第19話.キスの感じ

「え、えーっと・・・・」


言葉を失った僕を尻目に香山先生は続けた。


「今まで、黙っていてごめんなさい。怒ってる?」


黙っていたので怒ったと勘違いされたのか、心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「い、いや、怒ってないです。ちょっと、ビックリしただけなので・・・・」


ちょっとどころじゃない。


あの子が僕を高校生と知っていた理由。


何年生かよりも先に担任を聞いてきた理由。


答えた後の妙な雰囲気。


今なら全部が納得できる。


そうか、あの子が僕の隣の席で高校生活を送るはずだった佐藤さん。もとい、佐和田さん。


「そういうことだったんですね」


二重の意味で「そういうこと」 だ。今、僕の心臓は人生で1番速く脈打ってる。


「そう、だから同じ市営住宅の井上くんが佐和田さんと友達になってくれたら、きっと彼女も学校に来やすくなると思ったの。だから、井上くんなのよ」


きちんと質問には答えてくれたが、そんなことがどうでもよくなるくらいの衝撃を受けた。


「他になにか聞きたいことはない?」


ちょっと黙ってくれ。今それどころじゃないんだ。


・・・・まさかそんなことが言えるはずもなく、平静を装って次の質問を考えた。


「それじゃあ、先生キスしたことありますか?」

「きゅ、急に話が飛んだね」

「キスってどういう感じなんです?」

「もうしたことは確定なのね」

「その年齢でないことはないでしょう」


正直言うとものすごく興味がないが、とりあえず場をつなぐために適当な質問を重ねた。


「時と場合によるわよ」 流石の香山先生も言葉を濁した。


「じゃあそのパターンを全部教えてください」

「ええ?ちょ、ちょっと待ってね」


とりあえずこれで、佐和田さんの家に着くまでに新しい衝撃を受けることはないだろう。


それに、僕が選ばれた理由はなんとなく分かったが、もし他の誰かが立候補していたらどうするつもりだったのだろうか。もしかしたら、最初から誰も立候補しないことが分かっていてあんな話をしたのだろうか。


どうしよう、あまり乗り気でなかったのに行きたくない気持ちが加速してきた。

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