第46話.バーベキュー

「おーい! 井上! 裕介! お前らが最後だぞ!」


僕は胸ポケットにスマホを忍ばせてバーベキュー会場へと向かった。意外と参加率は高くて、クラスの連中の4分の3くらいは集まっていた。


流石にそんな人数で一つの鉄板を囲むわけではなさそうで、5つほど割と大きめの鉄板が用意されていた。一つを中心に、四隅で取り囲むように配置されている。どの鉄板に行くかはくじ引きで決まって、僕はなんとか真ん中を避けれて四隅の一角の鉄板になった。


「井上くん、よろしくね」

「あ、よろしく」


バレー部の石田さん。卓球部の船井。同じく卓球部の春日。吹奏楽部の京山さん。サッカー部のマネージャーの森本さん。そして帰宅部の僕。


なかなかこの班はバランス良く配属されたと思う。なにより京山さんは僕と同じ匂いがする。陽と陰で言うと陰の方の人物だ。その他もカーストは同じくらいの人ばっかり。


石田さんだけは綺麗な髪とその容姿の端麗さでスクールカーストは最上位レベルだが、カースト下位の僕やその他とも嫌な顔ひとつせずに喋れる人格者なので僕にとってはこの上ない班分けになった。


「じゃあ始めるよー」


自然とこの班の仕切り役は石田さんになった。誰もやりたがらないのだから、仕方ない。


肉、野菜、肉、肉、肉・・・・・・。


比率おかしくないか? まあでも高校生のバーベキューなんてこんなものだろう。


「ねえ石田さん」


京山さんが石田さんに話しかけている。教室ではあまり見かけない光景だ。


「これ企画したのって誰なの?」


そう言うと他の連中も「俺も気になる」 「私も」 とそれに続いた。確かに、僕も気になっていた。それに石田さんに聞いたのは正しいだろう。だいたいこういう系のイベントはカースト上位の人間が発案し、みんながそれにならうという図式がある。


つまり石田さんならなにか知っていてもおかしくない。


「裕介くんだよ」


へえー、裕介が。あいつも粋なこと考えるなあ。みんなも「裕介くんか」 「納得」 「あいつの考えそうなことだ」 と普通に納得していた。


「そういえば井上くんは裕介くんと仲良いよね?」


石田さんがそのままの流れで僕に話題を振った。なんて自然なんだろう。「幼馴染なんだ、家も近いし」 なんだか自然と会話ができてる自分がおかしかった。


その後も会話は途切れずに続いた。これがスクールカースト上位の人間か・・・・。全員から満遍なく話題を引き出した石田さんが恐ろしくさえも思えた。


中学の時の部活。修学旅行の思い出。過去に何人と付き合ったか。なんでこの高校に来たか。今好きな人はいるのか。


特に好きな人がいるかのところは盛り上がった。唯一森本さんは彼氏持ちで中学の時から付き合っていたらしく、そっちにも関心が集まった。


意外だったのが、石田さんが現在片思い中ということだ。相手が誰かは教えてくれなかったが、船井も春日もソワソワしながら聞いていた。まあ、つまりそういうことだ。


もちろん話題の矛先は僕にも向いた。


「井上くんは?」

「んー、僕はいないかな」

「あー、井上ならいなくてもおかしくない」


「わかる」 「確かに」 普段のクラスでの行いが幸い(?)して僕への興味はそれだけで過ぎ去った。


とにかく、大成功でバーベキューは幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る