へいお待ち!」
……お酒じゃないわね……どう見ても夕食……どうしましょう?
このパターンは初めてね……
「……ハァ……美味しい……」
とりあえず、モテる女の仕草をしながら、男を観察する。
「モグモグッ……はむっ!
んぐんぐっ……あぁ!
うめぇな!!」
おかしい……事前に得た情報では、この時点で男が女を見つめていい雰囲気になるはずなのに、この男は普通に食事を摂っているわ……周りの客の様子を見てみても皆私に釘付けなのに……この男、明らかに異質ね……
店主も同じように思ったのか、男に帰れと言うが、男は嫌だと駄々をこねている……
そして、幾らか問答をした後に、男が会計を済ませた。
私もカウンターにお金を置いて、男に話しかける。
「ねぇ?
私、貴方に興味があるわ。
この後ご一緒しない?」
常人ならば、理性が二度と戻らないほどのフェロモンを男にかける。
するとほら……明らかに様子が変わったわ……
「もしよろしければ、私のとっている宿に来ない?」
「……」
これで、誰の目も届かないところでこの男を……
「
すると男は上着を脱ごうと、ボタンをはずす。
あらあら……仕方ないわね……うまく誘導して、
もうすぐ復讐を行える……自然と笑みが浮かんでくるわね。
でも、ここで男は予想外の事をした。
「悪いな、俺には心に決めた二次嫁たちが待っているんだ!!」
男が上着の前をはだけると、中から柄付きの服が出てきた……フリフリな衣装を着た女の子の絵が描いていた……確か魔女っ娘と言われるものよね……絵本にもなっているみたいだし、イラベルも持っていたわ……え?
嫁って、奥さんってことよね?
え……絵……?
私は訳が分からなくなったわ……一瞬、復讐の事も頭から抜けるほどの衝撃……男は私を放ってそのまま帰っていった……
『………………』
私を含めて、酒場に居た者達は全員呆気にとられ、そして私を気の毒そうな目で見てきた……
「……~~~っ???!」
これでも私は、自分の魅力というモノに、絶対の自信を持っていた……
私がその気になれば、種族問わず私に魅了された……
そんな私が、たかが絵に負けた?
え?
そもそも勝負が成立するの?
これほど混乱したのは、生涯に数回しかないわ……でも、どうやらあの男は私に魅了されてはいなかった?
そして周りにいる者達の私を憐れむようなあの目……
……男を虜にする色欲の魔王としてっ、これほどの屈辱はないわ!!
「許さない……っ」
弟を手にかけ、あまつさえ私のプライドをズタズタにした……私は男を追った。
「絶対に生きていることを後悔させてあげるっ」
―――――――――――――――――――――――――――――――
「本当に今のお姉ちゃんはヤバいのよ!!」
インヴィスが割とマジ切れしてる……俺は今、彼女の呼び出した蜘蛛型魔物の糸で、正座のままぐるぐる巻きにされている。
あ、脚が痺れて……
「今のお姉ちゃんは本当にマズイの!!
私も最初は渉ちゃんに報復しようとしたけど、お姉ちゃんは”拷問して生まれてきたことを後悔させる!”
って呟いてたのよ!!
私、思わず震えるぐらい怖かったのよ!!」
どうやら、俺がグラトル(魔王Ver)を倒したせいで、インヴィスのお姉さんが闇に飲まれたらしい……そんで、俺を見つけ次第拷問って……病みすぎだろう!!
「渉ちゃん聞いてるのっ?!」
「ハイ聞いています。
ごめんなさい」
因みにビスチェは、俺の服を掴んで首をガックンガックンした後、インヴィスの蜘蛛を見た途端、可愛らしい悲鳴を上げて倒れ、部屋のベッドでダウンしている。
「それに私にバレないようにこの子を外していたでしょ?!!」
今言ったこの子というのは、イナイナバッタという小さな蟲で、半端ない擬態能力を持っており、とりついた生物ですら周りから認識されないように出来るというとんでもない蟲だ。
余談だが、野生種は獲物の群れから1匹に取り付き、周りに認識されないようにしてから、ゴリオックという戦闘専門の蟲と共に誰にも気づかれない獲物を捕食するらしい。
これを付けていれば、姉であるラストラの探査能力を出し抜けるらしく、いつも衣服にくっつけていろと言われていた。
でも、この蟲をくっつけていたら、インヴィスに俺の居場所がバレるし……
「だからいつもいつも、この子を付けてって言ってたのに!!
渉ちゃんが見つかったら私も見つかるかもしれないのよ!!」
俺と会う前にインヴィスはやらかして、ラストラを吹き飛ばしてしまったようだ。
どういう状況かは分からないが、その所為でラストラのお仕置きを恐れたインヴィスは、ずっとイナイナバッタの能力を使ってラストラから逃げ続けているらしい。
つまり俺もインヴィスも、ラストラに会ってしまったらヤバいということだ!!
「で、でもたった数時間で見つかるものなのか?」
「甘い!
プリンの数百倍は甘いよ渉ちゃん!!
前もお姉ちゃんから30年くらい逃げてたけど、ついつい魔が差して”寂しいよ……お姉ちゃん”ってうっかり呟いたせいで、全力で隠れていたにもかかわらず、海を挟んだ大陸の向こうからすぐに私を見つけたんだから……
私よりも家族愛が強すぎて強すぎて……とってもお姉ちゃんは面倒で重いの!!」
あ、あの時のお仕置きは……と、ブルブル震えながら怯えているインヴィス。
「だったら、早めに謝った方がよかったんじゃない?」
「イヤよ!
怖いもん!」
お仕置きが怖くて逃げ続けたのに、時間が経つほどお仕置きのグレードがアップするために、余計に逃げ続けなくてはならなくなる。
そんなジレンマに苛まれて、過去に幾度もヴィスは怖い目に会ったらしい。
「いいね渉ちゃん!!
今後はあなたの行動は私が管理します!!
万が一
ただでさえお仕置きが陰湿なのに、溜まりに溜まった分、何をされるk」
「こんな所に居たのねヴィス?」
「お姉ちゃんだ~い好き♡♡♡」
インヴィスがトラウマで錯乱しているときに、急に部屋の扉が開いて、酒場に居た美人なお姉さんが入ってきた。
そして先ほどまでの鬼気迫る表情が、一転して輝かんばかりの笑顔で、姉へ愛を伝える妹……
「ふふふっ……探していた二人がこんな所に……それになんでヴィスがこの男と仲良くしているのかしら?」
「知らない!?
仲良くないもん!!
だって私この人に攫われたんだからね、ほらっ!!
怖かったよお姉ちゃんっ!!!」
「ちょっ、おまっ?!」
インヴィスが懐から取り出したのは、まさかの俺の手配書?!
そして、それを見せつつウソ泣きしながら姉に抱き着く……
ラストラは優しくインヴィスの頭を撫でながら、その手配書を見る。
「そう、あの男が……」
ヤバい……すごく怖いです……
「うん、そう、あのロリコンが!」
このくそアマ~っ??!
「もう大丈夫よヴィス……
「ひゃあ~?!」
ぎゅっと力を込めて抱きしめられる。
俗にいうベアハッグで、あれでは容易に逃げられないだろう……
ぷぷぷっ……ボロクソ言ったの聞かれてやんの!?
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