第15話.トイレの後は手を洗いましょう

よく晴れた昼休み。購買で昼食を買うために教室を出る。教室の中はクーラーが効いているから涼しいくらいだが、廊下に出た途端、ムワンとした空気が全身を覆った。


登校途中、昨日は父さんと久し振りに話したと言うと「よかったなあ!」 と心から喜んでくれた。面倒くさがりの僕が裕介と友達を続けていられるのは案外そういうところに嫌味を感じないからかもしれない。


「お、購買?」


1年生用の男子トイレの前を通りかかるとちょうど裕介が出てきた。チラリと手に目をやると濡れていなかったので手を洗わずに出てきたんだろう。・・・・なんでこいつと友達でいるのか少し分からなくなった。


「うん、今日はなにか食べようかなって」


手くらい洗えよ、と思いつつ答える。裕介から見るときっとものすごく嫌な顔をしていることだろう。汚い手で近付いてほしくないものだ。


「なら奢ってやるよ!久々に親父さんと話したお祝いだ」


そんなお祝いするほどのものじゃないんだけどな。別居してるわけでもないし、一応同じ家には住んでるんだから。とりあえず手くらい洗えよ。


「じゃあお言葉に甘えるけど、その前に手洗えば?」


裕介に手を洗ってないことを指摘すると「あ、バレてた?」 と少しばつが悪そうに苦笑してみせた。僕がこだわり過ぎているわけではない。一般常識のはずだ。


「幸一がうるさいから久々に洗ったぜー」


・・・・はずだ。


「焼きそばパンでいいだろ?」

「まだ残ってればね」


コッペパンに焼きそばを挟んだだけの食べ物がなぜあんなに美味しいのか。正直購買の商品はあまり美味しくない。普段ならそれでも構わないのだが、姉のせいで最近食べることに楽しさを見出しつつあるのでなるべく美味しいものを食べたい。


階段を下って職員室の前を通って廊下の突き当たりを左に曲がれば購買がある。裕介の冗談に付き合いながら少し早足で購買までの道を急いだ。


無気力人間に食べる楽しみを覚えさせた姉の罪は重い。

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