第17話.プリント
待ちに待った終業式。校長先生の長い話も終わり、後は香山先生のホームルームさえ終わればこの面倒な学校生活からも一時的に解放される。
「なので、火遊びをするなとは言いませんが、あくまでも高校生の範囲で」
校長先生の話を繰り返すばっかりで右から左に聞き流していた。今日帰ったらとりあえず寝よう。寝て起きて、また寝よう。
「・・・・くん!井上くん!聞いてますか?」
「え?あ、はい」
いつの間にか香山先生が僕のことを呼んでいたようだ。いったい、いつから、だろう。
「井上くんは後で職員室まで来てください」
少し呆れ気味な香山先生の声と同時にホームルームが終わった。
やってしまった・・・・。
きっと、怒られるに違いない。せっかく解放されると思ったのに面倒ごとが一つ増えた。
「おい幸一、やっちまったな」
裕介がニヤニヤしながら茶化してくる。僕はそれに何も答えず、代わりにカバンを少し乱暴に机に置いた。
「おい怒んなって」
「怒ってない、裕介先帰っててくれよ」
「なんで?そこら辺で時間つぶしながら待ってるよ」
「いや、なんとなく長くなる気がする」
そう、なんとなく。そんな曖昧な根拠だが、長くなる予感が確かに僕の中にあった。
「そうか?どうせ怒られるだけだろ」
「それだけならいいけど」
香山先生が呼び出してまで生徒を怒ったところを見たことがない。そりゃ、小言くらい言われるかもしれないが。
その後もいくつか問答を続けて裕介はやっと帰路についた。クラスのみんなは夏休みが始まるということもあり、もう既に大半が帰宅していて教室には僕とあと数人しか残っていない。
「失礼します」
職員室に入るとジャージやTシャツのラフな格好の先生たちが談笑していた。普段からジャージの香山先生はいつも通り、なんだろうか。なんだか真剣な顔でプリントをまとめているように見えた。
「香山先生」
「あ、井上くん」
僕が声をかけるまで香山先生は顔を上げず、ずっとなにか作業をしていた。そのためか、少し驚いたようで、声のトーンが高く聞こえた。
「ごめんね井上くん、早く帰りたかったでしょうに」
「いえ、別にこれといって用事もないので大丈夫です」
淡々と事実を述べ、呼び出された理由を探る。それは香山先生の机に視線を落とした時にすぐに分かった。
「井上くん、今から佐藤さんの家に行かない?」
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