第16話.噂
教室に戻りパンを一口頬張る。結局、焼きそばパンは売り切れていたのでたまごロールとかいう中途半端に冷めた大して美味しくないパンを買った。まあ喉を通ってしまえばなにを食べようと一緒だろう。
「そういえば聞いたか?佐藤りえのこと」
「誰から?」
「今クラスで噂になってるんだよ、知らねえの?」
半分ほど食べたところで口に運ぶのをやめた。口の中でねりけしでもこねてるのかと思うくらい、食べるという行為が不快でたまらない。
「僕が知ってるわけないだろ」
「じゃあ教えてやるよ」
汚れた口の周りをティッシュで拭く。食べかけのパンの袋にそれをそのまま押し込む、ゴミ箱まで持っていくのは後にしよう。
「隣のクラスのやつが佐藤さんと同じ中学だったらしいんだけど、成宮中らしいよ」
「ふーん」
あまり興味のない話を延々と話し続ける。よくもまあこれだけ話題が尽きないものだ。
「どうにも中学の時も来てなかったらしいんだよな、こういうのってあんまり触れない方がいいんじゃねえの?」
「裕介にもそんな気遣いができるんだ」
「・・・・怒るぞ?」
「冗談冗談」
食べるのにも飽きたし話に付き合ってやるか。
「それで?噂ってそれだけ?」
「それだけ」
「噂ってほどでもないね」
不満だったのか、裕介は唇を尖らせてみせた。アヒルともなんとも言えない、奇妙な形だった。
「でもさ、誰か立候補したのかな?」
話題が次の話に移ったと思ってもまた佐藤さんの話だ。うんざりしながらも話に付き合う。
「誰も行かないだろ」
そんな噂が流れているなら尚更のことだ。
「そうだよなあ」
「裕介行けば?」
「なんで俺が?」
「好きそうじゃないか?」
「お前、適当言うなよ」 裕介が頭を抱えた。自分から話題は振ってもこいつは行かないだろうな、この空気を楽しむための、野次馬根性みたいなものだ。
「あと4日だぜー、香山ちゃんのことだから誰もいなかったら強制的に誰か指名しそうだよなー」
「そうかもね」
もしそれが現実になるなら、指名されるのが僕じゃないのを願うばかりだ。誰がそんな面倒くさいことをしたがるもんか。
「あ、そろそろ物理の準備しないと」
話を続けるのが億劫になってさっさと次の授業の準備を始めた。裕介も「そういえば」 と言って自分の席に戻ろうとした。
「あ、裕介」
「なに?」
「立ったついでにこれ捨てといて」
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