第45話.LINE

「あれ、母さん」


「あれ、じゃないわよ」 やばい、子供の頃の記憶が蘇ってきた。母さんは門限にとにかく厳しかった。小学校の頃、門限を破ると家に入れてもらえないことなんてザラにあった。


僕が中学校に入ってからは夜の時間もパートで働き始め、ほとんど家にいなかったのですっかり油断していた。


「今何時だと思ってるの?」

「えと・・・・10時半」

「まったく、連絡してくれればよかったのに」

「ごめん」

「早くお風呂入って寝なさいよ」

「うん、えっ?」


もっと怒られて外で頭を冷やしてこい! とか言われるもんだと思ってたから想像以上に優しい母さんに面食らってしまった。


「怒らないの?」


動揺してつい、聞いてしまった。


「あんたも高校生でしょ? 大人じゃないけど子供でもないんだからそれくらい遊んでも何も言わないわよ」


自分の母親ながら寛大さに頭が上がらない。「警察にだけは気をつけるのよ」 とだけ言い台所に向かって行った。多分ご飯の作り置きでも作るんだろう。


促されるままにお風呂に入った。自分の腕を見てみる。もちろんなんの変哲もない、この年頃にしては少し筋肉量が少ないかなくらいの綺麗な腕だ。


今日のことと言い、僕は両親に恵まれたと思う。共働きで家にいることは少ないけれど優しさも厳しさも兼ね備えた尊敬できる両親だと思ってる。


風呂から上がって部屋に入るとスマホが音を立てた。裕介だった。


>明日のバーベキューなんだけど、昼から買い出しに行くから一緒に行こうぜ~


あ、そうだった。そういえばそんなこと言ってたなあ・・・・・・。


>今日楽しかったよ! 明日はどうする?


時同じくしてりえからもLINEがくる。ごめん、明日はちょっと用事があって遊べない。


>ごめん、明日クラスでバーベキューするらしくてそっちに行かなきゃいけない


まずりえにLINEを返して、次に裕介に返す。


>いいよ、明日何時にどこに行けばいい?


>あ!じゃあさ、幸一くんにお願いがあるんだけど


>明日2時にドリームで!


ちょ、ちょっと待ってくれ。2人と同時にLINEするのってこんなに忙しいものなのか? まるで課題の締め切り前日に数学と現代文を同時にやってる気分になる。


>え!?うーん、まあやってもいいけど


>了解。2時にドリームね


2人でLINEのテンションが違うから、自分の人格が別れてしまったような感覚だ。


>本当? よろしくね! 楽しみだな~


>あ! あと会費なんだけど


えーい、もういい!


スマホの通知を切って部屋の電気を消した。


もう僕は寝る。頭がおかしくなりそうだ。

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